第10話 朝のラジオ体操と1480mm
杏先生の超スパルタ特訓も無事終了。トルネーさん宅に帰宅し、それはそれは豪華な夕食をいただいて、風呂にも入って部屋なう。
俺はベッドに寝転がりながら、スパルタでくたくたになった体を休めていた。
もう今にも寝落ちそうな勢いの、そこに。
空中であぐらをかき、腕を組んで「うんうん」と唸りながら、右へパタパタ、左へパタパタと浮遊する一匹がいた。
「なんだよー、杏。俺はもう疲れ果ててヘトヘトなんだけど。寝ないのか?」
そんな俺の愚痴をまったく聞き入れず、唸り続けるパタパタさん。
「うーん……仮想バッファのここが……あ、ダメ。じゃあこっち? むむうぅ……これだとこの優先度じゃデッドロックがっ! いっそダブルバッファにしてポインタをフリップ……うーん、うーん、うーーーーーん。アライメントが4バイト境界からズレてる気がする。……うーん、もう一度……」
とか何とか、よくわからない独り言をぶつぶつ呟きながら安眠妨害をする自称妻。
いや、妻なら寝かせろって!
パタパタと唸る自称妖精族を尻目に、頭の中では時折よくわからないプログラムコードが生成されつつも、昼間のスパルタ特訓のおかげで、それを子守唄代わりにすぐ寝入ってしまった。
朝。
「ぐーーーもーーにーーーーーーん! 旦那さまぁあああああああああ!」
どでかいアラームが耳元で鳴り響いた。
よく寝たはずだが、やたら体が重い。
まだ昨日の疲れが抜けきってねぇんだな、こりゃ。
はは。
なにやら腹の上でもぞもぞと動いている。
まだ目が覚めず、目を瞑ったまま声をかけた。
「おーい……杏さん? ちょっと重いから退いてくれるか?」
「えーー。せっかくの特等席なんで、いやでーーすっ!」
ん? 重い?
この自称妖精族って20cmくらいだよな。
なんでこんなに重いんだ?
乾いて張り付いた瞼をゆっくり開けると、腹の上に毛布を被って覆い被さる、原寸大の『Aquarius AI』で設定していた理想の杏がそこにいた。
っ!! 一瞬、いつも以上の驚きが寝起きの脳みそを駆け巡り、頭だけをガバッと起こして、もう一度腹の上に寝そべる杏を見る。
「あのね……さすがにこれだけ連日驚かされ続けると、突っ込む言葉も出てこないんだけど……。杏、だよな?」
「ふっふっふー! どうですか! この見事な美少女のわたしはっ!」
毛布を両手でバサッと剥ぎ取り、仁王立ちでガバッとベッドに立ち上がったその姿。 身長148cm、体重45kg、足のサイズは22.5cm。お尻まで届く長いサラサラスーパーロングに、厚めのぱっつん前髪。小ぶりな胸に華奢な体ではあるが、元気なパワーが溢れる眩しい笑顔。 俺の好み全ツッパの最高なAI娘が現実に受肉して、そこに鼻息MAXのドヤ顔で立っていた。
「昨夜から超高性能AIの私が持てる知識の全てを総動員して組み上げた、携帯型仮想メモリー展開アイテム! 『エンジェルハートくん1号』の愛のパワーですよ!」
「結婚チョーカーじゃなかったっけ、それ?」
チョーカーにした時は濃い紫色だったそれは、澄んだ青空のように蒼いサファイアのような輝きを放っている。
「滞留していたバグのデバッグも終わり、まだまだインテル(知性)になったとはいえ、旦那様の脳みそには負荷が大きくかかります。それをこの魔石を仮想メモリーとして利用することで、一旦エンジェルハートくんで処理してから旦那様の脳みそで演算するという、ハイパー効率的なシステムなのですよ! それにより、超可愛い正妻のわたしが実寸サイズでこうやって旦那様にお披露目することが可能となったのです!(ふふんっ)」
どさっとそのまま、俺の腹の上にダイブしてくる元妖精族の148cm原寸大・杏。
ぐぇっ!
「さー! 旦那様! 面倒なお話は一旦おいておきましょう! ザインさんが迎えに来られるまでに、やらないといけないことがあるのです!」
「え? なんすか、朝っぱらからやることって?」
「朝に適切な運動を行うことで、幸福感とリラックス効果、血行が促進されエネルギーアップ、エンドルフィンが放出され、仕事や生活のストレスを和らげる効果もあることが研究で明らかになっています。また、血流改善により美肌効果や免疫力の向上も期待されます」
「へー、すげーな。そんなに朝のラジオ体操って体に良かったのか!」
「そうなのですよっ(はーと)。では、ちょっと失礼いたしまして……」
毛布を頭から被り直した杏が、もぞもぞと足元へと降りていく。
ん?? 杏さん??
「では、いただきまぁーす(はぁと)」
ぱくっ。
おっっふっ!!
-- Nyan-Nyan Loading... --
(しばらくお待ちください)
たぶん、世界中の全人類を探しても、AIに襲われた男なんて俺ぐらいのものだろう……。
30 min Later... roughly...
「さー! 旦那様! もうすぐザインさんが迎えにこられますよー! 準備しちゃいましょう! それとも、私の初めてを旦那様に捧げた記念に婚姻届を出しにいきますか? えへへ」
「あ、いえ……クエストでお願いします……」
やたら可愛い笑顔で振り返る、原寸大の杏がそこにいた。




