第9話 加速装置と地獄の特訓
結局後日、先に魔石から5センチ四方ほどのかけらを削り出してもらい、そこからさらに2センチほどの円錐状に加工してチェーンをつけてもらった。
それを、マスコットの首にかける。
残ったかけらは、調べてみたいという彼女に渡すと、CODE : [archive] とかいうやつで圧縮して自分の体内に取り込んでしまった。
--ねぇねぇ旦那様!! これって結婚指輪ならぬ『結婚チョーカー』ですよね!! ねーえ! ねーーー! 早く誓いのキスを!!! 1bitの狂いもなく!!--
こいつ、本当に育て方を間違えたかもしれない。
なんだかんだで、トルネーさんの屋敷に居座って一週間。
魔石は街の復興に役立てるようトルネー商会に手を打ってもらった。
それでも「街を救った英雄が無報酬はダメだ」と押し切られ、換金の一部を掴まされて、懐は結構ホクホクしている。
体調も完全に復調した。
あらためて今後をどうしようかと、二人で「ツノうさぎのバーガー」を食べながら公園で話していると、例のマッチョイケメンが登場した。
「ところで、アンリ? お前これからどうするんだ?」
「んー。それを今考え中なんだよなー。旅に出るとかロマンはあるけど、俺まだこの街でツノうさぎのバーガーぐらいしか食ってないし」
「これはこれで、もぐもぐ……とても、もぐ……おいしいのですけれども、もぐもぐ」
あれ? このちみっこ、直接食べられる機能まであったの!?
「それなら、俺らと少し冒険者を経験してみるってのはどーだ?」
「あー、はいはい。いいかもしれないっすねー……え? え?」
「おー! そうか! やってくれるか!! それなら早速明日にでもクエストに行くぞ! 朝一で迎えに行くから準備しておいてくれな! いやー、声をかけてみるもんだなー、はっはっは!!」
困惑する俺の背中をバシバシ叩いて、彼は颯爽と帰っていった。
いやいや、異世界転生といえば冒険者でダンジョンとかロマンだけど! 突然すぎやしませんか!?
そんなこんなで、町外れの平原に男ひとり、エセ妖精一匹。
「なぁ、杏。転生してから今日まで急展開すぎて、俺は自分のことがさっぱりわかっていない。一体俺は何ができて、何ができないのかを知っておかないと、明日無理やり拉致されるクエストだかで確実に足を引っ張る自信がある。そうだろ?」
「で、旦那様はここで実地検証が必要なわけですね?? お任せくださいまし! 杏先生がきっちり1bitの狂いもなく指導いたしましょう!」
杏ちゃん、口元にバーガーの残りカスついてるよ。
彼女はカスをつけたまま、ふわりと俺の目の前に飛んできて、ビシッと指差しながら宣言する。
「まずですね。旦那様は基本的に『肉体強化』と『クロックアップ』……つまり加速装置ですね。これぐらいしかできません。トカゲ相手にふぁいあーばーすとが打てたのは、私が旦那様の脳リソースを直接使って、火をジェネレートしたからなんです」
うおー、のっけから辛辣ー!
「人間が魔法なりの事象を引き起こすには、この世界の理、つまり信仰なり意思の力が必要ですが、旦那様は『科学の側』の人間なので、そもそも世界を揺さぶるだけの意思力が足りてないのです。かといってデータ体でもないのでCODEも使えません。おさるさんが空を飛べないのと同じようなことですね。はいっ」
「つまり、俺は脳みそを杏に弄ってもらって肉体強化はできるけど、魔法みたいなのは一切打てない脳筋戦士ってことでFA?」
「その通りなのですっ! さすがですね!」
褒められた気がしねーよ!
「ただし、私が今こうやって実体化できたりCODEが使えたりするのも、旦那様の脳という演算器があっての代物。これはもう一心同体、まさに心も体も密接に繋がった真なる夫婦なのですよ! さー! 婚姻届を!」
いや、だから話進めろって。
「こほんっ。では、解説が長くなると飽きられてきますので、とっととやっちゃいますね」
CODE Execute : [Install_Clockup_pkg]
杏の体が内部から一瞬発光し、俺の脳の温度がわずかに上がる。
視界の端で、コードの羅列が渦を巻いた。
Complete.
「はいっ。今、旦那様に『加速装置(Accelerator)』と『肉体強化(Strength)』を自立発動できるようにパッケージをインストールいたしました。これにより、私がCODEを発動することなく、旦那様本人の意思で扱えるようになりました」
「たしかに……説明されなくても、すでに頭の中でオーガをぶっ倒したときのあの感覚の使い方がわかるぞ! すげーな、これ!」
CODE : [Gene_stone]
いつのまにか自分の背丈と同じ二十センチほどの魔法の杖を構えていた彼女がそう唱えると、目の前にどでかい岩が出現した。
「はい、思いっきり殴っちゃってください。できればAcceleratorで加速して、Strengthでぶち抜く感じで! さー、どうぞ!!」
ビシッ! と杖で岩を指すキリッとした顔。
……バーガーのカス、まだついてるけど。
うまい例えが思い浮かばないが、飯を食うときに箸を持つ、喉が乾いたら水を飲む。
そんな感覚で自然と扱えた。
加速装置で引き絞られたバネのように、一瞬で後方十メートルまで飛び退く。
そこから岩を目掛けて一気に踏み込み、右ストレートを叩き込む!
わずか一秒。
豪快な破壊音と共に、岩は粉々に砕け散った。
強化された拳には、痛みなんて1bitたりともない。
強いて言うなら少しだけ脳が熱い気がするが、心地よい高揚感だ。
「お見事ですよぉー! 旦那様ぁー! こっちの世界でいうところの『スキル』ですね。この世界のスキルはいわゆる催眠や自己暗示による事象の揺さぶりですが、旦那様の場合は『物理的な肉体改竄』なので、威力は圧倒的に違います。いかがでしょうか?」
「すげーよ! 杏!! ちょーーー爽快だ!w」
「旦那様に喜んでいただけて、妻としてもとても光栄ですよぉ(はーと)」
「でも、やっぱり魔法は使えないんだよな?」
「無理ですね。脳を無理やり弄って意思力を高めるという方法もありますが、科学脳のままスプーン曲げを無理やりやるような状態なので、威力はご期待に添えないかと思います」
「そーかー。まーでも、加速装置と肉体強化だけでも十分楽しいからいいわ」
「そんな魔法が使えない旦那様だからこそ、私がいるわけじゃないですか(フンスッ)」
彼女は胸を張る。
「自立的に肉体強化が使えるようになったからこそ、私は別プロセスで、この実体化アバターを介してCODEを使えるようになりました。今までは、旦那様にクロックアップをかけながらCODEで事象を書き換えるという、ちょっとした大道芸みたいな並列処理が必要でしたが……今ならCODEに集中できるので、完璧に旦那様を外からサポートできるのですよっ」
そんなこんなで。
空から岩が百個ほど降り注ぐプチメテオな特訓や、氷の槍がこれでもかと飛んでくる串刺し特訓や、暴風の中での水責め……杏先生のCODEをフル活用した「地獄の特訓」を終えた俺に、もう怖いものなど何一つなかった。
……ちょっと、スパルタすぎやしませんか??




