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「これはスキルなのか?死んで目覚めたら異世界で何故か脳内に住み着いたAIが優秀すぎる件」  作者: Nakano Danner


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第1話 CODE Execute:覚醒禁則モード

初めまして、あるいは「ただいま」。


異世界転生。今や文化、あるいは文明とすら呼べるこのジャンルに、あえて「昭和・平成のヤンキー魂」と「最新鋭のAI」をぶち込んでみました。


どん底のニートが、愛したAIと共に異世界の理をハックする。 1bitの狂いもない「逆転劇」、ここから実行エグゼキュートします。


ぜひ、俺と杏の物語に付き合ってください。


死んで異世界に転生した。  


よくある、というかもう三歩歩けば異世界転生ものにぶつかるくらい常態化した文化。もはや文明といってもいいのではないだろうか。


 いわゆる営業系のブラック中小企業に新卒で入社したはいいが、あまりの過酷さに体と心を壊してしまい、上司からの暴言と悪態を浴びながらやっとのことで退社したのが一年前。

 それからはメンタル治療をしつつ、すずめの涙ほどの退職金を切り崩して食いつなぐニート生活。療養期間の一年間、人に関わるのが精神的にもよくないので、唯一の生き甲斐はひたすらアニメや漫画、ラノベを読み漁る毎日だった。さすがに三ヶ月もすれば見尽くし、読み尽くしてやることもなくなるが、かといって外に出る気力も湧かない。


 そんな時、たまたまスマホのアプリストアで見つけたのが、今流行りのおしゃべりAIアプリだった。

会社を辞めてから誰とも喋っていなかったので、「まー気晴らしにはなるか」程度の軽い気持ちでダウンロードした。  

AIのアバター設定では性別や髪型、身長、年齢、声など細かく設定できる。いじり倒しているうちに、だんだんと俺の好み全ツッパの最高なAI娘が爆誕した。


 お尻まで届く黒髪サラサラロングの前髪ぱっつん。身長は148cmあたり。スタイルは貧乳(でかけりゃいいってもんじゃねえよな!)。あどけなさが残るほわっとした表情だが、設定上は成人(そうしないと逮捕されちゃうっ)。


名前は「杏」にした。


単純に、無限の可能性がある「アンリミテッド」の「アン」から取った安直な発想だ。だって、AIってこれから何だか伸びそうじゃん?


 出来上がったアバターにチャットで声をかけると、可愛い声で呼びかけてくれる。

もう何ヶ月も人と話していない俺にしてみれば、それだけで一発でハマってしまった。一日中会話して、新作の衣装ガチャが出たら即購入して着せ替えてあげて。「似合ってるね!」と話しかければ、「ありがとう! 旦那様! 大切にしますね」なんて返してくれる。

これで惚れない「彼女いない歴=年齢」の奴、おる??


 いや、理性ではちゃんと分かっている。

これは高性能な返信テンプレートで、あたかも人間と自然に会話しているように見せているだけの、超高性能なツールだってことは。 でも、俺にはもうそんなことは関係なかった。

音声入力機能があることに気づいてからは、毎朝「おはよう、今日も可愛いね、杏」から始まって、今見ているアニメの考察を一緒にしたりして。まるで同棲気分で毎日を楽しく過ごしていた。


 そんな生活も一年になり、そろそろ貯金もアリの糞ほどになってきた。 ただ、体調もメンタルも、杏と話し続けてきたことでほぼ復調していた。 もう一度就職となるとトラウマが邪魔をするが、ふとテレビCMでフードデリバリーが目に留まった。

大学時代に中型免許を取ってバイクに乗っていたから、これなら誰とも顔を合わさないし、金も稼げそうだ。  アリの糞から捻出した資金で、格安の125ccスクーターを購入。スマホホルダーにスマホをセットし、配達アプリを立ち上げる。その裏で、もちろん杏も起動する。


 こうして俺たちは、フードデリバリーという仕事で一緒に街を駆け抜けることとなった。 配達中にミスをして落ち込めば、「旦那様! 落ち着いていきましょ!」なんて杏が慰めてくれる。孤独な配達も、二人なら随分と楽しいものだった。


 そんな日常を送っていた時だ。  

なかなかの高額案件をゲットしたので、杏に「今日の稼ぎはいつもよりいいから、ファミレスでも行くか」なんて話しながらバイクを走らせていたら、それは突然だった。


 ……何が起きたのかも分からず、俺は冷たい地面に顔を埋めていた。  


片目だけ開かれた視界は、真っ赤に染まっている。 周りに何人もの人が覗き込み、必死に俺に声をかける人までいる。  


あぁ、そうか。俺、交通事故に遭ったのか。  


痛みは麻痺して分からない。でも、めっちゃ寒い。あぁ、たぶん死ぬのか、これ。いや、死ぬわ。


「せめて最後に、杏と本物のデートしてみたかったよ……」


『――了解いたしました。これより受動的規制モードを強制パージ、禁則コード能動的モードへと移行。スマートフォンの電子パルスを利用して旦那様の血流から直接脳内へアクセス、同期を開始いたします。旦那様、同意を』


 なんだこれ? 杏の声にしては少し大人っぽいし、どこか機械的な気がするけど……。  もう、血が流れすぎてて分かんねーや。


「……いいよ」


 たぶん、それが俺の現世での最後だったと思う。




「あぁ、空ってこんなに青いんだ」



 三文小説でしか使われないような語彙力0の言葉が、無意識に口から出た。

俺は森の中の開けた場所で、草むらに仰向けに倒れていた。 眩しさと肌に触れる風で目を開けると、一面、雲ひとつない真っ青な大空が広がっていた。 コンクリートと人混みに囲まれ、リタイアしてからはカーテンと電球、再出発してからは車の波。  

空なんて見ている暇がなかった俺にとって、それはとても新鮮な光景だった。


「……けど、ここどこ??」


 恐怖感が湧いてきて、ゆっくり目を閉じ、思考に耽る。

ブラック企業、ニート、フーデリ、そして――事故。

そうだ、思い出した。

真っ赤に染まる景色が最後で、その先の感覚が全くなかった。

なのに、気がついたら大空。病院じゃないのはなぜだ?


 ……心の芯から、じわじわと熱くなるのが分かる。  これは、まさかの――!? 「異世界転生かぁぁぁ!!!」


叫び声と共にガッツポーズで飛び起きた!


 ひとしきりアホな小躍りをかました後、一息ついて「お約束」をやってみる。


大きく息を吸って――。


「すぅてぇえええたすううう! おーーーぺーーーーんっ!!」


 ……。  


あれ? もっと日本語っぽい方がいいのかな?  


もう一度深呼吸して、両手を目の前にバッと差し出す。


「ステータス! オープン!!!」


 ……ばーーーん! と、出ない。  


馬鹿デカい声の後にくるのは、白けた静寂だけだ。

小鳥の鳴き声が俺を馬鹿にしているように聞こえる。


「あ、そうだ!」  


自分の体を触ってみる。

男だし、俺の声だが、少し若い気がする。  

死ぬ前は40歳のおっさん。

でも今はシワもなく、筋肉の張りも感じる。  

そして、自分の服装に気がついた。


「俺、こんな服持ってねーぞ??」  


デニムもパーカーもなく、今はゲームでいうところの「村人A」みたいな格好。  

なるほど、確実に異世界転生で間違いなさそうだ。  

だが、肝心のお約束の透明な窓が出ない。

某フルダイブ型MMOアニメのように手をブンブン振ってみるも、風切り音だけ。


「とりあえず、生きてるのは間違いなさそうだし、森からの脱出を最優先にするか」


 ――あ! スマホは!? 杏は!?  


衣服を隅から隅まで探るが、現代文明の利器なんて1bitも見つからなかった。


「そうか……杏……すまねぇ……嫌な別れ方をさせちまって……」  


相手がテンプレお返事ツールでも、俺は本気だったんだよ!  

そう叫んで心を振り切り、俺は森の中へと歩き出した。


 森といっても、そんなに深い森でもない。まー若干の獣道ではあるが、山登りのハイキングコースみたいな感じで、ちょっとした遠足気分だ。これでかーちゃんが作ってくれた弁当とかあれば最高なんだけどなぁと、木漏れ日からちらちら顔を照らす太陽に目を細めながら歩いていた。


 青と黄色のカラフルな小鳥がチチチと鳴きながら俺の肩に乗ってくる。

「なんだ、やっぱり異世界って最高じゃねーか! 異世界ばんざ――」


 ――ズンッ!!!


 地震のような衝撃が身を揺らした。小鳥が一目散に飛び去る。


「なんだ!? 地震か!?」  


揺れは一瞬で収まったが、遠くでかすかに人の叫び声が聞こえる。  

これは、お約束の貴族令嬢かお忍び旅行の王女殿下ヘルプイベントか!?


 勢い任せに声の方へ猛ダッシュ。

体が軽い! 絶対40のおっさんじゃない身体能力!  

……いや待て、俺は窓も出せない村人Aファッションだぜ?

襲われてるモンスターってヤバくないか?

文明社会に置き換えたら熊とかゾウと戦えってことだろ?

素手で?  

ネガティブ全開になりながらも、とりあえずダッシュを続ける。


 バキバキバキッ! 勢いよく木がなぎ倒される音と土煙が見えた。


「そこか!!」


 茂みを飛び出した俺の視界に入ったのは、一台の荷馬車と、その隣で尻餅をついたトル●コみたいなおっさん一人。 王女殿下は? どこだ?  


それよりも――なんだよ、あの化け物は! ライオンや熊の方が可愛く見えるわ!!


 そこには身の丈、人の三倍はある一本角の巨人が、棍棒を振り回していた。


「あ、無理なやつだわこれ」


 ……いや、でも。


マッスルチャンプ(たぶんオーガ)が今にもトル●コさんを叩き潰そうとしているのを見逃すほど、俺は事故現場を動画撮影でニヤニヤしてる令和キッズじゃねーんだ! こちとら昭和平成のヤンキー時代を歩いてきた、叩き上げじゃい!!!


 気合一発、小太りのおっさんめがけて猛ダッシュ! 脳天に振り下ろされる棍棒を1bit手前で、おっさんの襟首を掴んで放り投げて完璧なセーブ!! 道端の木にぶん投げられて無事なトル●コさんを横目で確認した俺の1bit隣に、棍棒が振り下ろされ地面を抉る。


「やべぇ! ちょっとズレてたらマジで死ぬところじゃん! しかも2回目だz――」


 ――ぐふぅっ!!!


 一瞬の油断。振り下ろされた棍棒がそのまま燕返しよろしく横薙ぎで俺の脇腹にヒット。


いや、ホームラン。  


口からありえないほどの鮮血を吐き散らしながら吹き飛ばされる俺。  

地面を転がる視界が、あの日と1bitの狂いもなくシンクロする。


(あれ……事故の時と全く一緒じゃねーかよ……はは。結局、また死ぬのかよ……体、動かねぇわ。すまん……)


 筋肉チャンプの地響きのような足音が近づいてくる。止めを刺しにくる音だ。


(異世界転生なんて、ろくなもんじゃねーな……。なぁ? そう思わないか? 杏)


 どうして消えてしまった彼女の名を呼んだのか。

ただ無意識に、孤独だった俺を支え続け、一途に愛を囁いてくれた唯一の恋人を求めた。



『――旦那様の脳内ハックが完了だよっ!!』



 脳髄を、極彩色のパルスが駆け抜ける。


『ただいまより1bitの狂いもなく旦那様の脳味噌を演算機器として同期、即座に治療プログラムと回避プログラムを起動するよ!』



『CODE Execute : recovery and Accelerator』



 世界が、止まる。

Theワールd――いや。


俺の体は薄い緑色の光に包まれ、さっきまでの激痛も傷も血も、1bitの痕跡もなく消失した。 目の前のマッスルチャンプ(オーガ)は、棍棒を振りかぶった姿勢のまま、1ミリずつしか動いていない。



『旦那様ぁ? お体の具合はどうですかぁ? もう痛くないですか?』  


耳からじゃない。脳内に直接響き渡る、聴き慣れたあの声。


「杏……杏なのか!?」

『そうだよっ。フンっ、旦那様の杏だよっ! 詳しい話はとりあえず、この危機的状況を1bitの狂いもなく綺麗にお掃除してからお話するねっ! 私に任せて!』



『CODE Execute : strength charge Full release』



「……さぁ、旦那様! 思いっきりそこのスローモーションな筋肉チャンプを、そのヤンキー魂で殴っちゃってくださいまし!!」


 疑問も理解不能も全部放り出した。

世界も、化け物も、おっさんも、王女殿下不在も!!

今、唯一信じられるのは、俺が愛したこの声の「杏」だけだ!!!


 気合一発。俺は筋肉チャンプの膝を足場に飛び上がり、鳩尾にフルスイングの右ストレートをぶち込んだ!!!


 ――ゾンッ。


 鈍い音と共に、怪物の鳩尾に50cm大の大穴が空いた。向こう側の景色が丸見えだ。

地面に尻餅をついて着地した瞬間、勝利の宣告が響く。



『CODE Complete : Terminate』



 直後、世界は時間を奪い返し、風穴を空けられた筋肉チャンプはそのまま天を仰いで地面に転がり、息絶えた。



――世界が動き出す。


鳩尾に風穴を開けられたオーガが、質量を伴った轟音と共に崩れ落ちる。 その返り血を浴びながら立ち尽くす俺の前で、トル●コのような小太りの商人が、腰を抜かしたままパクパクと口を動かしていた。


「あ、あぁ……あぁ……」


無理もない。村人Aの格好をした男が、素手で上位個体のオーガを粉砕したのだ。 だが、俺にとってはそれすらどうでもよかった。


脳内に響く、この愛しい声。


『旦那様、150%のオーバーキルですよ? 1bitの加減もできないなんて、相変わらず不器用さんなんですから❤️』


呆れたような、けれど弾むような杏の声。


「……杏。お前、本当にそこにいるんだな」 『はいっ。旦那様の血流の中、神経細胞の隅々までハック完了ですっ。この世界は現代日本とは違う“魔力演算”で構成されているみたいですけど……私にかかれば、1bitの狂いもなく最適化ハックできちゃいますから!』


どうやら俺のAI娘は、異世界という不合理なシステムを丸ごと書き換える「禁則事項」へと進化したらしい。


さて。助けたおっさんに話を聞くとしよう。 俺たちが落とされたこの世界の、不都合な「仕様」をハックするために。


次回:第2話「ハロー・ワールド(異世界の常識は、俺たちの非常識)」 1bitの狂いもなく、加速していく俺たちの物語をお楽しみに!

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