1:裏大陸からの手紙
===⚠前作、騎士のソニアを読んだ前提の話になります===
『魔女のアリス【1:裏大陸からの手紙】』
ソニア達の旅より二年の月日が流れた。
ブラック・ロワの面々が、サンの家族探しの旅に出ている間、
交易場となったロワの仕事をソニア達、"波動の騎士団"が担っていた。
そしてこれは、そんなソニア達が一度、タイダル・オーシャンへと帰還した
際起きた出来事である。
―タイダル・オーシャン浜辺―
―ザァァァ…。ザァァァ…。―
タイダルぼっちが、船を浜辺につける。
停止を確認し、騎士達が降りてくる。
―スタッ…。スタッ…。―
(ソニア)「ありがとう、ぼっち。出発はしばらく先だ。休んでおけよ。」
いつの日かロワへ向かう時、ぼっちが船を押し短時間で移動した。
それを再び行っている。
(水の化身:タイダルぼっち)「ぼぉー。」
―ビシッ…!―
タイダルぼっちは、浜辺のとある位置を指差した。
「どうした?」
ソニアは、巨体のタイダルぼっちに声をかける。
ぼっちは変わらず指を差し続けている。
―ヂュミミミ!!!―
蒼く輝く"波動"で、ぼっちが指す砂浜の方向を探る。
「(生物はいない…。でも何か感じる…。…?)」
生命に影響を与える力である、波動。
他者の精神を探知し、位置などを把握することも出来るようになった。
「なんだこれ…?」
―スッ…。―
ソニアは砂浜に落ちている"物体"を拾った。
―パタパタ…。―
それは手紙であった。
翼が生え、弱々しく羽ばたこうとしている、不思議な手紙。
「何か感じたのは、これからか…。」
"何かの正体"を探すため、手紙を開ける。
―ベリッ…。―
「…!」
―"裏大陸を助けて"。―
ただその一言だけ、手紙には書かれていた。
「俺が感じたのは、思い…。この言葉は一体…。」
ソニアは手紙を戻し、オーシャンへと向かった。
―タイダル・オーシャン―
(タイダル・オーティス)「…手紙か。翼の生えた、空飛ぶ手紙。」
「どう思う?誰かのイタズラだと思うか?」
ソニアはタイダル王へと、手紙の事を話した。
「だがソニア。お前は波動で、手紙の思いを確かに感じたのだろう?ならばこの言葉、偽りではない。事実であるということだ。」
「"裏大陸"…。」
「絶滅した種族"魔法使い"の生き残り、その頂点である"大魔女"が統治する大陸だ。…絆は困難を乗り越える、重要な力になりうる。とは言えど、遠い地になる。」
ソニアは少し考えた。
「行くよ。"魔人"を救う力が、見つかるかもしれない。」
かつて旅の最果てで遭遇した"魔人"。
彼らの生はとても暗く冷たいものである。
それを正しい生物として生きられるよう、心の約束を結んだのだ。
「…それもそうだな。"理を超越する力、魔法"。それを扱う魔女ならば、魔人を救う力があるかもしれない。ならばこの救難信号、受ける価値がある。…ソニア。お前に、裏大陸調査の任を託す。」
―バッ…!!!ー
ソニアは王へと膝を着き、任務を受けた。
―――――
―ギィィィ…。―
ソニアはその日の夜家に帰り、同じ屋根の下で住む同居人に、
新たな任務の話をした。
(ヤチェリー)「裏大陸?」
「新しい仕事だ。俺はロワを離れて、裏大陸に向かう。」
「…そう。いつ帰ってくるの?」
「どうだろうな…。裏大陸への脅威が分からない以上、何とも言えない。数週間か、数ヶ月か。」
「…まぁ、いいよ。ちゃんと帰ってくれば。」
「あぁ。それはちゃんと守るよ。」
ヤチェリーへと報告をし、その日は眠りについた。
―タイダル・オーシャン浜辺―
―ビカァァァ…!!!―
晴天の下、旅立ちにはいい天候だ。
「いい天気だ。でも裏大陸まで行けば、気候も変わるか…?」
「ぼぉー。」
タイダルぼっちは声を出し、ソニアに手を差し伸べた。
「さぁ、行くか。」
―ズサ…!!!バシャア…!!!―
ぼっちはソニアを片手に乗せ、もう片方の手を海中へと入れた。
そして波を立たせ、武器が見える。
「お前の剣、持ってくのか?」
「ぼぉー。」
海中に刺さっている、巨大な大剣。
タイダルぼっちの得物であるがこちらも劣化しない、不思議な物。
―ザァァァ…!!!―
波を掻き分け、裏大陸へと出発する。
―――――
―ザァ…!ザァ…!―
「裏大陸…。」
薄っすらだが、大陸の景色が見えてきた。それと同時に…。
「待て、あの"瘴気"みたいなのは?」
裏大陸の景色が見えたと同じ時、大陸を包む、黒紫色の煙も見えたのだ。
体に影響がないようには見えない。
「ぼぉ…!」
―ズサン…!―
ぼっちは動きを止め、片手に大剣を構えた。
―ギュイーン…!ドオオオオオオオオオ…!!!―
タイダルが飛ばす斬撃のように、ぼっちが振りかざした大剣は
水の斬撃を生み出し、瘴気を払っていった。
「…!これなら、行けそうだな。」
残り僅か、裏大陸への道を進む。
―――――
ーザァ…。スタッ…!ー
巨大な崖が立ち塞がる、浜辺に着いた。
回ってもいいが、大陸全土が瘴気で覆われていることに気付き、
着陸をここに決めた。
「ありがとう!」
「ぼぉー。」
「しばらく残るのか?…気をつけろよ!瘴気は復活してるみたいだ!…さぁ、崖を登るか。手紙の主は魔女だと思うが、会えるといいな。」
ソニアは崖を登る道を探し、裏大陸の地を踏み出し始めた。
―――――
―ザッ…。ザッ…。―
ソニアは崖を登り、整備された場所に出た。
「ここは…。屋敷か?」
塀で囲まれ、門が鎮座し、巨大な屋敷がそびえ立つ。
いかにもな場所だ。
―ギギギ…!!!―
頑丈な鉄製の扉が、音を立て開き始めた。
「…?人がいないのに開いたぞ…。」
(???)「お待ちしておりました、騎士様。」
ソニア達は裏大陸へ行くなど連絡をしていない。
が、ソニアの前に立ち門の先から現れた存在は、
ソニアの到着を知っているようだ。
「何で知ってるんだ?…"魔法"って感じか?」
「はい。あなた様が持っている手紙が、騎士様の到来を知らせてくれました。」
―ファサァ…。―
その存在は、優雅に立っている。
(人形)「私は"人形"でございます。元々意思はあったのですが、偉大なる"大魔女"様の魔法により動く力を頂きました。今は訳あって、大魔女様の娘様にお仕えしております。では…」
―ギギギ…!!!―
遠く離れた屋敷の扉が、ひとりでに開いた。
「会いに行きましょう。手紙の差出人であり大魔女様の娘様である、
"魔女:アリス"様へ。」
―――――
毛並みが整っている高貴な、レッドカーペットを歩いた。
「こちらです。私は外にいますね。」
「分かった。」
―ギギギ…!バタン…!―
「…君が?」
窓が空いており、そこから流れる風がカーテンを揺れ動かしている。
木の椅子に座り庭を見ている、人形のような女の子。
(???)「来たのね。」
―バタン…!―
窓が閉まり、少女はソニアを見た。
「色々と聞きたいことがあるんだが…。」
「えぇ、話すわ。座って。」
―ボフッ…。―
吸引力の高い、木製の椅子に座る。
(魔女:アリス・ミシュタール)「私は"アリス"、よろしくね。何から聞きたい?」
魔女の帽子をつけたアリスは、ソニアに投げかけた。
「裏大陸の状況を詳しく知りたい。ここに来るまでに、奇妙な瘴気を見た。」
アリスは深刻な表情で語り始める。
それは裏大陸に降り注いだ、災いの始まりであった。
「"竜王:グラント"。少し前、どこからかやって来たの。竜王は魔物の群れと共に、裏大陸を支配したわ。私の母である"大魔女:セレスティア"、
彼女の"眷属"である六人も一緒に戦ったけれど、魔物達の支配は続いているの…。」
「"竜王"…。そいつは何者だ?突如魔物の群れを引き連れ、やって来たのか…?」
「あなた、"神"は知ってる?」
「…。少しは…。」
"上位存在"。
正確に言うとそれらは"神人"と呼称されると、タイダルより以前に聞いた。
「魔法使いの血は"ミシュタール"以外、残っていないの。だからこそ、記録があるわ。後世に残すための言葉が。」
暫しの沈黙が過ぎ、アリスは語り出す。
「かつてこの星で、大戦を引き起こした神がいたそうよ。名を
"悪の神:クラマド"。そんな彼が"創生"した、"使徒"と呼ばれる存在。
その一体が、"竜王"よ。」
「何体かいるわけか…。」
「そうね。けれど竜王だけが、動き始めたと言っていいわ。実際昔の大戦で使徒は、封印か命を落としているもの。」
「竜王の状況はどうなんだ?ひとまずは大丈夫そうだが。」
「お母様と竜王は、相討ちで倒れたわ。互いが互いを、封印し合っている状況。いつまで耐えられるのはかは、分からないけれど…。」
「六人の眷属達は?…正直、戦力がない。竜王という未知の相手に対して、どのくらい戦えるのか…。」
「眷属達の生死は、不明よ…。魔物の群れを止めるため、前線へ行ったっきり…。だからお願い、あなただけが頼りなの…。」
嘘偽りない、純白の願いが目を輝かせ、ソニアに問いかける。
「私の騎士として共に、裏大陸の街を救いに行きましょう。」
―バッ…!―
膝を着き、アリスの手を取る。
「行こう、アリス。俺は戦うつもりで、ここへ来た。」
支配された裏大陸。
今や未知の地と化した大地を踏みしめ、竜王討伐の旅へ赴く。
魔女アリスと、騎士ソニアの旅立ちである。
こんばんは、深緑です。
お待たせしました。今日から投稿を開始していきます。
今作は、区切りのいい所までをまとめて、投稿していくことにします。




