第11話 ダンジョン配信
荷物持ちの仕事でゴロッドさんがダンジョン配信をしている姿を、見ていて僕ダンジョン配信をしてみたくなってしまった。
「ね、ねえ。ダンジョンで配信するのって、どうやってやるの?」
ソファーで寝転がりながらアイスを食べていた結衣に尋ねると口の端に笑みを浮かべた。
「え〜、パパ。ダンジョン配信したいの〜?」
「う、うん。ゴロッドさんの見たら……なんか、やりたくなって」
「そっか〜」
結衣は面白そうに笑い、アイスの棒をゴミ箱に放ってから、ソファーを降りて二階へ上がっていった。
しばらくして、ドローンを持って戻ってくる。
「じゃあ、明日は休みだし、試しにやってみよっか」
「え、いいの?」
「いいよ。それに、パパって魔力適性どのくらいだったっけ?」
「えっと、12くらいだったと思う」
魔力適性――それは、ダンジョンの内部に漂う未知の気体を魔力と仮定したとき、どれだけその環境に身体が適応できるかを示す数値のことだ。
魔力適性が高いほど、ダンジョン内部で人間離れした反応速度や身体能力を発揮できる。探索者にとっては、そのまま強さの指標でもある。
平均は20パーセントを少し超える程度。つまり僕は、平均よりも下というわけだ。
「結衣は?」
「45パーセントだよ〜」
「おお〜凄い!」
思わず感心の声が漏れた。
若い探索者は、ダンジョンに潜れば適性は伸びるし、才能で魔力適性が元から高い人だっている。
多分、結衣は元から魔力適性が高かったんだと思う。
「パパは12パーセントなら、私と一緒でギリギリ十階層くらいまで行けると思うよ。それに、荷物持ちのときに十五階層まで行った経験あるなら大丈夫」
ということで、翌日の休みに、結衣と一緒にダンジョン配信を始めることになった。人が少ない朝方を狙ってダンジョンへ足を踏み入れたものの、休日ということもあり、想像以上に探索者の姿が多かった。一〜三階層は人が多く人に見られてしまうので撮影する事が難しい。
そこで、僕も顔を出して配信する予定だったため、比較的人が少なそうな五階層から始めることにした。
「じゃあ、パパ。配信始めるよ〜」
「わかった〜」
結衣がドローンを起動させると、プロペラ音が静かなダンジョンに響き渡った。
……なんだか、ゴロッドさんの使っていたドローンより少しうるさい気がする。
「おはよー! 今回はミケちゃんと一緒にダンジョン配信をしてみようと思います〜!ミケちゃんは、初めてなので色々教えて行こうと思います!」
【おはよー】
【おはようございます。珍しい! 朝配信とか】
【眠いけど来たー】
【ミケちゃんの初ダンジョン配信デビューか!】
「パパは何したいの?」
「とりあえず、五階層の魔物を倒してみたい、かな?」
【いきなり、5階層の魔物は大丈夫?】
【五階層の魔物って確か……】
【ホーンラビットじゃなかった?】
【うん、頭のツノが危ないやつ!】
「じゃあ、早速倒してみようと思います」
結衣が剣を構え、前へと進み出る。
少し歩いた先で、物陰から白い影が飛び出した。
――ホーンラビット。頭に鋭いツノを生やした、ウサギのような魔物だ。
地面を蹴ると同時に突進してきて、岩壁にツノを突き立てる。その威力は、壁に穴を開けるほど。
「ギュギュッ!」
「ホーンラビットはツノの突進が危ないけど、それさえ避ければ簡単だよ。ほら、こうやって――」
結衣は軽やかに横へ跳び、ツノをかわしてから一瞬で剣を突き出した。鋭い一撃が決まり、ホーンラビットは短い鳴き声を残して崩れ落ちる。
「おお〜」
僕も結衣が言った通りに構え、息を整えてから挑戦してみた。突進してくるホーンラビットの攻撃を避け、結衣に借りた剣で切り伏せた。思っていたよりもあっけなく倒れてしまった。
「ふっふ〜♪」
「パパ、すごい!」
【すげぇ〜!】
【初討伐おめでとう!】
【パパ、想像以上に動きが俊敏!】
【猫だから動体視力とか本当にすごいんだな〜】
初めて倒せる事が出来て、とっても嬉しかった。自分の力で手に入れた魔石を手に入れる事が出来た。
しばらく、結衣に教わりながらホーンラビットや6階層に出現するグールを倒していた。
「ふう〜本当にパパって、魔力適性がって、12パーセントなの?私より、絶対魔力適性あるでしょ」
「ないよ〜だって、最近探索者カード作る時に測ったもん....」
【いや、あの動きは12パーセントではないだろ】
【少なくとも、30いやユユちゃんと同じ45パーセントだと考察するね】
【どうなんだろう】
「ふん、」
「じゃあ、そろそろ配信終わる?」
「う、うん...ふん」
「ねえ、なんでさっきからドローンを叩き落とそうとしてるの?」
「いにゃ、これは....ふん」
ジャンプしても、届かない。そんなことは分かっているのに、どうしてもジャンプして、あの小さな獲物を捕まえたくてたまらない!
「パパも、ダンジョン配信で魔物を倒せたので、今日の配信はここで終わります〜」
【お疲れ〜】
【また、パパさんと遊んであげてくださいね】
【あ〜パパさんと遊んであげてぇええ!】
僕が夢中になってドローンを追いかけている間に、配信は終わってしまった。
配信後もドローンを僕はつい夢中になって追いかけて……気づいたら、ドローンを壊してしまっていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ゆ、結衣……壊しちゃった……」
「別にいいよ。3万円くらいだったけど」
「う……弁償する」
「パパに弁償できるだけのお金あるの?」
パパ、耳をペタッと下げて落ち込んだ姿で、ドローンをぎこちなく抱えて私の方に近づいてくる……!
あああ、もう、なんなのこの子……可愛すぎて、いじめたくなっちゃう!!
「が、頑張る……」
まあ、ドローンが壊れちゃったとしても、別にいい。新しいの買えば済む話だし――パパが可愛すぎて尊すぎる!!




