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第十八話 神頼み!

 勉強時間が終わると、先生は寝っ転がったまま次の予定について話し出した。おい、お行儀が悪いぞ。それに先生は勉強教えてくれないのかよ。数学教師なのに?


「よし、晩ごはんまでは自由。私は泣き疲れたから寝る」


 寝ちゃうのか……。本当に自分勝手な先生め。

 取り残された俺たちは自由時間、もとい暇つぶしをしなければならない。みんなでテレビを見ようにも見たいものはそれぞれ違うだろうし、先生の睡眠の邪魔になるかもしれない。遊びについては二人に任せるとしよう。


「外の景色、結構よかったわよね。見に行きましょう」

「賛成です。散歩はインスピレーションを湧かせるには最適ですし」


 散歩か。八月の外はかなり暑いが、晴れ渡った空の下で田舎の風景を楽しむのはアリだな。来る途中に見えた海岸や田園といった自然は都会暮らしの学生にとっては魅力的だった。確かにワクワクする。


「幌田くんは?」

「ああ、俺も行く」


 福山さんは自分の提案が通ったからか自慢げな表情を浮かべる。こういう時は可愛げがあるけど、勉強の時は俺にものすごい敵意を向けてくるんだよな……。ギャップ萌え? いや、俺にとっては恐怖でしかない。今は機嫌がいい方だ。とにかく乗っておいた方がいい。


「行きますぞー、オー!」

「オー!」


 二人はなんか拳を突き上げて騒いでいる。今までならこういうのは苦手だったが、俺は以前までの俺ではない。仙谷さんと過ごす時間が増えるとともに身に付いたノリとやら、発揮してやる。


「おー」


 声が出なかった。


 ☆


 一面に広がる田園、セミの鳴き声、遠くまで見渡せる丘から見える水平線。夏休みが到来したことを全身で感じさせる要素があふれている。特に田舎の風景となれば別格。本来あるべき日本の夏の風景が俺たちを歓迎していた。


「わー! すごい!」


 福山さんは駆け足で坂道を降りていく。俺が同じことをすると確実に滑って転がり落ちていくが、さすが陸上部。なかなか立派な体幹があるようだ。俺と名護さんはゆっくり後からついていく。


「なんだか、はしゃぐ娘を見守っているようではありませんか、幌田氏?」

「なんだよそれ」


 ツッコまずにはいられない。この短時間のうちに母親と父親になってしまった。カップルとか通り越してるぞ。それに福山さんが娘? 確かに精神年齢は低めに見えるが……。でも、彼女はいくら騒がしくてもしっかりしているところはあると思う。だからそれほど子どもっぽいと思ったことはない。


「幌田くーん! 詩織ちゃーん!」


 一人先に走っていった福山さんは息を切らしながらこちらを振り返り、手を振ってくる。


「可愛いですねー」

「まあ」


 不意に名護さんがボソッと呟いた。さすがに反応せざるを得ない。


「幌田氏にも分かりますか、福山氏の美しさが」

「そういうのじゃないから」


 名護さんがいつも調子に乗るので軽く否定しておく。福山さんは可愛いといえばそうだが、パンダとかみたいな可愛さ。突然何をやらかすか分からない感じ。そういうのが面白い的な感情だ。だいたい、今の攻略対象は仙谷さんだ。彼女すら好きになれるか分からないのに、他の人にも手を出していてはいけない。そんなことは分かり切っているのに!

 ある程度先に行くと、福山さんは立ち止まってこちらを見続けるようになった。追いつくと話し始める。


「この先に神社があるわ」


 指をさす先には大きな赤い鳥居があった。奥にはあまり規模は大きくないものの、歴史を感じさせる荘厳な神社の姿。木々に囲まれ、涼しそうな空間になっている。


「行ってみましょう!」


 福山さんは早歩きで進み始め、さっきの神社までずっと続く階段を上っていく。福山さんが神社に興味があるイメージはなかったが、最近のJKの流行りなのか? お祈りとか、そういうのに興味があるのかもしれない。どうせ、イケメンに囲まれたいとかそんな欲だろ? 疑念の目を向けながら鳥居をくぐる。

 水で手を清め、神社の中央まで進む。三人で賽銭を入れて鈴を鳴らしたあと、目を閉じて祈る。さて、何をお願いしようか。福山さんは学業成就か? 名護さんは作品がバズりますようにとか? 俺は……、補講室から出たい!


「ねえ、みんなはどんなお願いした? 私は彼氏が欲しいってお願いしたわ」


 だいたいそんなことだろうと思ったわ。イケメンに囲まれたいとは少し違ったけど。大勢に愛されるより、一人を愛したいという意外と誠実な人だった。


「私はですねえ、新作同人誌が文化祭で売れるようにお願いしました」


 そっちもやっぱりそのパターンか。というか、文化祭で田中山本同人誌を売るつもりだったとは。いやはや恐ろしい。今のところ公然猥褻に対する反省が全く見られないのはさすがと言うべきか。


「幌田くんは? やっぱり彼女が欲しい?」

「俺は、補講室から出たいってお願い」

「それはつまり、彼女欲しいってことじゃないの」


 しまった。確かにその通りだ。


「いやでも彼女作ってさっさと出たいのと誰かを愛したいのは別というか」


 焦って息継ぎもできないほどの早口になってしまった。完全に失敗した。普通にキモい。誰かを愛したいのがどうのこうのは俺が語っていいことではない。二人は珍獣を見るような目で俺を見てくる。俺の学生生活、もはやこれまでか。


「ああ、そういう誠実さ、いかにも理想だけって感じね。補講室から出られるように、これからビシバシ鍛えてあげるから」

「おー、幌田氏、心強い協力者のおかげで夢が叶いそうですなあ」


 皆さんは神を信じますか? 言霊を信じますか? 存在するとすれば、俺は神を恨む。なぜこんな形で願いを叶えようとするんだ。ある日突然、俺の前に献身的な美少女が降ってくるような、そういう解決を求める。

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