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第十五話 光る眼光、こっち見るな

 翌日。昼休みは仙石さんと食べることになった。俺は買ってきたサンドイッチ、仙石さんは弁当を持って集まる。弁当は親が作ったのだそうだ。俺のシンプルなサンドイッチに対し、そちらの鮮やかな弁当が少し羨ましい。

 昨日の合宿の話をすると、彼女は興奮して声を弾ませた。


「なんか青春って感じ! ね? 幌田もそう思うでしょ?」


 仙石さんはそう聞いてくるが……。主に京ヶ谷先生と名護さんが怖いし、そもそもあまり賑やかなのは苦手だ。代わりに仙石さんが行ってくれたらいいのに。


「私も行きたい!」


 どうぞどうぞ。


「でも補講室メンバーしか行けないんでしょ? それに、あたしその日試合あるから……」

「確かにそうだね……」


 確か最初の試合だと行ってたか。どちらにせよ替え玉が通用しないので落胆する。仙谷さんはこういうイベント大好きそうだから喜んで言ってくれそうなものなのに。


「だからさ、あたしの分まで楽しんできてよ! あ、なんかお土産話聞かせて!」

「うん」


 仙石さんは俺の肩をポンと叩きながらそう言った。サラっと触らないで。ドキッとするから。

 続けて仙石さんは名護さんについて話し始める。


「新しく来た子とは仲良くできてる?」

「あー……。名護さん怖いんだよね……」

「幌田のことだからそんな感じだと思った。女子苦手すぎない?」


 それは否定しないけど、名護さんのは違うんじゃないかな。うん。ヘビが怖いのと、幽霊が怖いのは違うでしょ? 名護さんは幽霊。


「実際に毎日会ってみてほしい。変態すぎて困るから」

「幌田は変態女子嫌いなんだね」

「まあ、好きではない」

「意外だね。それに、幌田がオタクじゃないってのも意外」

「そう? なんで?」


 いや、だって。と前置きし、仙石さんは話を続ける。


「夜更かししてそうな目してるじゃん」


 根拠が目だけ!?


「あの、これは寝てもずっとこんな感じで……。健康的な生活はしてるけど」

「クソ真面目じゃん。人生楽しいの? やっぱり名護さんにオタク文化教えてもらいなよ」


 俺は……。オタクにもなれない存在だ。好きなものがあって一生懸命な仙石さんや名護さんが羨ましくなる。

 仙石さんは突然思いついたように、ちょうど頭の上に電球を浮かべて立ち上がり、自信満々に言った。


「幌田がオタクになったら、あたしはオタクに優しいギャルになれる!」

「な、なるほど……?」


 分からない。仙石さんは、なぜか俺にオタクになってほしいらしい。理由は理解できないけど、まあそういうことらしい。オタクに優しいギャルって何だ?


「名護さんは何組なの?」

「四組だったと思う」

「早速行こう! あたしも一緒に行くから! さっさとサンドイッチ食べて!」


 喉詰まるわ。残りを口に詰め込み、飲み込む。仙石さんに手を引かれ、四組の教室へと走る。

 教室に入ると大勢の視線が俺たちに集まり、小声で話すのも聞こえてきた。もう帰ろうよ。変な目立ち方したくない。

 周りを見ていると、あのメガネが目に入る。名護さんはスマホを片手に、なにやらノートの白紙を埋めていっていた。


「あっ、幌田氏と仙谷氏ではありませんか」


 彼女は顔を上げて俺たちの方を見た。笑顔というか、ニチャついた顔で。話しながらも手は止めない。相当熱中しているようだ。


「ちょうど新作同人誌のネタ出しをしていたところなんです。見ます?」

「見ない」


 俺は即答した。そう言うと名護さんは露骨にしょんぼりして、またスマホに目を向けた。あんなのでも作品を生み出すために必死らしい。やっぱり罪悪感がしてきたし、何より仙石さんが「うわー、幌田マジないわー……」って顔してる。


「……ちょっとくらいなら見るよ」

「あたしも」


 仙石さんも見るんかーい。名護さんに近づくと、何やら細かく文字が書き込まれていて、多分書いた本人しか読めないくらいだった。で、なんとか読み取れた内容はというと、田中くんと山本くんのBL!


「ちょっとそれはまずいって……。禁止されてるんじゃ……」

「迫害されても私は諦めません! それに京ヶ谷先生は担任じゃないからバレないでしょう」

「迫害って……」


 先生は正当な制限をしたまでだと思うけどな……。それに、担任じゃなくても以前一度はバレてるよね? また見つかって没収されてしまえ。


「あたしはよく分かんないけど、オタ活ってそんなにアツいの?」

「当然です! 推しカプの妄想は人生の活力!」

「へー、すごいね」


 ついていけてないけど、とりあえずリアクションは取ってる雰囲気。仙石さんもあまり理解できてなくて、ほっと一安心した。分からないなりに反応が取れるのはさすが陽キャだと感心する。


「私が同人誌を書くのは呼吸同然、当然のこと! ところで幌田氏、仙石氏と仲がいいようですが、福山氏とどちらが本命の恋人ですか?」


 みんなそれ聞くよね。ドキッとし慣れた感じがしてきた。


「いや、別にそういう関係ではない」


 とだけ答える。仙石さんはなぜか少し頬を赤らめているし、名護さんも満足気だ。


「補講室では福山氏、クラスでは仙石氏。どちらに転んでもいいと思うんですけどね」

「いや、だからそういう関係ではないって」

「今後の動きに注目! 新たな推しカプかもしれない!」


 ダメだ。この人、一度自分の世界に入ってしまったら終わりだ。もう諦めるしかない。

 少なくとも俺は周りからそういうふうに見られていると分かってきたし、この呪いから離れる方法もないと悟った。本当にぼっちに戻りたい……。


「幌田が彼女作るにはどうしたらいいと思う?」


 仙石さんが余計なことを言う。オタクの意見はどのくらい参考になるかな。意外と陽キャだから使えるかも!?


「そうですね、まずはその夜更かししてそうな不健康な目を治した方がいいですね」

「それ、あたしもそう思ってた」


 そう言う名護さんも目は腐ってる(ダブルミーニング)くせに! 俺の目が腐ってるって、福山さんも思ってたりしないよね? 福山さんの場合、「勉強頑張って夜更かししてるんだわ」とか言ってくれるかもしれない。ワンチャン。


「まあ、合宿を通して福山氏と距離が縮まるかもしれませんぞ」

「うんうん、まやっちと付き合うのがいいんじゃない?」

「しかし突然何かが起こることはあり得ない。今のうちにフラグを立てまくっておきましょう!」


 名護さんが珍しくまともなことを言った。そう、何を隠そう仙谷さんとの接触を増やす作戦は俺ですら以前やった。福山さんお墨付きで。この作戦自体の有効性は証明されている。ダメなのは実行者たる俺だけ。


「そうだね。あたしも幌田を応援したいし」


 仙石さんは乗り気。やっぱりギャルだ……。恋愛の基礎を心得ている。


「オタクの勘が告げています……。きっと何かすごいことが起こる!」


 なんの具体性もない、必ず当たる予言みたいなことを言い出した。解釈次第で当たったことにできるから、ずるいよな、こういうの。


「と、いうわけで幌田氏。福山氏との関係は私にお任せください!」


 名護さんはそう言って席を立ち、こちらに迫ってくる。圧が強すぎる……。彼女の細い目がキラリと光った気がしたし、レンズの奥の黒い瞳が俺を捉えている気がするのも怖い。俺は少し後退りするが、名護さんの方がずっと速くてすぐに距離を詰められた。


「幌田のためになるし、いいんじゃない?」


 仙石さんも追い討ちをかけてくる。俺はもう逃げられそうにない。名護さん、怖いよ……。


「楽しみですね!」


 この状況で楽しみにできるわけがない。勝手に福山さんと仲良くすることにさせられ、やることは全て俺にぶん投げてきた。楽しいのはそっちだけだろ!

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