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第十一話 理由はいらない

「待って幌田くん! もし入れ違いになったら……」


 福山さんが立ち上がる俺を制止しようと袖を掴んできた。その眼は不安に満ちている。確かに俺みたいなやつに任せるのが心配なのは当然。だがもちろん勝算がないわけではない。


「福山さんはここに残ってくれたらいい。行ってくる」


 言い返されないように簡潔に伝え、すぐにその場から走り出した。人ごみをかき分けながら進む。

 今日学んだことを活かしながら探すことを考えた。まず、仙谷さんの性格から考えて一つの場所での滞在時間は長いはず。そして一時間で行けるのは昼食のカフェあたりまでのはず。仙谷さんの好きそうなところを一つ一つ見ていけば……! まずはここにたくさん並ぶ雑貨屋。可愛い小物は女子に大人気。部屋の飾りにこだわっているなら全部手に取って吟味していくこともあるだろう。長居している可能性は高い。


「……ここにはいないか」


 まだ最初だ。さっさと切り替えて次に行く。今度はプリを撮ったゲームセンター。一人で遊びたいゲームがあったが、言い出せなかったということも考えられる。端から端まで見渡してみるが、仙谷さんの姿は見えない。ここまで来ると焦りが出てくる。本当にどこかで倒れてしまっていたり、ナンパ男に捕まっているとか……。考えている暇はない。急いで次の場所へ足を動かす。だんだんと息切れして疲れが現れ始めた。普段あまり動かない体に全力疾走は厳しい。だが今は弱音を吐くことも許されない。

 フードコートでは一人では長時間の滞在は考えにくい。一旦飛ばす。次に訪れたのは本屋。意外と奥深く入り組んでいる作りで死角になりそうなところも多い。ゆっくり調べていく必要はあるが……。


「いない……」


 ここでなければもう昼食のカフェしか……。しかしここに戻っているわけがない。見当がついたのはこの程度だ。福山さんからはまだ何も仙谷さんについてのメッセージは来ていなかった。無力感に打ちのめされそうになる。意気込んで出てきたのに何の結果もなし? このまま逃げ帰ってしまいたくなる。

 俺は仙谷さんのことを分かっていない。分かったつもりなだけ。たかが一ヶ月もならないような関係なのに知り尽くしたかのように勘違いして。人付き合いの基本もできないやつがあんなことを言うべきではなかったのだ。仙谷さんたちと出会って新しい世界が見えたと思ったのだが、全て夢であったと思えてしまう。本当にどうしようもなくなり、戻ることにした。


「はあ……」


 息を切らしながらゆっくり歩いて道を進む。群衆の中を歩くとさらに疲れる。悪あがきのように探しながら歩いたが、頭が回らない。俺はこの人ごみの中で一番惨めだ。悲観的になりながら震える足を動かした。

 この辺はちょうど、福山さんと一回目の作戦会議をしたあたりだ。その後仙谷さんは服屋を見にいきたいと言いながら、俺が興味なさそうだからとやめていた。今日は気を遣われてばかり。逆に俺からは何も返せていないことに気付くとまた自己嫌悪に陥りそう。考えるべきはそんなことではない。行くべき場所はまだある。さっきの記憶の振り返りで気づくことができた。


「ここか」


 安堵と共に少しずつ体の硬直が緩まっていく。何を考えているか分からない無機質なマネキンとは違って感情を感じられた。俺の姿を見ると、仙谷さんは笑顔で俺に向かって手を振り、声を上げた。


「おお、幌田、やっぴす」

「え……」


 思ったより軽い調子で答えられたので拍子抜けした。こっちは体はガクガク、汗びっしょりだというのに。


「どうしたの幌田。なんか変だよー」

「仙谷さん……、生きてたんだね……」


 すると彼女は一瞬驚いたかと思えば、すぐに大笑い。こちらにはさっぱり分からない感情の移り変わりだった。感動の再会とまではいかないかもしれないが、連絡も取れず焦っていたはずなのにどうしてそんなに緊張感がないのか。


「あたしは普通に生きてるって! 寂しがり屋なの?」

「だ、だってスマホ……、出られてなかったよね!? どうしたんかと心配したんだよ!?」

「え、ああ、使いすぎて充電切れちゃった」


 あっさりと告げる。怒りたい気持ちもあったがホッとしたのとバカバカしさで笑みが溢れる。なぜだか安心感に包まれてしまう。


「それでいつまでここにいたの……?」

「ずっとだよ」

「ずっと!?」

「え? だって、服見てたらそのくらい時間かかるよね?」


 こうして俺はまた、乙女心を理解した。やはり俺には未知すぎる世界だったと再認識させられたのだった。ギャルは服選びに一時間はかかると今すぐメモしたい。

 十分笑い終わると、今度は急に暗い顔になり、申し訳なさそうに小さな声で言った。


「迷惑かけちゃったのはごめんね。まやっちにも私の場所伝えておいて」

「そうしよう。福山さんも心配してたよ」


 仙谷さんのすごさは自分らしさと協調性を両立しているところだと思った。好きなものがあって、相手に気持ちを素直に伝えられる人生はどんなに豊かなのだろうかと想像してしまう。そんな仙谷さんには心動かされるものが自分の中にもあるかもしれないと思いながら、俺も笑った。

 その後は福山さんとも合流し、プレゼントを渡した後に解散した。今回のショッピングは予想外のハプニングもありながら、ある意味有意義だったと思う。どれほど達成できたのか疑問だが、少しはモテへのヒントを得られたのかもしれない……。とにかくまた明日からは授業が始まるため、学んだことを活用しながら生活できたらと心に誓った。

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