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第九話 盛れてる!

「いやー、幌田マジ面白いじゃん!」

「盛れてたわよ」


 プリは男は入れないのかと思い込んでいたが、男だけでなければよいようである。そして中に入ると狭い空間に女子二人と詰め込まれ、逃げることも許されず身も心もドロドロになってしまった。写真の中で三人横並びになっている。両脇の女子二人は楽しそうな表情なのに対し、真ん中の俺は地球最後の日に死を悟ったかのように無表情だった。それでも出来上がりを見て驚く。俺は可愛くなっていた。これを「盛れている」というらしい。俺は無表情ですらこれだけ美化されたというのに、もともと顔がいい女子二人は間違い探しレベルで変わっていない。これの何が楽しいんだよ。本人らもうすうすそう思っているのか、大変貌を遂げた俺を見て大喜び。仙谷さんはともかく福山さんまで腹抱えて爆笑していた。


「幌田っていいキャラしてるー!」


 仙谷さんはそう言って俺の背中をベシベシ叩いた。完全にバカにされているが、少し心温まった気がする。初めて個性を出せた気がした。俺を肯定してくれる存在がこの世界に二人もいた。能力以外で存在が認められることもあるなんて知らなかった。少し前の俺なら、あっさり仙谷さんを好きになっていただろう。今は違う。どこか心にブレーキをかけて冷静になってしまう。ここまで比較的順調にことが進んでいたというのに、なぜ安心できないんだ。やっぱり、俺に恋はできないのかもしれない。


「次はどうする? しばらく自由行動でいいかしら?」


 福山さんと仙谷さんの目が合う。互いに頷きあい、自由行動は決定したようだ。俺としては少しホッとした気持ちがあった。俺は誰かと一緒にいるとどうしても疲れる。いくら楽しくてもエネルギーを使い果たしてしまう感覚があるのだ。特に、想定外のプリで完全に消耗してしまったので休息の時間が必要だった。別々であれば俺は何もしなくて済む。


「それじゃあまたあとでね! あたし見たいところたくさんあるから!」


 颯爽と駆け出していった。それから振り返って手を振る。去り際まで騒がしく、ミニスカートのヒラヒラが危うかった。俺は軽く右手を挙げる。隣では福山さんも微笑んで大きく手を振っていた。

 さて、俺も自由が与えられたことなので、そそくさとその場を離れようとしたその時。


「まさか本当に自由だと思ってないでしょうね」


 逃亡寸前で阻止される。腕をつかまれてしまった。このまま逃げたら脱臼必至。降参だ。確か陸上部だと言っていたな。力は相当つけているはずだから、俺のようなもやしを引き留めて腕を千切るくらい余裕なはず。振り返るとその顔は恐ろしい笑顔だった。それを見ればなおさら逃げる気にはなれない。とはいえ、俺の体力も限界に近いのでせめて言い訳くらいはしておこう。


「なんで呼び止めたの?」

「作戦会議よ」

「何の」

「決まってるでしょ。瑠奈ちゃんとのデートよ」

「もう十分だと思うんだけど」

「甘いわね。今度は一対一で行ってもらわないといけないのに」

「え」

「えじゃないわよ。今日は私がいたけど、次からはあなた一人で接することになるんだから。しっかり対策立てないとね」


 今日ですらグダグダだったのに、福山さんなしでやっていける気がしない。リア充への道は険しく果てしないと改めて認識させられる。もう俺が陽キャに染まるという展開はありえないのではないか。福山さんが俺の腕を引っ張っていく。彼女がどこへ向かっているのかは知らないが、多分ついていかなければならないのだろう。


「今回はプレゼントの選び方を教えてあげようかしら」

「プレゼント……?」

「そう。女の子が喜ぶものは何か考えなさい」


 福山さんに連れられてやってきたのは雑貨屋。様々なアクセサリーなどがあり、女性向けのお店のようだ。俺とは無縁そうだが、ここはモテるために必要な勉強なのだと言い聞かせて店内へ足を踏み入れる。店内にはピンクや花柄のデザインがあふれており、ファンシーな空気に包まれている。見た目からして陽キャしかいないような場所に入るのは緊張する。実際、周りにはカップルも多く、肩身が狭い。

 棚を一つ人見ていきながら福山さんとの面接が始まった。


「瑠奈ちゃんって、どんな人か一言で説明できる?」

「いつもハイテンションで、意外と気を遣ってるって印象かな」

「かなり好印象じゃない。だけど私が聞きたかったのはそういうのじゃなくて、趣味とかのことなのだけど」


 空回りして無意識に仙谷さんを褒めまくってしまった。その言葉に嘘はない。だからこそ恥ずかしくて、慌てて咳払いをしてごまかそうとしたり、パチパチまばたきしたりしてみてもなかなか心の中のぐちゃぐちゃしたものは取れなかった。


「趣味か。何やってるんだろう?」

「なら、また今度聞き出すのも宿題にしておくわ」


 難しすぎる宿題。普段俺が出している数学の宿題も、福山さんにとってはこんな難題に感じているのだろうか。部活もあるのに申し訳ない。


「今回は当たり障りのないものにしておきましょ。まあ幌田くんには難しいと思うから私も手伝うけど」

「ありがとうございます」


 つい敬語で返してしまった。普段は俺が先生だが、今は福山先生によるプレゼントセンスの授業なので立場が逆転している。素直に従わないと進歩できないのは明らかなので、わきまえて生徒になろう。


「まずはこの中だと……、ブレスレットがいいわね。どれを選ぶかはセンスが問われるところよ」


 棚には色とりどりのアクセサリーが並んでおり、それぞれの輝きを放っている。福山さんはその中でも小さな宝石が埋め込まれたブレスレットを指差した。値段もそこまで高級なものではないので手が出しやすい。自分のアクセサリーなんて全く考えたこともないので、良し悪しの判断がつかない。仙谷さんっぽい明るい色がよいと推測するしかなく、なんとなくピンク色がかかったものを手にしてみた。福山さんはそれをまじまじと観察し始める。


「んー。悪くはないかもだけど、もっとこういう細かいところにも気を使ってほしいわね」


 合格点を貰えた様子もない。具体的に注目すべきポイントなどをメモに残しながら、何度も挑んではダメ出しをされていく。模範解答は何なのか分からないまま続けるのは、ゴールが分からないマラソンのようでやる気が続かない。

 そして俺は一つの答えにたどり着いた。福山さんに勉強を教えるときはちゃんとゴールを示してあげよう。センスは磨けたか分からないが、今後の指導のために役立つ学びを得たのだった……。

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