77.タイミングが悪い
そして私は宣言通り一度メロ高牧場に移動し、昼頃に顔を見せていた探索組の人達が戻って来ていない事を確認した。今日の午前中はどうやら対リリーローズ・アルラウネ戦の準備として「枯れ森の大鹿」に、周辺地形を覚えさせる事をしていたようだ。
だから戦闘本番は今日の午後だった筈で、ダメだった場合はとっくに撤退してきている筈、と言う事で、高師さん夫婦も大変心配している様子だった。まぁ私としては、やっぱり牝牛に対して「護衛イベント」が発生したっぽいな、と、推測を補強する事になった訳だが。
ここでは「軽く周囲を見回ってきます」と伝えて、同じく警戒してもらう。万が一っていうのはある、っていうのもあるんだが、「護衛イベント」の余波的な感じで苔ゾンビがこっちに来る可能性もあるからな。
「グルスニール。『群れの仲間を探せ』」
で、牧場から十分に離れた所で、グルスニールに口頭でコマンドを入力する。馬の形をしているが、正確に言えば馬ではない。馬型の乗り物で道具だ。だが異世界では生き物の形を模している場合、その生き物が持つ能力を持っている事が多い。
そして馬って言うのは元々群れで行動する生き物であり、群れからはぐれると、仲間を探して合流しようとする。だからグルスニールも、同じ建物を拠点とする他のグルスニールを「群れ」と認識し、合流する為の、ある種の探知能力がある筈、と推測した訳だ。
まぁゲームの時はグルスニールを手に入れたら「仲間を呼び寄せる」「仲間の所に移動する」っていうファストトラベル的な機能が使えたんだけどな。だから離れた拠点にいる仲間に持たせて、拠点間をさくさく移動するのに使ってたんだ。
「おぉわ、えらい事になってる。……グルスニール。『可能な限り水平を保って回避行動』」
現実となった今の状態でもその機能はちゃんと存在したらしく、勝手に走り出したグルスニールが移動した先は、山にそこそこ入り込んだ所だった。一応遊歩道はあった筈だが、雑草がすごい。
だがそれ以上に、わらわらと木の隙間を完全に埋めてしまいかねない数の苔ゾンビがいるっていうのが完全に異常事態なんだよな。ほぼ間違い探しだが、色の濃い個体もちらほら見える気がするから、やはり「護衛イベント」は発生したのだろう。
だからグルスニールにオート回避のコマンドを口頭で入力してから、バズーカに爆弾を入れて、出来るだけ木に当てない位置を狙って、発射した。
「と言っても、高耐久型は吹っ飛ばないよな。知ってる」
これで通常の苔ゾンビなら残らず吹っ飛ぶんだが、確実に効果範囲内に入っていたのにちょっとよろめいた程度で済んでいるのは高耐久変異の個体だろう。ちょっと色が濃いやつだな。そして流石に攻撃したらこっちに来る。
とはいえ、「護衛イベント」が発生しているのは予測済みだし、高耐久型ゾンビがいるのは分かっていた。だからちゃんと専用のホルダーに入れた、恐らく魔法世界の技術で「刺さったら爆発する」投げナイフを投げる。
これもゲーム補正なのか、一応拠点で普通の投げナイフを使って練習していたからか、狙い通り高耐久ゾンビの頭に刺さって、ズドン! と派手な爆発が起きた。この投げナイフ、地味に作るのが大変なんだよな。材料的に。その分、今の段階で出てくる高耐久個体ぐらいなら、体力的に吹っ飛ぶはずだが。
「よし、火力は足りてるな。後はこっちから数を減らして圧を緩めれば、工一さんやリットさんなら気付いてくれるだろ」
そして頭が吹っ飛んだぐらいでは、普通に動き続ける事もある苔ゾンビが、その場でボロボロとお饅頭型の苔の塊になったのを確認して、別の高耐久ゾンビに投げナイフを投げた。だけでなく、角度を変えてバズーカも撃つ。
「護衛イベント」は、敵の密度的に範囲攻撃が必須だからな。工一さん達も普段なら手榴弾の数発ぐらいは持ってるんだろうが、対リリーローズ・アルラウネ戦闘は火気厳禁だ。その状態では、ちょっと厳しいだろう。
王子様は杖のレベル的に、まだ範囲攻撃使えない筈だし。さて、出来るだけ数を減らしていくか。最悪通常の苔ゾンビだけ雑に一掃すれば、高耐久型は探索組の人達が片付けるだろうし。




