76.不測の事態
対リリーローズ・アルラウネ戦へ出発していった工一さん達を見送り、私は東棟の屋根裏部屋の掃除と修理だ。緋朱が大穴を開けた部屋も、簡単に残骸をどけただけだからな。
まぁここにもゲーム補正が入っているようなので、そこそこ大掛かりな作業になったにもかかわらず、1日で修理が出来た。という事は夕方になってるんだが……工一さん達が帰ってこないな。
昼休憩には戻って来てた筈なんだが、何かあったんだろうか。というか、家の中がそんな感じでざわざわしている。「枯れ森の大鹿」があって負けるとは思えないんだが、勝って牛の誘導に入ってるなら速報ぐらいは届くよな?
「うーん……」
玄関前まで移動してちょっと考えたんだが、様子を見に行った方が良いのは間違いないだろうな。移動手段はグルスニールがあるし。
ただ問題は、少なくとも私には「枯れ森の大鹿」がある状況で、リリーローズ・アルラウネ相手に苦戦ないし敗北、あるいは身動きが取れなくなる状況が分からないって事だ。だって『サバイバル・クラフターズ』っていうゲームでは、ただのボス戦だったんだから。
私の知識とズレが生じる。それは現実になった事による変化でほぼ間違いない。だとすると、ゲームと現実で違いが生じる理由になりそうなのはどこで、どういう違いが生じる可能性が高い?
「ツミキさん、どうしたんです?」
「いえ……ちょっと牧場の様子を見てきます。最大2時間程度で戻るか連絡を入れますので、一応念の為警戒をお願いします」
「! わ、分かりました……!」
で、ざわざわしている所に私が玄関前で何か考え事をしていたので、まぁ当然声を掛けられる訳で。
これ以上心配を掛けない為に一旦中に戻るか、と思ったところで、今の工一さん達が苦戦しそうな状況と言うかイベントを思い出した。そしてその状況だったら、探索組の人達だけではどうにもならない。
ので、何でもない、と言うのをやめて、様子見に行く、と宣言した。それに続いた警戒は何の事かって言うと、まぁ、私が戻らない可能性もあるからな。たぶん大丈夫だとは思うが。
「牧場に残って警戒してくれてる人もいる事を考えると、身動き取れなくなってる可能性は、あるか」
イベントの発生そのものは乱数だ。だから発生していてもおかしくない。そしてあのイベントが発生していた場合、今の探索組では手数が足りないだろう。リリローズ・アルラウネを撃破して発見できただろう、牝牛の集団を守っているならなおさらだ。
そのイベントの名は「護衛イベント」。探索中に生存者を発見して、その生存者を最も近い拠点まで連れていく事が出来れば成功だ。そしてこの「護衛イベント」で出現する生存者は1人か3人と少人数ではあるものの、技術者だったり戦闘力があったり、何かしら特殊技能を持っている事が多い。
なお生存者と言ったが人間であるとは限らず、宇宙人と異世界人も含むし、異世界には人間以外の人種もいるし、何なら私は見た目は普通の柴犬や、目が4つあって喋る牛に対して発生した「護衛イベント」を知っている。
「だから乳牛に対して発生していてもおかしくは無いんだけど」
ただこの「護衛イベント」、護衛される側は、少なくとも「護衛イベント」中は使い物にならない。もとい、戦力として期待できない。しかも移動速度が遅い上に最短経路を通ってくれない。
「護衛イベント」を完遂したら戦闘力があると知って連れ出してみて「お前何であの程度の相手にへろへろになってたんだ???」ってなる事はちょいちょいあった。絶対1人でも辿り着けただろうがよ、と。
というのはともかく、護衛、と名のついている通り、その「護衛イベント」が発生している間は大量の苔ゾンビが発生して絶え間なく襲って来る。その大半は普通の苔ゾンビなんだが、変異種の出現フラグが立っていた場合、当然の顔をしてしれっと混ざって来るんだよな。
「高耐久の奴が混ざってると、範囲攻撃が無いと厳しいからな……」
まぁだから出発直前に、スマホの不思議収納に、大量の手榴弾と大量のバズーカ用爆弾と、新しく作れるようになった「爆発する投げナイフ」を詰め込んだんだが。




