8.受け入れの為の準備
スパイスポケットの種類被りが判明した時点で、3日目の日が暮れていくところだった。だから一旦部屋に戻って、ゲームの情報をとにかく急いで書き出したノートの山から目的の情報を探す。
ごちゃごちゃしているそれの中から目的の情報を探す途中で、スマホで入力してハードディスクに移して、検索できるようにしておけば良かったんじゃないか? と思ったけど、もう遅い。まぁでも見返す事で思い出す事もあるかも知れないから、毎日ちょっとずつやっていく事にする。
とりあえず今は、箱の中身を調べる方法、もそうだが、人手を増やす方法だな。ある程度狙って仲間に出来るキャラクターはいるんだ。地雷を避けて人手を増やすには必須スキルとも言えるんだが、一応少なくとも今日より記憶がはっきりしている自分の文章を確認しておきたい。
「あったあった。これだ。専門知識も特殊技能も無いけど何のフラグも無い、作業を手伝ってくれるだけなら問題ない「避難民」の呼び方」
あまりにも人手が足りないからなー。やっぱりマンパワーっていうのは大事だ。本当に。信用できるならなお良いんだけど、まぁ最悪畑でさつまいもの植え付けと収穫をやってくれるだけでもいい。
記憶と違わないその方法は、まず「避難民」が使う為の空き部屋を人数分以上用意する事。前庭から玄関までの空間を通路として開けておく事。そして「空間跳躍通信機」というものを用意しておけば、条件が揃ったらその通信機に助けを求める連絡が入る。それを受ければ良い。
……いやまぁ「避難民」なんだからそりゃそうなんだが。これは積極的に受け入れた方が、こう、後味的に良さそうだな。現実になった以上、助けを求めておいて余計な欲を出す奴もいるんだろうけど。
「問題はそもそもの、空間跳躍通信機がどこにあるかだな……いやまぁ、あの地下倉庫のどこかにあるというか、コンテナのどれかに入ってるんだろうが」
ちなみに、空間跳躍通信機、とすごい名前が付いているが、見た目はレトロで丸く可愛いように見えて実はゴツい、黒電話である。これが、りりりりん、と鳴る訳だ。そして鳴っている間に受話器を取る必要がある。ただし電源や電話線に繋ぐ必要は無い。まぁ都合の良い存在だな。
そして機械に属しているから、入っているとしたら金属コンテナだ。サイズ可変レンチで1つ1つ開けていくのは大変だが、仕方ないな。明日はじゃがいもの収穫まで、地下倉庫でコンテナ開けだ。
と言う事で3日目終了。4日目になった訳なんだが。
「一応倉庫の中にはあるんだし、『サバイバルクラフターズ』の仕様が本当に生きてるなら、設置する場所を先に用意しておけばガイドぐらい出るんじゃないか?」
という事に、朝ご飯のじゃがいもの薄切り炒め(顆粒出汁と塩で味付け)を食べている時に気が付いた。そうだな? そうだよ。そしてついでにもう1つ思い出したよ。ゲームの中の主人公は、こう、画面を触って操作するタイプの端末を持ってたって事を。あれがあればゲーム内と同じ補正が入るんじゃないか? 主に収穫タイマーとかクエストガイドとか耐久値の表示とかが。
という訳で予定を変更して、片っ端から部屋を掃除していくことにした。いやまぁ、本来なら真っ先にやる事の筈だったんだけどな。単にいつものセルフリフォームだったら。ちょっと食料の確保が急務過ぎただけで。
ちなみにさつまいもの蔓はもっさりと出ていたし、じゃがいもは昼ぐらいに葉っぱがほぼ全部枯れていたから、じゃがいもを収穫して畑を耕し畝を作り直して、さつまいもの蔓を植えて水やりをした。これで明日にはさつまいもが収穫できる筈だ。
「しかし、部屋にあるものもゲーム仕様で回収できるとは思わなかった。いやまぁ冷静に考えたらそうなのかもしれないというか、あれだけじゃがいもとかスパイスポケットの収穫をしておいて今更というか」
と言う事で、思ったよりも掃除はスムーズに進んだ。少なくとも1階分は全部掃除と整理整頓ができた。ただし倉庫は除く。あれは、その、もっとゲーム的に出来る端末が手に入ってからにしたい。あれがあればこう、ゲーム的にレイアウト変更というか微調節というか荷物整理が出来る筈だから。
まぁ部屋の数は十分だろうし、今倉庫として使っている部屋の1つか2つは諸々の作業部屋として使う事になるだろうが、それはまた端末を手に入れてから、と言う事で。次にやる事は、前庭の、玄関から門までの草むしりだ。
今回はちゃんと(?)草刈り鎌を使っているので、ざっくざっくと気持ちよく草が消えていく。……誤字ではない。本当に消えているんだ。認識がバグりそうになるな。一応ここにいる自分は現実だって言うのに、あまりにもゲーム的すぎる。
「……夢なら覚めてくれ、なんて嘆く時間はとっくに過ぎてるしなぁ」
それをやるなら初日の夜だっただろうな。今は既に4日目の午後だ。3回も眠ってそのたびにちゃんと続きで「明日」が「今日」になっているんだから、もう腹をくくるしか無いだろう。
そんな事を考えながらでも草刈り鎌の威力はすさまじく、とりあえず門と玄関の幅において草刈りは終わった。こちらは内庭に比べるとちょっと色が薄い気がするが、それでも根っこ1つ残らず土が見えている。
門は金属の補強が入った分厚い木製であり、その向こうを見る事は出来ない。ただ耳を済ませれば、何かの唸り声みたいなものが聞こえてきている。だから、苔によるゾンビはこの近くにもいるんだろう。
「閂は、ちゃんとかかってるな。1人でも動かせ……るな。門の柱にも閂を置く金具があるから、ここまで滑らせれば片方だけ簡単に開けるって事か」
門に改めて近寄ったついでに、出入りする為に必要な事を確認しておく。思ったより簡単に開け閉めできそうで良かった。「避難民」を受け入れる時に、門が開けられないから助けられません、は、後味が悪いどころじゃないから。