61.現地の状態
そんな訳で到着した牧場。メロ高牧場、という看板がかかったその建物は、確かにダメージを受けていたけど廃墟では無かった。傷んではいるけど普通の範囲だ。良かった。これなら普通に直せそうだ。
案内してくれた人は、どうやら柵に引っ掛かっているゾンビを倒す見回り当番だったらしく、中に声をかけて出てきた人に事情を説明すると、また柵の方へと歩いて行った。
「あれ大丈夫ですか? 私達が太い蔦を刺激しましたけど」
「……一応ついてった方が良さそうだな。1人なら引っ張り上げて乗せて逃げられるだろ」
なお私はゲームのイベントって形で、ここで犠牲者が出るのを知っていたため、それを阻止する為にお兄さん()に声をかけておく。そして無事グルスニールに乗ったうちの探索組の人がついていってくれたので、これで大丈夫な筈だ。たぶん。
そう。3エリア目であるここからは、新種の苔ゾンビが出てくる。見た目はあんまり変わらないんだが、10倍ぐらいしぶといやつ。一応色が濃いんだが、ゲームの時ですら「間違い探しか?」って思ったし。
最終的に苔ゾンビへの攻撃方法は範囲攻撃になるので、まず雑に一掃して、残った奴を高火力武器で狙い撃ちする、っていう形になるんだよな。無視してたら高耐久ゾンビの塊になってしまうから、素早い排除は必須だ。
「お待たせしました。メロ高牧場副代表、高師銀胡です。代表の隆の妻です」
「どうも。探索隊代表工一悟郎です」
「[魔法隊代表のリットだ]」
「全体代表、幸童リフォームのツミキです。初めまして」
牧場副代表の人とお互いに自己紹介をする。そろそろお兄さん()も名前で呼ぶか。そして幸童リフォームっていうのは、私がやっている、1人だけの廃屋リフォーム会社の名前である。
まぁでも知名度はそんなにない。実際、牧場副代表の高師さん(奥さん)は首を傾げていたしな。いやまぁ私がフルフェイスのミラー加工ヘルメットを脱がないからかもしれないが。……旦那さんである代表さんは? え、さっきの見回りの人? 良かった護衛ついてってもらって。
内心ほっとしつつ高師さん(奥さん)にはお兄さん()もとい工一さん達にしたのと同じ説明を繰り返し、納得してもらう。そして牧場の現状を聞いたのだが。
「牝牛が攫われた? だが牛はいたぞ?」
「あれは、攫われた当時子牛だった牛で、全て牡牛です。タンクの牛乳を与えて育てる事は出来ましたが、牝牛がいなければ牛乳は手に入りませんし……」
うん。そうなんだ。この牧場、到着しただけでは牛乳も牛も手に入らないんだよな。牧場に居る牡牛も、今となっては貴重だし。だって牡牛の精子だけなんて手に入る訳がないから。
そして攫ったのはこの3エリア目のボスであり、あの太い蔦の根本あるいは本体だ。何で牝牛限定で攫ったのかまでは知らん。ゲームでは出てこなかったし。
「[なるほどな。相手の正体には当たりが付いた]」
「ほ、本当ですか!?」
「って事は、異世界の動物か」
「[正しくは植物だ。牝牛だけを攫ったのであれば、リリーローズのアルラウネで間違いないだろう。厄介な事になった]」
「リットさんが正直に厄介っていうとか相当なのでは?」
「[どういう意味だ]」
「だって植物ですよね? リットさんなら燃やせそうですし」
システムガイドが出来るようになった王子様本当に便利だな。とても助かるし、ゲームの裏設定が知れるから私個人としてもとても助かるし楽しいんだが。
ちなみにこのエリアのボスは、火気厳禁である。何故なら。
「[あれは燃やせん。火をつけようものなら暴れ狂って手が付けられなくなる。蔦の端から削り殺すしかない]」
「火をつけたら暴れ狂う……つまり、あの蔦があった範囲全部めちゃくちゃになるって理解で良いです?」
「[そうだな。少なくとも、あの妙に人間が好きな奴がいた場所からこちらは跡形も残らないだろう。空でも飛ばなければ逃げられないぞ]」
「なるほど、絶対に火は使ったらダメだな」
ゲーム時代は、一発ゲームオーバーだったからな。いやー、最初は何が起きたのかと思ったよ。植物だから火が特効なんじゃね? って、「ジェル」を使った松明で殴ってみたら、画面全体が揺れてゲームオーバーの文字が出て「は?」になったから。
もちろん現実になった今、そんな事をする訳にはいかない。まぁだから王子様が知っていると分かってすぐにそっち方向の話を振ったんだが。




