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リアル・サバイバルクラフター  作者: 竜野マナ(竜灯草)


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60T1.三度与えられる救い

 自分では間違い、他者からは与えられるばかりの人生だった。



 高校を卒業した時に就職したのが、部活の恩師ではなく大して喋った事も無い教師に薦められた会社だった。そこでは人間など使い捨てボールペンほどの価値しかなく、いかに短時間で高い負荷をかけて仕事をさせて成果を奪うか、という技術に習熟した人間しかいなかった。

 そのことに気付いたのは3年後。辛うじて死んでいなかっただけの自分は大した事も出来なかったのに、それを恩に感じてくれたらしい3つも下の新人が、手際よく証拠を揃えて労基の監査を入れて、会社自体が潰れて、そしてその新人のついでに支払われた慰謝料を貰った時だ。



 だが頭の回っていなかった自分にそんな大金の使い道など浮かぶ訳もなく、自分を落ちこぼれと呼んで実質絶縁していた両親が突然現れて管理補助を申し出てきた。自分は何も言わずに承諾したし、間違いなく血の繋がった肉親であるので、弁護士も素直にそれを信じた。

 実際自分に行われたのは、その資産を奪われ、ついでに随分と荒れ果てた家と老いた両親、そして兄夫婦の子供の世話を押し付けられるというものだったのだが、それが理不尽であると気付くだけの頭は残念ながら無かった。

 そのまま見合いで両親に都合の良い結婚相手が宛がわれ、気づけば結婚していたのだが、この結婚相手が実は兄夫婦に大変恨みのある人物であり、最初から我が家を潰す為に潜入した事に気付かなかったのは、まぁある意味幸運だったのかもしれない。


「あなたがいるなんて知らなかったから、あなたのお兄さんの愛人に収まってぐっちゃぐちゃにしてやろうと思ってたのよ」


 そのまま妻で居てくれている彼女は、復讐を完璧に達成した後ころころ笑ってそう言っていたが。まぁその後、実際に心を通わせていくのは別の話だ。

 両親と兄夫婦を法律的及び社会的な意味で完全に息の根を止め、明らかな被害者である自分とあの家を出た妻。兄夫婦に放置された結果自分に懐いてくれた甥っ子達は養子になった。

 強かな彼らは「あの親の子供のままだと碌な事にならない」と早々に兄夫婦を見限り、自分達に対する虐待の証拠となるものを地道に集め、自分の妻である彼女に託していたらしい。そして彼女はその証拠を十全に活用し、兄夫婦は相応の結末を迎えたのだが。


「一生豪遊できちゃうわねぇ」

「いや豪遊はちょっと……子供達の教育費と、それぞれの冠婚葬祭の費用はとりあえず別にしておこう」

「そう言うところが大好きよ」

「んん゛……」


 妻曰く、自分が持っていた慰謝料の使い込み。これで請求できる金額が跳ね上がったとの事で、またしても莫大な金が転がり込んできた。もちろん使い道など思い浮かぶ筈もない。

 頭が回らないのはストレスによるものだったらしく、その治療を受けながら色々と考えていたのだが、自分で何かをするという発想が何も出てこない。なお妻と子供達には自分で管理する前提で既に分けてあるが、彼らは本当にしっかりしているので、投資などでその金額を増やし、こちらに還元してきていた。

 何もしていないのに増えていく通帳の残高を見て、何故か泣きそうになったのは訳が分からない。だがぼんやりとしたままの自分を見捨てることなく、医者の勧めに従ってあちこちに連れ出してくれる家族には何とか還元したい。


「……、そういえば、牛乳は好きだったな」

「牛乳?」

「あぁ。確かいつか牧場に遊びに行って、脱走牛に兄が追いかけられて……そう、その時に迷子扱いで牧場の人に保護されて飲んだやつだ。それがものすごく美味しかった」


 だから何とか、自分の持っているものの中で、少しでも素晴らしいものを。そうやって探し続けた結果、出てきたのはあまりにも素朴で明後日の方向の記憶で。

 しかし家族は大喜びで牧場の事を調べ、後継者を探している牧場を見つけ、あれよあれよという間に自分は牧場の主になっていた。先代は丁寧に仕事を教えてくれたし、金の使い道を探していたので、助言を乞うて最新機材を揃え、牛舎やそれに併設された家もリフォームした。

 元々の人気と地域に根差しているが故の固定客がいる事、そして何よりしっかりした妻と子供たちのおかげで、牧場も軌道に乗って来た……ところで、世界がひっくり返ってしまった。


「う、牛が、牛が! 蔦のバケモンに!」

「家が、あぁ、家に穴が……」


 先代夫婦が上げた悲鳴は、今も夢に出てきて跳び起きる程だ。もっとも当時はそれに反応する間もなく、人の形をしているだけの怪物から牛と人を守る為に柵を強化したり、逃げて来た人達を受け入れたりする事で手一杯だったが。

 そこからも、余裕があったとは言えない。残ったのは雄の子牛だけ。それも既にかなり育っていて、出荷の日を待つばかりの子牛。だがこうなっては精液が手に入らないかもしれないと、そのまま育てる事にした。

 ガランとした牛舎に、思うところが無かった訳じゃない。だが何とか毎日息を潜めて生き延びる事に必死で、しかしそんな努力をあざ笑うように電気と水道が止まって。もう、逃げ道すらも見つからない状況で、どうすればいいのかと途方に暮れていた。


「ひゃぁああああああ!!??」

「あー、落ち着いてほしい。ゾンビじゃない。生存者だ。そっちも生きてる人間だな?」

「…………人間?」

「[馬に乗る生物が人間以外に……いやまぁ居ない事は無いが。俺様達は人間であり、更に言うなら生存者の探索をしている]」


 そんなさなかに、それでも出来る事をと見回りに出ていたら、まさか生き物とは思えない馬に乗った集団と遭遇すれば……その、申し訳ないが、悲鳴ぐらいは上げてしまう。

 だが彼らは牧場に避難してきた彼らと違って、服に汚れも少なく清潔で、顔色も良かったし、何より動物の毛皮で出来たらしい鎧を身に纏っていた。もちろんその鎧も、手に持ったり腰に下げたりしている武器も、急ごしらえの間に合わせである事は見れば分かったが。

 それでも、少なくとも余裕があった。今まさにこちらでは失うばかりだった、様々な意味での余裕が。そして生存者の探索、そう言った、という事は。


「他にも生存者が……い、いや、助かる。こっちは昨日の夕方に水道と電気が止まって、かなり限界が近かったんだ……」


 与えられるばかりの人生だった。与えられるばかりの人生だ。

 だが与えられた時に言われた。もっと助けを求めろと。助けを求めれば、もっと良い形で助けられたと。

 ならば助けを求めよう。助けの声を探している相手には声を上げよう。何しろ今自分は、先代を含めた家族と、常連客を含めた避難者の命を預かっているのだから。


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………………重い………………!!
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