41.予定のすり合わせ
「[……ミルクは、特に俺様の体質と相性が良いんだ。すなわち、効率よく魔力を回復する事が出来る。しかし液体だと量を飲めないし、バターを丸齧りすると吐いてしまうし、チーズだと既に違うものになっている。だからミルクとバターを使い、ゆっくり口の中で溶けるキャラメルが最高効率になるんだ]」
「ナッツいります?」
「[種類によるが、ナッツは魔法の威力を上げる効果がある。攻撃する時に噛み砕けば威力が上げられる]」
飲み込んで消化するまで待つんじゃなくて、噛み砕くだけでいいんだ。とは思ったがまぁそれはちょっと横に置いておき、これが王子様の盗聴の言い訳、もとい、牛がいる場所を教えろと圧をかけてきた理由だったようだ。
まぁ私としても、王子様の魔力が効率よく回復できるならそれに越した事はない。ナッツに魔法の威力を上げる効果があるって言うのも初耳だし。……いや? 確かどこかの周回で魔法に関する研究者的なキャラが、ナッツというか種には魔力の効率を上げる効果があるとか言ってたような気がするな?
しかし魔力の効率を上げると、威力が上がるのか。まぁそれはそうだな。効率を上げると、より多くの魔力を魔法として使えるって事だろうし。ロスしてただ消えている分が減るんだから。
「ちなみにジェレック君はそういうのあるんですか? 体質と相性が良くて効率的に魔力を回復できる食べ物的な」
「[む。ポーション全般の吸収効率が良い体質ではあるが、こちらには無いのだろう?]」
「……とりあえずハーブティーから試してみましょうか」
「そういやお前、休憩で烏龍茶飲んだら元気になってなかったか?」
「[あの薬茶はうーろんちゃというのですか]」
なおジェレック君はお兄さん()に対しては敬語である。隊長として認めているからだろう。それはすなわち私はまだ認められていないって事なんだが、仕方ないな。脳筋に管理職の大変さは理解しづらいだろうし。
とはいえ、王子様は朝ご飯を食べているところでやらかしてくれた。つまり内にいる人達の大部分は、この騒ぎを聞いてるって事だ。なら当然、牛が飼えるようになるかもしれない、って話も広がる訳で。
顔の向きを動かさないようにして、視線だけをお兄さん()に向けるが、ばっちり周りの反応は見えてるし聞こえているようだ。まぁそれはそうだろう。これは、予定は決まったな。
「……月初めから大きな変化があったから、月末はちょっと警戒しておきたいんですよね」
「あと3日後か。1ヵ月で何かあるのか?」
「――「あの電話」も、こうなって丁度1週間の日にかかってきましたし。その後、お兄さん達が新しい人を見つけるのも、ぴったり1週間ごとなんですよ」
だから、お兄さん()が気付いているかいないか微妙な例を出して、1ヵ月という節目を警戒してもらう事にした。電話の件は当然妹からかかって来た「避難民」イベントだ。そしてお兄さん()達は、そこからきっちり1週間ごとに新しい「避難民」を見つけている。
どうやらお兄さん()は、不自然にキリの良いタイミングが続いていた事に気付いていなかったようだ。一瞬固まった後、数秒してから目を見開いていたからな。そうなんだよ。不自然なんだよ。
私はゲームのイベントという形で知っている。でもそれが有り得たのはゲームだからで、現実ではそんなに都合よく行く訳が無いんだよ。でも実際に結果がそこにある。
「異世界にゾンビ、宇宙船も宇宙人も見ました。じゃがいもの育つペースも明らかにおかしいし、訳の分からない植物も大量に生えるようになりました。だったら何が起こってもおかしくない。おかしくないなら、何か起こりそうなタイミングや場所は、全部警戒しておいた方がいいかなって」
「…………なるほどな。ツミキさんが空き部屋の修理を急いでた理由が分かった」
そしてその違和感は、気付いてしまえば無視はできないだろう。実際の所は「警戒していた」のではなく「知っていた」のだが、警戒していたと言えば警戒していた事になる。
実際、何の知識も無かったとしても、警戒ぐらいはするだろう。今までのあれこれを知っていれば。
どれほど助けられているとはいっても、異常は異常だ。私達に有益なものだったから受け入れただけで、いつ有害な異常が起こってもおかしくないのは確かなんだし。
「正直私も、自分に何が出来るのか。それを正確に把握しているとは言えませんし」
「ま、そりゃそうだな。俺だって、特に最近は身体の調子が良すぎておかしい」
その調子の良いのはモンスター肉を食べた事による恒常ステータスアップなんだが、まぁ元々の世界には無かった生き物で効果だからな。異常ではあるか。




