36.想定外の危機
熊出汁の旨味が助走をつけて殴って来るお昼ご飯を食べて、再び命綱以下装備を再点検して屋根に上る。鋼板、直接雨と風が当たる表層の資材は剥がせたので、その下の点検だ。雨漏りの危険があるっていうのは、大体ここの、外から見えない場所に原因がある。ルーフィング(防水シート)に穴が開いてるとかな。
まぁ原因だけでは済まないし、何なら屋根の一部を切って外して嵌め変える作業までがほぼセットと言っていいから、やっぱり1人でやる作業じゃない。腐っている部分を切ったのなら、そこに合わせて木材を加工して、はめ込んで繋いで強度確認して、って、結構大変だからな。
だからお兄さん()も何とか手伝ってくれようとしたんだろうが、こればっかりは私のやり方が特殊っていうのに尽きる。もちろん絶対に真似しちゃダメだぞ。むしろ危険作業の代表例として教材になりかねない暴挙ですらある。
「っ!?」
とはいえこの手の作業は、慣れてない人間が混ざると全体の危険度が一気に上がる。近くにいるだけでも正直アウトだ。だってそっちを気にしなきゃいけないからな。だから工事現場には一定以上近寄れないようになってるだろ。
もちろん私もそうしている。階段に看板、お兄さん()に伝言。そしてお兄さん()との会話を大勢が居る場所でする事で可能な限り全体への周知。その内容は一貫して「今日は屋根裏部屋に入るな」だ。
なんだが、そもそも屋根裏部屋に用事がある人自体がいない。何しろまだ2階の部屋が全部空いてるんだ。
「動くな!!」
「[ぬっ!]」
だからだな。
|命綱の逆の端を持って屋根に上がって来た《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》お前は、一発アウトなんだよ……!!
「[これはヤヌシ殿]――」
「動くなと言っただろうが!!」
重ねて怒鳴ると、びっくりしたらしいジェリック君はその場所、私が開けた屋根の穴から、命綱の逆の端を持って上半身を乗り出したところで動きを止めた。何かジェリック君の私に対する呼び名が変だった気もするが、とりあえず一旦さておく。
ゆっくりと身をかがめて、むき出しになった垂木を掴む。案の定野地板が腐ってる部分があったから、そこを外したんだ。近くで良かった。そして万が一にも下に落ちない体勢になったところで、庭に向かって声を出して、お兄さん()に上がって来て貰う。
「[ヤヌシど]」
「動くな。何度言わせる気だ」
その間に再びジェリック君が口を開いたが、黙らせる。動くなっつってんだろ。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
「[む! たい]」
「動くな!」
「そうだ動くなジェレック! いいか!? 絶対に動くなよ!?」
私からだけではなく、お兄さん()からも動くなと言われて、ようやくジェレック君の顔色が変わった。分かってたが舐められてるな。私が。まぁそんな気はしたけど。
で、ジェレック君がお兄さん()によってゆっくり室内に戻され、お兄さん()が外に出ていた命綱を必要な分だけ回収してくれたところで、私も屋内に戻る。
……まぁそんな気はしたんだが、その状態で真っ先に目に入ったのは、十字に固定していた筈の木材が真っ二つになっている事と、そこにしっかり結ばれていたロープが切られているという事だ。あーあ。
「一応。一応確認だけしておきましょうか。……階段の看板を何故無視したんです?」
「[看板? あぁ! すまないが俺は文字を翻訳する事は出来んのだ! だから詳細を確認しようと思った!]」
「なるほど」
で、その確認が終わった瞬間、ジェレック君は壁に叩きつけられていた。もちろん、なんか最近やけに力が強くなってきたっぽいお兄さん()に殴られて。
「……悪りぃなツミキさん。壁壊した」
「いえ。こちらこそ代わりに殴ってくれた形になって助かりました。直すのは慣れてますし」
なおお兄さん()は顔が赤通り越して黒くなるんじゃないかってぐらい頭に血を上らせているし、流石に鎧は外しているとはいえジェレック君は体格が良い。結果、すごい音が響いた上に壁が盛大に割れた訳だが、まぁ仕方ないな。
「他人の命綱を勝手に切った挙句、その端を外に放り出そうとしたんです。そうと知らなかったようなのでギリギリ追放まではしませんが、殺人未遂でこの程度なら安いものでしょう」
「[お、あ……?]」
「ついでに言えば、この命綱に使っているロープは非常に頑丈なもので、現在新しく手に入れる手段も強度を保って修理する手段も無い状態ですし、命綱を結んでいた木材は非常に丈夫なものでした。その分の弁償、どうしましょうかね」
「坊主ともども追放で良いと思うぞ」
「一応辛うじてリットさんの方は反省が見えますので。……まぁ、とりあえずその上司枠のリットさんを呼んできましょうか」
そういう事だ。
さらに言うなら屋根の修理の工期が大幅に遅れる&ロープが短くなった分工程を変更しなきゃいけないって言うのも含む。ほんとマジでこの突撃野郎、ほかに手段があっただろうがよ。




