33.浮いた時間と発覚事案
熊は本当にデカかった。流石に森の木よりは小さかったが、それでも5mはあったし、何か太い骨に沿って棘が生えてた。爪ぐらいごっついの。こわ。完全にファンタジーな異世界から来たモンスターだ。
まぁだからジェレック君がさくっと仕留められたんだろうけど。しかし一太刀で首を落とすとか、冗談の方がまだ信じられるな。本気も本気なんだが。
「しかしこいつ、何て熊なんでしょうね……」
「あー、スパイクベアっつーらしいぞ。割とどこにでもいるやつらしい」
「明らかに異世界産なんですが」
「まぁ今更だな」
それはそう。何しろ王子様もジェレック君もある意味異世界産だからな。人間なだけで。……一応こっちの人間も魔法を使えるみたいだから、たぶん生物的な違いはあんまりないと思うんだが。
ともあれ、仕留められて雑に切り分けられたスパイクベアは私が回収できたし、どうやらジェレック君が解体できるらしいので、前庭に出しておく事になった。解体ショー状態だな。
「血がきれいに抜けきっています! これならお肉も美味しくなるでしょう!」
なお私がスパイクベアを回収して持って帰って、設置してある解体系の設備に放り込むかちょっと迷ったのは内緒だ。
何故かっていうと、まぁ間違いなくそっちの方が楽で確実なんだが、素材が手に入る量は大幅に減るからだな。もちろん要らない部分が勝手に消えるって便利さと引き換えだから、仕方ないんだが。
とはいえ今回はジェレック君が解体できるようだし、私が回収した時点で血は完全に抜けている上に温度も下がっていたらしい。だから内臓以外はあんまりグロい事にならず、逃亡生活ですっかりグロ耐性が付いたらしい元「避難民」組の人達は「お肉!」って顔で作業を覗きに来ていた。
「ていうか、うちに逃げてきた人達、よくあいつと遭遇しませんでしたね」
「……遭遇しなかったから逃げ切れた、かもな。どっちかっつーと」
お兄さん()突然怖い事言わないで???
でも多分今の世界だとお兄さん()の意見の方が正しいんだろうな、これがな。悲しいなぁ。
なお実質徹夜しただけあって、熊を持って帰った時に大型充電池の最大強化が終わっていたりする。さてこれで次は浄水器の浄水タンクの強化に取り掛かれるな。この手の、上限があるタイプの強化は出来るだけ早くカンストしておくべきだし。
「まぁでも、血が抜けてるって言っても血の匂いがゼロになった訳じゃありませんし、私も解体が終わるまでは中に居ます」
「その方がいいかもな。そもそも、単独行動はあぶねぇぞ」
「最初に見つけて結局使い慣れた武器がこれですからね」
「……確かに集団行動するには絶望的に向いてないがよ……」
という言い訳をして、屋根裏部屋の掃除と修理と家具配置にかかった。何しろ強化にかかる1回ずつの時間が短いから。そして一応資材は、少なくとも浄水タンクの強化ぐらいはいける筈だ。
時々スマホで強化作業をしながら、屋根裏部屋を修理していく。時々これは屋根に上らないとダメだな? っていう部分もあるが、それは後回しにするというか、後でまとめてやった方が良い。
しかし雨が降ってなくて良かったな。これ、雨が降ってたら結構雨漏りしてた可能性が高いぞ。断熱材は大丈夫みたいだから、そこにあるものを詰め直せばいけるだろうけど、ちょっとこれは急ぎかつ真面目にやった方がいいやつだ。
「資源は……ギリギリ解体で入る分で足りるか? ダメそうだったら、ちょっともったいないけど直せる車とか、倉庫の機械類とかも解体して間に合わせよう」
もちろんそうならない方がいいんだが、屋根にまで異常が出ているのは急いで修理しないといけないだろう。大家としても、プレイヤーとしてもだ。
雨漏りなんて大家としては見逃しちゃダメな問題の上位に堂々位置するし、プレイヤーとしても雨漏りがある=建物本体の耐久度が削れてるって事だからな。出来るだけ早く修理するに越した事はない。
幸いさっき外に出ない言い訳をしたからな。今日はこのまま夕方まで、屋根裏部屋の、内側からの修理に取り掛かろう。そして今晩はしっかり寝て、明日強化に時間がかかってる間に屋根に上って、外側からの修理だ。
…………命綱他安全の為のアレコレはしっかり点検してから作業しよう。本当に。