32.良性でも想定外
「結界樹の苗木」を植えたのは、まぁそうはいっても朝の内だ。だから私も外に出て、道を埋めるように転がるアレコレを回収する事で資材集めをしていた。何しろまだ強化の必要量に足りないからね。
王子様があそこまで知識的に役に立ってくれるのは良い誤算だったし、「結界樹の苗木」をベストポジションに植えられたのは完全に想定外だ。もちろん良い方の。だから、林の中の道、というかその左右の柵だな。これを強化するのは後回しにする事にした。
何故なら「結界樹の苗木」を植えられたからで、もっと言うなら1ヵ月が迫ってるからだな。あと10日を切った1ヵ月という節目では、電気と水道が止まっていよいよサバイバル生活が本格化する他に、結構大きめの襲撃イベントがある。
「とはいえ後の事を考えるとまだ小規模だし、リーダーのお兄さんの言う事を聞いてくれる状態のジェレック君がいるから、それこそあの林の中の道をもうちょっとしっかりして、直線で迎え撃つ形にすれば何とかなるかなって感じだった訳だけど……」
苗木とはいえ、結界樹はその性能が破格なのだ。あと10日を切ったところからどれだけ育つかは分からないが、正直、ちゃんと庭に植えられたって時点で勝ったも同然である。
初期状態の周りの壁の防御力を100、耐久度を100とすると、門が防御力50、耐久度50といったところ、結界樹の結界は苗木状態でも防御力300の耐久度500はある。しかも育てば育つほどに強力になっていくんだから、むしろ植えない理由がない。
……まぁ詳しすぎると怪しまれるからって理由で植えられなかったんだが。いやぁ、王子様が知識的な意味で働いてくれて良かった。本当に。安心感が違うからな。表には出せないけど。
「お陰で資材集めに回れる」
正直、外出できるとは思ってなかった。確かに資材は足りないが、それでもちゃんとした板はそれなりの量が溜まってきている。だからそれを使って、大型動物の突進でも1回は耐えられるぐらいにあの柵を強化するのに時間を使おうと思ってたから。
その分がある意味丸ごと浮いたから、こうして周辺探索に出れている訳だが。資材や資源はいくらあっても足りないからな。そういうゲームだったから、当然っちゃ当然なんだが。
……若干、本当に当然か? と、妹は当然として、王子様やジェレック君の変化を見ている事で浮かぶ疑問はあるが、それを追求するにはまだまだ何もかもが足りてない。だから、後回しだ。
「ん? ……もしもし?」
『すまねぇな、ツミキさん。ちとあんたの力を借りたい』
「どの系のです?」
『明らかに人間なんぞより大きなものを大量に持ち運べる不思議な力だな』
と、若干の無力さを噛みしめながら群れていた苔ゾンビをまとめて吹っ飛ばし、仕留めそこないがいない事を確認してからお饅頭型になった苔を回収していると、電話がかかって来た。
かけてきたのはリーダーのお兄さん()で、それ自体は別に良い。私の不思議な力というか『サバイバルクラフターズ』由来だろうアイテムボックスがバレているのも当然だろう。問題は、恐らくお兄さん()達では運べない大物を見つけたか、遭遇して仕留めたって事だ。
そんな大物を今のお兄さん()達で仕留められるかっていうと……まぁ、ジェレック君なら仕留められるな。王子様が居ない状態で死なないようにする目的で装備を最優先で与えていたら、最終的に小型とはいえドラゴンを1人で仕留めて来てたから、戦闘力だけで言えば本当に優秀なんだよ。突撃野郎だったけど。
「そんな大物がいたんですか?」
『いたというか遭遇したというか……ジェレックの腕前を確認した方がいいだろうって事で、森の浅いところに入ったんだが、そこで森の木よりデカい熊と遭遇してな……』
「くま」
『正直死んだと思ったんだが、まさかジェレックの奴が一太刀で首を切り落とすとは思わねぇんだよ』
「ひとたちで」
『とりあえず今は周辺警戒しながら血抜きして、手足を外してバラすぐらいはしてるんだが、腕1本でも大の大人と同じぐらいある。流石にこんなもん人力で持って帰るのは無理だ。……が。熊肉は、ちゃんと煮込んでアクを取ると、美味いんだよなぁ……』
「分かりました。分かりましたからまず座標教えてください」
ちょっと情報が多いなぁ……!
とりあえずその「森の木よりデカい熊」とやらの回収にはいくけどさぁ……!