30.生かされる能力
まぁ2時間でそんなに休める訳がないよな。
と、眠さを抱えながらいつもの時間に食堂に行ったんだが、そこで見かける人が皆眠そうだった。はて? とちょっと内心で首を傾げたが、あれだな。あの大声で皆変な時間に起きちゃったんだな。
その大声の原因ことジェレック君は、なんと元気に門の外で素振りをしていた。もしかしてあれからずっとやってたんだろうか。……いや流石に王子様が回収してたし、まさかね?
「うおっ!?」
「おはようございます!」
「お、おぉ、おはよう……どうしたそんな扉の真正面で……」
「殿下から門番警戒も兼ねて素振りをしていろと!」
「あー……」
……お兄さん()との会話らしいそんな声が聞こえていたので、あれから素振りを続けていたようだ。うん。うんまぁ。一応害にならないように操縦できてる……かな……?
「現地の探索隊長は貴殿だとお伺いしました! 探索に行く場合は何なりとご指示を!」
「お、おー……それじゃまず、もうちょっと声を落として喋れるか。結構音に寄ってくるやつは多い。大声で喋るのは悪い事じゃないが、気づいたら囲まれてるって事になりかねない」
「なるほどそれは失礼致しました」
そしてお兄さん()の適応も早い。というかあの突撃脳筋、声を抑えて喋れたのか。
まぁでもジェレック君を探索の戦力に数えるのは正解だ。本当に、戦闘力は本当に高いから。それこそ、最初の大規模な襲撃ぐらいなら、上手く援護して地形を用意すれば彼1人で何とかなったりする。
……確か昨日3回目の「避難民」の合流があったから、3週間経ってるんだよな。つまり今日は転移22日目だ。資材はまだちょっと足りないし壁や門を強化するにも至らないが、これはちょっと予定を変更しよう。
「リットさーん」
「[なんだ]」
「宝石があれば魔法が使えるとか言ってましたけど、どれくらい本当ですか?」
「[全て本当だが? この程度の敷地であれば、拳ほどのダイヤモンドがあれば十分に守れる。ギリギリサファイヤでも構わん。俺様は優秀だからな]」
「いやぁ魔法ってものがおとぎ話の存在だったもので。宝石単品で良いんですか?」
「[……そうか。世界が異なる可能性が高いんだったか。ならば1つずつ質問を受け付けるより魔法というものの基礎知識をまとめて語った方が早い。時間を作れ]」
「30分ぐらいで済みます?」
「[………………基礎の基礎の基礎だけに絞れば出来んことはないが]」
すげぇ。王子様と会話が成立してる。
ではなく。
「[そこまで聞きたがるという事は、宝石が見つかったのだな?]」
「うーん……当たらずとも遠からずというか……宝石だけど宝石じゃないというか……」
「[端的かつ簡潔に結論を述べよ]」
「いや見た事のないものなんで形容が難しいんですよ。強いて言うなら木の模型に近いですけど、生きた木を針金でがんじがらめにして宝石をはめ込んだようにも見えますし、枯れ木を金属と宝石で飾ったようにも見えますし」
素直に見た目の印象を述べると、流石に王子様も眉間にしわを寄せて黙ってしまった。だろうな。なお正解は「生きた苗木に貴金属のワイヤーを融合させて宝石をはめ込む土台をつけたもの」となる。さらに言うのであれば、魔法的防衛装置の1つだ。
最終的に防衛の要になる程度には重要かつ苗木だから育てる手間がある。植える場所も他の装置だのなんだのと喧嘩しないようにするとほぼ限定されるんだよな。ちなみに今そこには「コメの木」が植わっている。後で増やされた方の。
一応スマホを使って動かす事が出来るのは分かっているんだが、大物を動かすのはちょっと大変なんだよな。主に人払い的な意味で。
「私からすると芸術品とか美術品にしか見えないんですけど、宝石があれば魔法を使えるとの事で、もしかしたら魔法関係の品かなと思いまして」
「[……まぁ確かに、宝石を軸に金属と木材で加工するのが魔法の杖あるいは装置の作り方ではあるな。とはいえ本当にまともな物かは見ないと分からん]」
「苗木っぽくもあるんですけど、どこに出せばいいでしょう」
「[大きな樹木用の鉢があっただろう。とりあえずそこに出せ]」
すげぇ。王子様が知識的な意味で役に立ってる。
快挙だ快挙。ゲーム時代だったら快哉上げてコンビニの高いお菓子を買いに行っている所だ。