25.非公式王子様
こちらが何か反応する前に、ゴッ! と、かなり痛そうな音が響いた。
「なぁーにが「がんぐ」だ、命の恩人だぞ! お前は本当にいい加減にしろ!? お前が外に放り出されてないのはこのツミキさんの温情1点なんだからな!?」
リーダーのお兄さん()が、王子様の頭に真上から拳を落とした音だったようだ。王子様は頭を押さえてその場にうずくまっている。あぁうん、今のは確かに絶対痛いと思う。正直自分が玩具と呼ばれた事も吹っ飛んだ。
けど、今の。明らかに違う言語を喋っていたように聞こえたけど、どうやら意味は通じているようだ。リーダーのお兄さん()だけではなく、他の人も頷いたり呆れた目を向けているし。
まぁでも、それはそうか。この王子様はうちに逃げてきた人達を説得し(言いくるめ)て自分の味方にして、最終的にプレイヤーを追い出す。その為には、まず、言葉が通じなきゃダメだ。
「まぁ、おもちゃの種類の1つを名乗っているのは確かですけども」
「……、あぁ、がんぐってそういう。いやでもダメだろうが」
「[まともな名も名乗らない奴を、相応に呼んで何が悪い。むしろ呼んでやるだけ感謝し]」
王子様の言葉が変なところで途切れたのは、再びリーダーのお兄さん()に殴られたからである。まぁそりゃそうだ。王子様が王子様である事を知っているのは、現時点では少なくとも私だけだしな。それもゲーム知識なので、推察する要素は何も無い。
というか。
「そもそも、名乗らない云々についてあなたには言われたくないんですけど? だって私、まだあなたの名前聞いてませんが?」
「……」
「他の人は大体名前とどこで暮らしてたとかどういう事してたとか聞きましたけど、何も喋ってくれないのはあなただけですし、だからこそ少なくとも私からすれば正体不明なのはあなただけなんですけど」
「……」
「そんな正体不明の正直不審者に、まともな名も名乗らないとか言われましても。お前が言うな、としか」
っていう事なんだよな。王子様は黙りこくっているが、リーダーのお兄さん()達は……あれ、何でちょっとあっけに取られてる感じなんだこれ。
「……割と言う方だったんだな、ツミキさん……」
「だから普段黙ってる訳でして」
「あぁなるほど……」
あ、これ私が思ったより喋ったというか、一度口を開くと容赦ないっていうのにびっくりした感じか。それはすまない。私の素というか基本はこんな感じなんだ。まぁ普通にしてれば無害だから見逃してほしい。
「[貴様、よりにもよって、この俺様を、不審者、だと……]」
「いや事実だろうが」
「[貴様なんぞよりも俺様の方が遥かに生きる価値があるだろうが!?]」
「いえ。自力で生き延びる力は無さそうですし、だから放り出すとたぶん野垂れ死ぬだろうなぁと思うから居てもいいよって思ってるだけですし、必要かどうかっていったらまぁいらないですね」
斜め上から反論してきたから、いらない、と直球で返すと、何故かフリーズする王子様。いやだって、現実そうなってるじゃん。今回リーダーのお兄さん()達が連れてきたのだって、武器持たせてないところ見ると荷物持ち役でしょ?
たぶん見た目若いし実年齢も若かった筈だからお兄さん()達の未成年判定に入って、それで面倒見てもらえてるだけで、それってつまりお兄さん()達が人間出来てるから生かしてもらってるって事でしょ? 流石にそこまでは言わないけど。
そんな相手に斜め上から目線で何言われたって、ダメージなんて入る訳が無い。自力で立つ事も出来ない子猫が一生懸命鳴いていたところで可愛いだけだ。まぁ世話をしている側としては何で鳴いてるんだこいつぐらいは思うけど、それでもこれは鳴きたいから鳴いてるんだなと理解すればそれまでだし。
「体力も知識も無いなら無いで、掃除の手伝いとか収穫の手伝いとか、出来る仕事をしてから言ってほしいんですよね。そもそも、全員に関わる改善提案ならいつでも聞きますし。まぁやる事に関しては、今なら釣りって選択肢もありますけど」
「釣りは人気過ぎて釣り堀が足りないって話になってるぞ」
「……一応見た目は植物なんですから、そのうち育てばもっと大きくなるんじゃないですかね。現時点で大きいので、あんまり数は増やしたくないんですよ」
「まぁそれもそうか」
釣りに関してはそういう感じになっているし、実際釣り堀草を増やしていいかっていうのは相談されて知っている。
……お肉かなぁ。お肉だよなぁ。やはり動物性たんぱく質が足りないか。まぁお肉とお魚はそれはそれっていう可能性もあるし、単純に安全に楽しめるのは釣りぐらいっていうのもあるかもしれないけど。
他の設備を作るには、主に資源が足りないからなぁ……これも出不精だった影響か。頑張って周辺探索しなきゃ。
あれ? 何の話だっけ?