22.不思議の上限は上がるもの
案の定って言うべきか、台所の窓や換気ドラフト、備え付けの棚や引き出しを手作業で直して綺麗にすると、そこに新しい食材がいつの間にか補充されていたらしい。もっと早くやれば良かったな。もちろん、発電機と浄水器が見つかって設置出来たからこそ言える事ではあるんだけど。
その翌日の転移16日目のご飯はなんと、きゅうりの浅漬けと焼きおにぎりだった。もちろんまだ簡単な料理の範囲だが、一気に進化した感がある。まだもうちょっと台所は直せる場所があるから、今日中に全部直そう。本当に。野菜と調味料しかなくても工夫は出来るんだっていうのを分からせられたから。
という事で、これにも多分『サバイバルクラフターズ』と同じ補正が入ってるなって感じで一気に台所を修理。大型冷蔵庫の位置もちょっと調節して、収納と食器も全部使える状態になった。……まぁ、肉類はまだ無いんだけど。魚を含む。タンパク質は大豆でとるものだ。
「あの、ツミキさん」
「どうしました?」
「よく分からない種はとりあえず裏庭の、ちょっと離れた所に植える、でいいんですよね?」
「はい。それでいいです。……もしかしてなんか変なのが出来ました?」
「出来た、というか……」
屋内でもヘルメットをかぶっている訳だが、それはもう皆慣れてくれたので良しとして。大体『サバイバルクラフターズ』由来の不思議に慣れてきた元「避難民」の人が困惑している。今や半日で収穫出来て消えるじゃがいもにすら何の反応も見せなくなったのに。
という事はつまり、今までとは不思議っぷりが段違いって事だな。つまりご都合植物の新しいやつが出て来たんだろう。「コメの木」と「コムギの木」はもうある筈だから、それより上か。上だろうな。あれも大概ちょっと待てって見た目だけど、残念ながらもっとアレなご都合植物はまだまだある。
台所の修理も終わったというか、作業が終わるのを待ってくれていたのだろうから、そのまま裏庭の奥、壁の近くまで移動だ。実験畑状態になってて、確か「コムギの木」も最初の1本はここに生えてる。まぁそれ以外は出来るだけ移植して、場所を空けてある筈なんだけど。
「…………おっと」
人が集まっている一角に案内されて、囲まれるような形で困惑の視線を集めていたのは、何と言うか、子供用の丸いビニールプールを植物で作りました、みたいなものだった。中を覗くと、たっぷりの水が既に入っている。ただし不思議な事に、透明な水を透かして見える筈の葉っぱの緑が見えない。底が無いみたいに青くて暗い。
これはちょっと動かすのは難しいだろうな。少なくとも見た目からでは、どうやって動かせばいいのか分からないだろう。そうかこれが来たか。いやうんまぁその、確かにこれもあれば非常に助かるものなんだけども。
ちなみに「ゲームの知識で知ってます」と正直に言う訳にはいかないので、なんかよく分からない変化を起こした端末で調べられる、という体をとっている。実際、本当にそれで合っているかの確認はしているし。なので今回も端末を、その、植物性子供用プールみたいなものに向けて名前を確認。
「…………フィッシュホールブロメリア」
「ん?」
「え?」
「まぁ要するに、植物性の釣り堀かと。釣りが出来ます。魚が何処から来てるのかは分かりません」
「釣り堀。……釣り堀?」
「なんでぇ?」
「なんででしょうね……。とりあえず、これの倍までは大きくなるみたいなので、場所を移したいなら不思議な力で動かします」
何でかは知らん。『サバイバルクラフターズ』の時は、食料資源が手に入る便利植物だったんだ。ミニゲームで魚を釣ってたんだ。その魚が何処から来たのかは分からない。小さいうちはともかく、しっかり育ったら最終的にサメやマグロまで釣れてたし。
「ん? 待って釣り堀? ツミキさん、これ魚釣れるの?」
「釣り竿一式は必要ですけど、釣れるみたいですね。何かが」
「てことは魚食える……?」
「食べれるんじゃないでしょうか。食べれる奴が釣れれば」
おっと、気のせいじゃなければ目が光ったような。そして獲物を狙う目になったような。
「ツミキさん、釣り竿ある……?」
「地下倉庫探して、あったら東棟の北倉庫に入れておきます。移動先もその辺で良いですか?」
「おっけ。……魚、魚か。久しぶりの魚……」
「……塩振って焼いただけでも絶対に美味い……」
「あ、俺釣りが趣味だったから小さい奴なら捌ける」
いやー、食欲って強いな。でもとりあえず、釣り堀草の移動からだな。ほら、他の人がいたら動かせないんだから一旦散った散った。