19.迫るリミット
転移12日目、収穫無し。転移13日目、外の探索に出たけど大型機械は影も形も無し。転移14日目、リーダーのお兄さん()が追加の「避難民」を連れて帰って来た。なおこっちは収穫無し。
いやまぁ収穫無しって言ったら語弊があるかも知れない。色々、それこそご都合主義っぽい謎植物の種とか苗とかは見つかってるから。そしてそれらを植える場所を確保する為に前庭と裏庭の除草がいつの間にか終わってた。
流石に今の段階で「いやそこにはそこにしか設置出来ないあれこれがあるから出来れば場所を開けておいてほしい」なんて言える訳も無く、出来れば果樹やご都合樹木は植えないでほしいな~と思っている。思っていた。気が付いたら植えられてたよ。遅かった。
「なぁツミキさん。あの、米袋が生ってる木は何なんだ……?」
「……世界の変化のせいですかねぇ……」
「その横の袋が生ってる木は……?」
「中身は小麦粉でしたよ。種類が表面に表記されてました」
「じゃあその横の、どっからどう見てもトイレットペーパーが生ってる木は……?」
「トイレットペーパーですねぇ。シングルとダブル入り混じってますけど」
まぁ植えた結果はそんな感じなので、リーダーのお兄さん()もこんな感じだし、大体の「避難民」の人達は収穫のたびに首を傾げたり、近くを通るたびに二度見したりしている。それはそう。どうなってるんだろうな、本当に。生り方もそうだけど、成長の仕方が。
ちなみに調味料の源であるスパイスポケットも順調に数と種類を増やしている。塩と醤油とごま油が手に入るようになったから、だいぶ料理の幅も広がったし。ただすまない、サラダ油の入手経路はスパイスポケットじゃないんだ。もちろん教える訳にはいかないんだが。何しろちょっと知り過ぎで怪しすぎるからな。
とはいえ、この勢いで食料を増やしていたから追加の「避難民」もあっさり受け入れられたんだけどな。むしろ部屋の修理と掃除が間に合っていない。思ったより人数が増えるペースが早かった。
「なぁツミキさん。何でそうあっさり受け入れられるんだ?」
「引っ越した次の日の朝に、窓の向こうで同じぐらいの大きさのドラゴンと円盤型UFOが派手に喧嘩してるのを見てるし、現実逃避に草むしりをしたら草が消えたし、そこに植えたじゃがいもは半日で収穫できたからですかねぇ……」
「俺らも大概だと思ったが、ツミキさんも相当なもんを見てるな。……え? てーかドラゴン? いるの?」
「いましたよ。つやつやした綺麗な赤色の。まぁたぶん大型バスを回転させたぐらいの円盤型UFOから、ビームだかレーザーだかを乱射されてても平然としてましたけど。そして円盤型UFOは墜落して、ドラゴンは南の方に飛んでいきました」
「おっかねぇのがいるなぁ……」
ちなみに、事実である。何ならここが『サバイバルクラフターズ』の世界だと確信した光景でもある。だってあれ、オープニングだからね。ここでちょっとした乱数要素が確定するから、毎回割とちゃんと見てたんだよ。だから気付いたんだが。そして頭が痛い。その乱数は欲しくなかったって意味で。
もちろんこれも言う訳にはいかないんだが、もう笑うしかないって感じだな、リーダーのお兄さん()。まぁ、気持ちは分かる。それ以上に、初動でやんなきゃいけない事があったから動けただけで。
……ん? 待てよ? 今のタイミングだと言えるんじゃないか? 割と差し迫ってる安定した生活の危機について。この人の協力があると無しとじゃだいぶ違うぞ?
「……まぁその手の超常現象で一番問題なのは、電気と水道がいつまで生きてるか、って事なんですけど」
「……、は? え、なん、マジかよ」
「あのドラゴンの機嫌によるとか考えたくないですし、方向が一致してるだけだと思いたいんですけど……南側、変電所があるんですよね。そして電気がダメになると、浄水施設も影響は免れないというか……」
「…………不思議な現象で湧いて出てるのかと」
「その可能性もあるにはあるんですけど、一応水道のメーター動いてるんですよ。上下水道共に。つまり外部から入って来て、外部に出ている可能性がそこそこ高くてですね……」
「ま……っじかぁ……!!」
どうやらリーダーのお兄さん()も、そういう風に話を持って行くと納得せざるを得なかったようだ。うん。可能性はある、だろ? ここまでゲームと同じだったらまず同じで、1ヵ月時点で寸断されると思うけど。
「ただ、地下倉庫に、あの絞り機が有りました。だったら、発電機や浄水系の大型装置ぐらいはあるんじゃないかと、ここ数日全力で探してるところです」
「あぁ、そうか、なるほど……随分籠ってるなと思ったら、そりゃそれが最優先で当然だわ……。……って事は、あの外に出てきたのも、もしかして探してたのか?」
「はい。何しろUFOが墜落してドラゴンが空を飛ぶ世界になってしまいましたからね。その辺に落ちている、という可能性もゼロじゃないかなと」
「微妙に否定できないのが困る。……まぁそういう事なら、俺も探しておくが」
「助かります。それこそ不思議な力で、設置自体は恐らく問題ない、というのが一応朗報でしょうか」
「あー、なるほどそりゃ朗報だ。素人に組み立てが出来るとは思えねぇし」
よし、大型機械捜索の協力者ゲット。よろしく頼んだリーダーのお兄さん()。出来るだけ早く車修理出来るようにするから、もうちょっとだけ足で稼いでほしい。