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18.問題人物の問題行動

 翌日、転移11日目に、王子様が地下倉庫への柵の鍵を壊して、地下倉庫の床に叩きつけられ……る直前で辛うじて梯子を掴めた結果、肩の脱臼と筋の痛み、そしてその他全身の打撲を負う、という事件が発生した。

 なおその時はお昼ご飯を食べているところで、顆粒出汁とじゃがいものスープにさつまいもご飯という、実に炭水化物ぅ……って感じのメニューだったし、でもそれは仕方ないよね、って感じだったんだが、持ち歩いてる方の端末から警告めいたアラートが響いたから何事かと思った。

 いやまぁ、ファンタジーな異世界の人間だと言っても、色々制限があって「こちら」では魔法と言うものは使えない。少なくとも身1つでは無理だ。だからその王子様は、普通に重傷者だった訳なんだが……。


「安静にしておく、以外の治療法は、残念だけど無い」

「そらそうだ。というか、善意で受け入れてくれた相手の家で実質泥棒働きかけるとか、その怪我のままで外に放り出されても文句言えないだろ」


 家主である私と、どうやらリーダーを継続しているお兄さん()の意見が揃った。……これたぶんリーダーのお兄さん()も、道中で結構迷惑かけられてたなこれ。普通ここまで言いきらないだろ。一応見た感じ日本人だし。ちょいちょい外に出て釘バット無双してるみたいだけど。

 苔ゾンビの残骸を拾ってきて、絞り機に入れておけば、とても役に立つ液体と焼いて灰にすればすごく効果のある灰になる、というのは教えている。まぁ教えたから積極的に苔ゾンビを狩りに行ってるとも言えるだろうけど。ちゃんと、投げてぶつければ爆発する手榴弾も渡しているから、還元はしてるぞ。

 とはいえ、少なくとも現状仮とはいえトップの人間2人の意見が揃ったら、傲慢で強欲な王子様と言えど分が悪い事自体は悟るらしい。ぐ、と口を引き結んで、ぷいと反対側を向いた。


「こぉのクッソガキは……」

「ま、歩く元気はあるみたいだし、ご飯は自力で取りに行ってもらうし、食べ物自体は他の人と一緒で」

「な、」

「怪我人に割くような人手の余裕は無いし、同じく怪我人用の別献立を作っている余裕はない。外敵と戦ってる人ですらそういう扱いなのに、自業自得のあんたがそれ以上の扱い出来る訳ないのは当然でしょ」

「そりゃそうだな。それが嫌なら怪我するような真似をしなきゃ良かったんだ。なおかつ、お前は柵に取り付けられた鍵を壊してる。その弁償をしなきゃいけないぐらいなんだぞ? 分かってるか?」

「……」


 毛布の中に引っ込む王子様。拗ねやがった。

 だから嫌いなんだよこの王子様。その正体に気付いて以降のゲームじゃ即行放り出していたぐらいには。今は現実でちゃんと生きてるからまぁ余計な事しなければいいかと仏心だしたら、これだよ。

 はっきり言ってこのまま簀巻きにして外に転がしてもいいぐらいの事をされている訳だが、深々とため息を吐く。リーダーのお兄さん()の、クソガキ、というのは、まさにその通りとしか言いようがない。


「おうツミキさん、こいつ放り出すならいつでもやるぜ」

「下手に放り出すと、叫び声だのなんだのでゾンビが集まってきますからねぇ……流石に何百体も集まると、門も塀も持たないでしょうし。手榴弾もそこまで数が用意できてる訳でもないですし」

「あぁなるほど、そりゃダメだな」


 だいぶピキってるリーダーのお兄さん()には正直同意したいところだが、ゲームと違って、放り出して終わり、じゃないからな。絶対騒ぐに決まってるし、この王子様、嫌がらせの為だけに苔ゾンビや、下手したら異世界のモンスターまでこっちにぶつけてくる可能性があるからな。

 流石にまだ初期状態の門と塀じゃ耐久度も防御力も足りないし、戦闘力があって迎撃に回れる人数も足りない。それらを補うだけの火力も無いから、王子様を放り出すのはそういう意味で無理だ。

 逆に言えば、それらのどれかが揃った時点でこの王子様は放り出せるって事なんだが。そして現実になった今、放り出すとまず間違いなく野垂れ死にするだろう。それでもほぼほぼ同情できないんだが。


「せめて何か特殊技能があればもうちょっと言い訳できるんですけどね。人心掌握以外で」

「人心掌握というか、弱みと脅迫と洗脳だけどな。……途中で何人かやられて、被害が出たから知ってるが」


 ……やっぱこいつ今すぐ放り出した方がいいかなぁ、という気分になったのは、まぁ、まだちょっと甘かったって事なんだろう。リーダーのお兄さん()の声が、低い、暗い、重いの三拍子揃ってたから。


「命がけで逃げて、守ってもらってる最中にそれは確かに……足枷つけて部屋に軟禁ですかね。防衛準備が整うまでは」

「足枷なんかあんのか?」

「あったんですよ。不思議な事に。……この家を購入した時の間取りには、あんな大きな地下空間なんて無かった筈なんですけど」

「……ほんとに変な事になってんだな」


 まぁでもとりあえずその場では話を逸らし、少なくとも片腕はまともに動かず、歩けるといっても不自由極まりない状態の王子様(in毛布)を放置して部屋から出る。そして、部屋の外から後付けの閂をかけた。とりあえずこれで良しとしておこう。

 ……しかし、どうしたものかな。割と真面目に。


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