16.イベント完了と牽制
無事「避難民」は、夜中まで待ちぼうけだったとはいえ収容できた。その中に妹がいたのはほんとちょっと待てよだったし、明らかに食べて無いし休んで無い感じだったから、まず休めって言ってしまったけど。本当は、この建物は私のもので、誰かに譲渡する予定は一切無い、って最初に釘を刺すつもりだったのに。
まぁでも結果的にそれで良かったらしく、夜中から朝まででもそれなりに休めたらしい。もちろん、まだ起きていない人達も多いけど、少なくとも『サバイバルクラフターズ』ではちょっと良い武器として扱われていた釘バット装備の男の人には、起きてすぐ感謝されたから。
それはそれとしてちゃんとおかゆは作っておいたし冷蔵庫に入れてある。ついでにおかゆを作っている間に仕込んで今朝炊きあがったご飯については塩おにぎりにしておいた。握ってる間に次のご飯も仕込んでいるので、とりあえず次とその次の食事は大丈夫だ。
「えー、はじめまして。この家の持ち主であるツミキです」
と言う事で、転移8日目は「避難民」という扱いになるのだろう11人の生存者のお世話というかケアというか、そんな感じで過ぎた。まぁ仕方ないな。その間に地下倉庫にいって木箱を開けて、着替えになりそうな服を大量に、普通の倉庫に移しておけたからヨシ。
という訳で、転移9日目。色々考えた結果、大きめの部屋に大きな机と大量の椅子を移動させて簡易の食堂にする事にして、さつまいもご飯のおにぎり、塩おにぎり、じゃがいもオンリーガレットというご飯を出して、食べながら自己紹介する事にした。
もちろんヘルメットはつけたままだ。なおその理由は、あの異常が起こってから光が眩しく見え過ぎるようになった、とりあえず視界を遮らず光の量を抑えられるものがこれしか無かった、と説明した。大体分かってくれたみたいなので何よりだ。
「皆さんを受け入れたのは人道に則っての事であると同時に善意であり、いたいなら居てくれて構いません。まぁその場合、掃除や食事の準備は手伝っていただきたいですし、各自の持ち物の管理や洗濯はやってもらいますが。同時に、出ていきたければ止めません。その場合は基本的に戻って来ないものと判断し、一度限り日持ちする食料や着替え、毛布等、可能な限りの支援をします」
何でいま出ていく話を? と、首を傾げている人がほとんどだが、リーダーだった人を含めた何人かは理解してくれたようだ。こういうのは最初にはっきりさせておかないといけない、っていうのを。
こっちとしても、正直そこまで強い言葉を使うつもりは無かったのが、くっきりはっきりさせなきゃいけないという必要にかられての事だ。ちょっと突き放すような調子なのは、仕方ない。何故かと言うと、混ざっているからだな。
そう。「避難民」の中に、混ざってたんだよな。ファンタジーな異世界出身で、放っておくと勝手に住人を自分の部下にして、ある程度以上部下が揃ったら、プレイヤーを追い出す地雷枠……ファンタジー異世界の、国から追い出された王子様が。
「また、この家では色々不思議な事が分かりますが、その理由は恐らく持ち主である私です。ただし私自身にもどうして不思議な事が起こるようになったのかは分からず、この家以外での再現性も、私がここを出ていった場合どうなるかというのも不明です。……まぁ私自身はこの家を離れるつもりは全く無いのですが。中にはこの家を安全圏だと見て、強奪しようとする人がいるかも知れませんし。念の為、備えて頂く、という事で」
お前の事だぞ。とまではいわなかったし、視線もむけなかったが、お前の事なんだぞ、王子様。だから小さくとはいえ舌打ちすんな。この傲慢強欲腹黒王子がよ。だから追放されるんだぞ。そういうとこだぞ。マジで。
ただまぁ舌打ちした事で、リーダーやってた人は「こいつなんかやるつもりだったな」と気付いたし、警戒対象に入れてくれたようだから、まぁ良し。こっちの味方が増えて王子様の敵が増えた。
「ついでに言えば、私はこの家の防衛を優先し、生存を最優先として、安定した生活を目指して行動します。外に打って出る予定はありません。助けを求められれば応じますが、自分から要救助者を探したり、生存者の集団を招いたりはしません。……まぁ今回ここに辿り着いた皆さんがそれをやる事を止める、と言う事もありませんし、そうやって人が増えても保護と支援はしますが」
なおかつ、私は最低限以外外出しない事も宣言。ただし、外出を止める事も無いし、人を連れてくる事も止めない。そして連れて帰る事に成功したら受け入れる、という事もはっきり言っておく。つまり今回避難してきた人の「やる事」になる訳だな。
その読みは当たっていたらしく、はっとした顔でこっちを見る人が多い。個人的には、その中に妹が入っているのがちょっと頭が痛いが……まぁ、出来る事がある、っていうのは、人間が生きる為に必要なモチベーションだからな。
後は、地下倉庫には近寄らない方がいい。事故が起こる可能性が高い。そう伝えて、私は席を立った。ここに辿り着いた人同士で話したい事がある感じだったからね。……さて、頑張って1つでも多く、地下倉庫の箱を開けるか。色々一気に必要な物の量が増えたから。