96.一時応援
『サバイバルクラフターズ』というゲームの時は、当たり前だが、プレイヤーがいない拠点に襲撃は無かった。それはそうだ。だってゲームっていうのはプレイヤーありきであり、原則としてプレイヤーが関わる事が出来ない場所でイベントは起こらない。
だが現在はゲーム補正や不思議植物が堂々と存在しているものの、現実である。私はプレイヤーに相当するゲーム補正がかかっているが、それでも恐らく、ゲームの主人公であるプレイヤーそのものではないのだろう。
だからこそ現時点での拠点2ヵ所共に襲撃があったし、同時に防衛戦を行う事になっている。まぁ工一さんと王子様はそれを想定して、どちらかというと防御が薄く最前線と言う名の危険地帯に近い牧場に、より多くの戦力を置いていたようだが。
「ツミキさん、工一さんから連絡です。このリストの物を持ってきてほしいと」
「分かりました。すぐ向かいます」
とはいえ、その防衛戦が行われる予定だったのは、あと1週間ほど先だった。少なくとも、工一さんと王子様はその想定をしていただろう。だから、消耗品の運び込みは万全とは言えない状態だ。
つまり、あちらの方が弾切れが早い。もちろん以前私が鑑定してもらってそのまま配った武器とか、それこそあの襲撃をかけて来た宇宙人の武器とか、そういう何度も使える遠距離武器もあるだろうが、それでも、高師さん達を含めた非戦闘員による使い捨て投擲武器の攻撃は、小さくない。
ましてあっちはマルティヤ、マンティコアの小さいやつらしいからな。毒針を飛ばす、という攻撃手段の分だけ射程は長いだろうし、解毒薬は向こうで作ってそのまま備蓄している筈とはいえ、まだ原料となる薬草の栽培から始めたばかり。いくつも食らえばあっという間に底を尽く。
「緋朱、ひーしゅ」
「ンキュゥルル……」
「すまんな。ちょっとだけ乗せて飛んでくれ。助けが必要だって連絡が来たんだ」
もちろんこっちも絶賛防衛中なんだが、まぁでも用意だけはしておいたし、緋朱用の鞍はもう作ってある。だから連絡が来てすぐ前庭に移動して緋朱を呼んだんだが、自分の寝床に攻撃がかけられているだけあって、緋朱はあんまりこの場を離れたく無さそうだ。
それを何とか宥めておやつで釣って、鞍を着けて飛んでもらう事に成功した。一応緋朱には牧場の場所を覚えて貰っているから、迷う事が無かったのは良かった。
んだが。
「グゥゥ……」
「緋朱?」
「ゥー……ガアッ!」
「わあ」
こっちもこっちですごい数だな……と上空から防衛模様が見えた時点で、緋朱が数秒ホバリングしたんだよな。まさか、と思ったら、一番たくさん固まってる場所に向かって、ファイアボール型のブレスが叩き込まれた。
ズドン! とすごい爆発が起きるが、まさかの襲撃を受けたマルティヤ側は大混乱だ。それはそう。大好物の人間の巣を襲いに来たら、ドラゴンが通りがかって目をつけられるなんて、巻き込まれ事故みたいなものだからな。
でも緋朱は賢いので、この場所がキャラメルやシュークリームといった甘くて美味しい物を作る場所だと知っている。それでなくても自分の巣が襲撃されて不機嫌だったのに、美味しい物を作る場所までこんなことになってたら、まぁ普通に怒るだろう。
「緋朱か!?」
「物資持ってきましたよー!」
「ツミキさんか、助かる! 緋朱、こっちだ! 甘いケーキがあるぞ!」
「キュルッ!」
ドゴン! バゴン! ズドォ! と、立て続けにファイアボール型のブレスを叩き込まれ、マルティヤの群れに穴が開いていく。となれば牧場に対する圧も緩むし、そんな爆発を起こすのなんて、それこそ私か緋朱だけだ。
という事で上空を見上げて緋朱に気付いた工一さん。それに緋朱の背中から私が応答すると、即座に緋朱の気を引く単語を出してくれた。緋朱は賢いので、ケーキ=甘くてとても美味しいもの、という事を知っているのだ。
「いや助かった。まさかこんなに早く来るとは思ってなかったからな」
「それこそリットさんに分からなければ、誰にも分かりませんよ」
特製の緋朱サイズカヌレを頬張って機嫌が直った緋朱の横で、素早く牧場の敷地内に物資である使い捨ての手榴弾や投げナイフが詰まった箱を並べていく。その作業をしながらそんな会話があったが、まぁ仕方ない。
私は分かってたんじゃないかって? いいや、2ヵ所同時だとは思わなかったから、想定外だっていうのは嘘じゃないぞ。




