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10.本来はここからゲームスタート

 持って上がったよ。

 持って上がったさ。

 板状の重量物を自分の背中に括り付けて、命綱無しの梯子を上り切ったが何か!?


「二度と、重量物の縦方向の運搬なんてやらない……」


 1階の倉庫の床に上がる時が一番怖かったな。何しろ背中に重量物があるんだ。両手でしっかり梯子に掴まっていられる間でも後ろに倒れそうだったのに、壁際の片手分しかない手すりを頼りに身体を引き上げなきゃいけないんだから。

 これは、ちょっとでもミスすると地下倉庫に落ちる、という確信があったから、壁際の手すりと梯子の一番上を持った状態で、床を這うように上半身を押し出したんだ。床と重量物に挟まれてかなり苦しかったが、無事重心は床がある場所に動いた。

 そこから這いずり状態のまま下半身を倉庫の床の上に移動させて、絶対に地下倉庫への入口に入らない場所まで移動。そこからゆっくり深いお辞儀をしたような姿勢になって、しっかり踏ん張りながら上半身を起こした。まぁそこから2階に上がらなきゃいけなくて、その階段がまた怖かったんだけど。


「地下倉庫では電源に繋いでも起動しないとか訳の分からない事になってたし、『サバイバルクラフターズ』でもこの部屋がプレイヤーの部屋だったから、ここなら動く筈……」


 この部屋は真っ先に掃除したし、部屋としての状態は一番マシだったっていうのもあって寝る場所に選んだ。まぁこうなる前はまさか『サバイバルクラフターズ』の最初の拠点の、プレイヤーの部屋だなんて全く気付かなかったけど。そりゃそうだよ。この建物の間取り図見ても、何か見覚えあるような? としか思わなかったんだから。

 そもそも『サバイバルクラフターズ』はダウンロードタイプでオフラインモードがあるとはいえ、スマホのゲームだった。アップデートが止まればそれ以上世界の時間は進まなくなるし、サ終したらそこまでだ。そこまでだった。

 やり込み要素をコンプリートして、そう言えば随分アップデートが無いな、と思っていたら、そこからしばらくしてサービス終了のお知らせで、あっけなくあの時作り上げた最強の拠点と集めた仲間達は消えてしまった。いやまぁ、それ自体は仕方ない。むしろやる事もなくなったから、区切りをつけるのに良いタイミングだったとも言える。


「……」


 スマホも買い替えたし、移行したデータの中に『サバイバルクラフターズ』は無い。そりゃそうだ。その前にアンインストールしたんだから。だから痕跡すら残ってない。

 ――だっていうのに。

 今ここは、まさしく『サバイバルクラフターズ』の世界で。散々ゲームオーバーからのリスタートで繰り返した1日目からを、自分の身体を動かしてやっている。死にたくないから、生き延びたいから。可能なら他の人も助けたいから。



 それ以外に。あるいはそれ以上に。

 純粋に『サバイバルクラフターズ』を、また楽しんでる部分がある。



 まぁそりゃそうだ。熱中したゲームは数あれど、たぶんあれが一番色々な意味で「合って」いた。だから大体はストーリーをクリアすれば満足するところ、やり込み要素までコンプリートしたし、普段は1つストーリーを確認したらもういいかになるのに、何度でも周回したんだから。

 そこまではまっていたからこそ、世界の様子が変わった事にすぐ気が付いたし。その変わった先があのゲームだと断言できたし。とっくに消えてしまったゲームのデータなんてものを、ノート何冊分も書き出す事が出来たし、こうして迷いなく動けているんだ。

 これが本当に知らない場所だったら、それこそ夢落ちを期待して3日ぐらいは棒に振ってる自信がある。生憎非常事態への対応力は底辺もしくは突き抜けてマイナスだ。動くとパニックを助長するだけだから、動くな、と、性格を知っている人には全員言われる。


「あ、動いた」


 電源を繋ぎ、ネットを有線で繋ぎ、電源ボタンを押しても駆動音がするだけで何の変化も無かった画面が、青色になった。考え事は終わりだ。問題はこのモニターが、正しくはモニターと1つになってる、一体型って言われるパソコンが、『サバイバルクラフターズ』におけるプレイヤーの端末と同じものかって事だ。

 一応キーボードとマウスも接続しているが、画面を触る事でも操作できるタイプだと思う。説明書は無かったけど、やけに手触りが良い布が周辺機器の箱に入っていたから。これってつまり画面が汚れる事が前提にあるって事だろう。つまり画面に触る、可能性が高い。

 まぁ流石に画面が大きいから、部屋の隅に一体型パソコン(45インチ)を置いて、部屋の真ん中に置いたテーブルのセットになっていた椅子に座って青くなった画面を見ている。しかし大きいな。これは無線タイプのキーボードとマウスを頑張って探すか、いっそあれをテーブルの真ん中に埋め込むかした方が良い気がする。


『プレイヤー名を入力してください』

「ユーザー名じゃないって事は、確定か……何でこんな大型化したのやら」


 そんな事を考えてる間に、青い画面の真ん中に、そんな表示が出た。普通のパソコンならユーザー名の筈だ。でも今この画面には、プレイヤー名、と書いてある。『サバイバルクラフターズ』の時は黒画面に白い入力枠だったけど、ニューゲームの時はこうだった。

 さてここで問題なのは、本名を入れるか『サバイバルクラフターズ』のプレイヤー名を入れるかだ。

 まぁいくらゲームの補正や都合の良いあれこれがあっても、少なくともここにいる自分は現実だし、アバターや主人公ではなく自分自身なんだから、本名を入れた方が良いとは思う。

 思うんだが、『サバイバルクラフターズ』はオンライン要素として、他の拠点を行き来するキャラクターがいる。行商人的なあれだ。もちろん直接何かできる訳じゃないんだが、このプレイヤー名っていうのはそのキャラクターを含めた全員が呼んでくる名前になる訳だ。

 で。実は自分の名前っていうのが、あんまり連呼されるとちょっと恥ずかしい。いやまぁ文句があるほどではないというか割と気に入ってはいるんだが、自分で気に入るのと他人から呼ばれるのは違うというかなんというか。


「…………どうせ本名のもじりではあったし、プレイヤー名でいいか。プレイヤー名だし。登録名みたいなものだし」


 結果、心の何かが折れる気がしたので、プレイヤー名として最終的に使っていた「ツミキ」という。本名? ……鼓喜美、つづみきみ、と読む。下の名前だけで。

 これ毎回名前の由来を説明する事になるから、それが恥ずかしいんだよなぁ……いや目一杯愛情込めて名付けてくれたのは分かるし、名前の響き自体は気に入ってるんだけども……。


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