1.非常にシームレスな異世界転移
フィクション系の創作物に出てくる「荒廃した町」っていうのは、一言で言っても、その原因によっていくつか種類がある。
地震や嵐なんかの自然災害なら崩れたり割れたりして地面もひび割れたりしているだろうし、火事なら少なくとも黒く焦げた跡と何かが燃えた匂いは避けられない。
人がいなくなったのなら建物が全体的にボロボロで植物に飲み込まれかけてるだろうし、暴動や戦争なら、人の手によって壊されたと分かる痕跡が残っている。
「明らかに壊されてるから、やっぱり分類的には、戦争での荒廃なんだよねぇ……」
ただしその壊れ方が、どう考えても人間より大きい動物によるものだった場合は? 本当に動物かどうかは別として、爪で引っかいたり(引き裂いたり)牙で突き刺したり(ぶち破ったり)しているから、動物と言う事にしておく。正式名称聞いてないし。
地盤と基礎のしっかりしている廃屋を買って、セルフリフォームして売る、というのを趣味にしていたら、いつの間にか仕事に出来るぐらい腕前が上がっていたのはまぁともかく。
いつからか「好きにしていい廃屋」の話が集まってくるようになって、その時も同じように、ちょっと集落から離れた別荘みたいな、まぁ、それなりに長い間人の手が入ってないな? っていう、庭付きお屋敷未満の一軒家を格安で買わせてもらったのは良かったんだけど。
「なーんか見覚えある気がすると思ってたら、まさかの『サバイバルクラフターズ』初期地点とは思わないし。そこから、異世界だかゲーム世界だかに飛ばされるとは思って無いし……」
いらなくなった(壊れてる)家具も残ってるって話だったし、実際ちょいちょいと修理すれば何とかなりそうな一式は揃ってた。だから、一軒家って言うには大きいけどお屋敷と呼ぶ程ではないかな、という、三世帯住宅ぐらいのその家。
その中の、たぶん寝室だったんだろうなって部屋だけを掃除してシーツが剥がされたベッドに毛布を敷いて寝て……起きてリフォーム資材を買いに行こうとしたら、周りの景色が変わってるとかさぁ。
いやぁ、トラックに跳ねられるとか痛いだろうし、地面に穴が開くのも普通に怖いと思う。けど、それはそれとして、あんまりにもちょっとシームレス異世界転移が過ぎないかな? とも思う訳で。
「しかも『サバイバルクラフターズ』はセルフリフォームにはまる切っ掛けだし、結構やりこんでたとはいえ、ゾンビ的パンデミックと宇宙からの侵略と異世界との衝突が同時多発に起こって、何が何やらなまま世界がほぼ滅んだっていう超ハードな設定だった筈だし」
ゲームとして見ている時は、盛ってるなぁ、で済んだものの、少なくとも今現在は現実になっている事を考えると、ちょっと待てとしか。
そんなだから生き残りの人間というのは少ないし、どうやら宇宙人も侵略を諦めていないし、衝突した異世界からはモンスターっていう野生動物がどんどん流れ込んでくるしで、安全な場所っていうのがほぼ無い。
そこで「ちょっと日曜大工に自信のある」主人公が生存拠点を作って、安全な範囲を拡大していき、そこに人が集まってどうにか生活していく、みたいなゲームだった。まぁ設定を盛り過ぎているところから分かる通り(?)やり込み要素もすごいボリュームがあった訳なんだけど。
「それを、リアルでやれと……待って? 確か主に宇宙人とか大型モンスターが襲撃掛けてくるイベント無かった? 流石に重火器の知識は無いが?」
いや、ゲームでもその辺、防衛兵器の類を作っていたのは主人公じゃなくて、軍人系のキャラクター、は直接戦闘能力だ。ええと、元の世界系統だと開発者系、宇宙人系統だと追放者か逃亡者、ファンタジー異世界だと魔法使いだった筈。
……やりこんでたけど、ちょっとこれは一回、覚えてる間に全部情報を書き出しておくべきだな。少なくとも必要な材料とか作れるものとかは同じ筈だし、宇宙人にはスパイもいたし、ファンタジー異世界も王族とかは乗っ取りかけてくるし。
万が一の時、それに賛成する生存者をうっかり仲間にしてたら、こっちが追い出される。ゲームだと単にゲームオーバーからのコンティニューだったけど、現実になった今は……。
「とりあえず、地雷キャラクターだけは全部思い出しておこう。どうせここから先、まともに考え事出来るような時間はどんどん無くなる。最初の、何もしてない時が一番平和だからな『サバイバルクラフターズ』は」
ただし、イベントの類は拠点の発展具合フラグのやつと、生存者の人数フラグのやつと、日数フラグのやつがある。だからのんびりしている暇は無い。
何故なら、襲撃系のイベントは、半分ぐらい日数フラグだったからだ。