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彼女の戦い(前日譚)

実はこの後母の日に向けて3個程書く予定のシスティーナの頑張りが本編だったけど、お兄様が美し過ぎた。



システィーナの兄のウィルバルドは誰が見ても規格外であった。




彼を語るのにまず表現されるのはその美麗な容姿であろう。

ウィルバルドはとにかく美しい。

世界中のあらゆる美を寄せ集めて吟味して凝縮したパーツを緻密な計算で配置したような、そんな魅力的な容貌をしている。


ちなみに彼が学生の頃、学園で密かにつけられていた渾名は『直射日光』である。


ヤバい。

眩しくて見れない。


真正面から見ると美の暴力で目が潰れてしまうのではないかと生徒たち教師たちを慄かせた故の渾名である。


そんな彼は華やかな外見に反して、穏やかで真面目で誠実な人柄であった。

彼の両親の涙ぐましい努力の結果である。


生まれてきた我が子の顔を見た瞬間、彼の両親は悟ったという。

この子はきっと顔面で苦労するだろうと。

こんな美々しい新生児見たことないわと。


国王陛下が新年の挨拶で言ってた!

王族だろうと生まれてきた時は皆おサルさんやと。

人類皆サルやと!!

ウチのコ、今この瞬間でも超絶麗し可愛いんですけど?!

いやいやいや、親バカじゃない!

親バカじゃないよ事実だよ!

赤子は皆おサルさんやないんか?

アカン、コレヤバいヤツや。

この子次第で国傾けてしまうやん。



傾国の乳児の爆誕である。



それから彼の両親は頑張った。

人外とも呼べる美貌の息子が女好きの遊び人になんかなったら目も当てられない。

滅多に現れないが、極たまに居るのだ。

己に自信があり過ぎる余り、自分だけは特別だと勘違いして異性を誑し、無下に扱う輩が。

この国では浮気など許される風潮ではない。


清く正しく美しく。


人には優しく、領民には誠実に、をスローガンに息子の教育を教師と共に手に手を取り合って頑張ったのだ。

ウィルバルドの教育に携わった教師達も、あどけなくも麗しい幼児を見た瞬間に、ヤバない?え?何この子美し過ぎない?と動揺し、両親の懸念を聞いて深く頷いた。


そんな周囲の懸念を他所に、ウィルバルドはおっとりとした善良な性格に育った。

台風の中心地が風も無く穏やかであるのと同じ現象だ。

好物のイチゴを庭師に摘んで貰って『ありあと〜ごじゃましゅ』とふにゃりと笑ってお礼を言う様なフレンドリーな子供でもあった。


また美し過ぎて、逆に変な輩も沸いて出ることは無かったのも大きいだろう。

美に圧倒されて手が出せないのだ。

中途半端では無いのだ。

隙なく完璧に美しいのだ。


礼拝堂でウィルバルドを見かけたおじいちゃんおばあちゃんが思わず涙を流して手を合わせて拝んでしまうような圧倒的な美しさである。

『腰痛が治った』『十歳若返った気がする』『心洗われた』とは、ウィルバルドを見た年配者達の感想である。

それは、聖女の癒しと並んで語られる美しさとは何だろう……と、周囲の者たちを複雑な気持ちにさせた。



そんな兄を持つシスティーナは、至って普通の貴族の令嬢であった。

とは言っても筆頭公爵家という高位貴族に相応しい程度の美貌と品格が幼いながらに備わっているのではあるが、兄程の規格外ではない。


両親はホッとした。

可愛い娘は国王陛下のお言葉通り、産まれた時はちゃんとおサルさんだった。



『……うん……まぁ、この子の場合は仕方ないんじゃないかな?無理だろう、この顔でおサルさんは』


話が違う!産まれたてから美しかったと、公爵家嫡男を腕に訴える公爵に、その腕にちまりと収まっているのに圧倒的無双状態の幼児の顔面の強さに戦慄しながら国王陛下は答えた。

美形には慣れている筈なのにビビる程の美しさである。

この幼児、コンパクトなのにインパクト特大なのである。



『人類皆サルではなかったのですか?我が娘リリアナのこの堂々たる風格は何です?産まれたてから見えてない筈なのに眼光鋭い殺し屋みたいな目をしてたのですよ?』


同年、辺境伯から娘を腕に問いかけられた国王陛下は、知らんがなと言いたいのを堪えて顔を引き攣らせながら同じ言葉を繰り出したという。

辺境伯の令嬢はちんまいのに、冒険者に例えるなら筋骨隆々のSランク並の圧倒的強者感があった。



王太子殿下の誕生も霞む、癖が強すぎる世代の誕生である。





まぁ、娘は無駄に苦労する事はないだろう。

公爵家に相応しい普通の貴族の娘の幸せを掴む事が出来る様に私達も努力しようと思った。

ホッとしたのも束の間、産まれて数年の後、システィーナは突然覚醒した。


第二王子の友人を作る為のお茶会の席で気絶した娘は、意識が戻ると自分には前世があると語ったのだ。


曰く、ここは『傾国のフリューリング』というタイトルのゲームの世界なのだと。

ピンク髪の愛らしい平民の娘が、男爵家の庶子というのが分かって引き取られ、学園に通い其処で王族を始めとする高位貴族の子息達と恋に落ちるあらすじなのだと。


んん?子息『達』?



「はい。逆ハーレム。略して逆ハー。複数の令息達と恋をして恋人になるゲームですね」

両親の顔に疑問が浮かんだのに気付いたのか、システィーナがサラッと答えた。


秩序も倫理観も存在しない世界にどんな無法地帯かな?と、彼女の両親の顔が大きく引き攣った。

ドン引きである。

あらゆる意味で有り得ない。


限りなく平民に近い娘と高位貴族の子息が結ばれるというのも有り得ないが、この国は一夫一妻。

互いの伴侶を熱烈に愛するというのがこの国の者達の特徴だ。

まず浮気など存在しない。

培われてきた遺伝子故に、高位貴族になるほど溺愛体質が顕著に現れる傾向にあるのだ。

次代に確実に繋げなければならない王族でさえも側室を持たない。


魔法がある世界なのだ。

聖女も聖人もいる。

何なら神様だって神殿に常駐しているのだ。

力技でなんとかするのが常である


そんな世界で複数の子息と関係を持つ娘など地雷以外の何物でもない。


ちなみにフリューリングとはシスティーナの住んでいた世界のドイツという国の言語で『春』という意味らしい。

訳して『傾国の春』

意味が解らない。

国を傾ける春とは一体……まあ、その娘がやらかせば国も傾くだろうから、傾国ではないとは言えないかも知れないが。


「そして私は第二王子殿下の婚約者で、殿下をピン子に寝取られて意地悪して断罪される悪役令嬢です。」

「ピン子……」

「名前が思い出せないのでピンク髪の女の子……略してピン子です」

「………そうか……」


何故そんな部分をピックアップして雑に略してしまったんだ?

公爵は問いかけたかったが、娘があまりにも真剣な顔をしているので口を噤んだ。

システィーナはふぅ……と溜め息をついて話し出す。


「ハッキリ言って、私の断罪もピン子もどうでも良いのです」

「どうでも良くないだろう」

「いえ。そのゲームには、お兄様が教師役で逆ハーメンバーとして登場するのです」 

「………は?我が公爵家の嫡男が、騎士団や文官ならともかく何故学園の教師をする必要があるのだ?」

「あくまでも物語ですから。ご都合主義ですね。年齢的に教師として登場させるしか無かったのではないでしょうか。この国を語るのに、お兄様の美は外せないですからね。お兄様は至上の美をお持ちです。なのでターゲットにされたのでしょう。お兄様はピン子に心奪われて、婚約者に婚約破棄を突きつける教師役で登場するのですよ?」

「……………はぁ?」

「お兄様は婚約者であるリリアナ様に婚約破棄を突きつけるのです」

「それはマズイ!!」

「そう……そんな事になれば本当に国が滅びるかもしれません。」

「確実に滅びるね!何ならこの苺タルトを掛けても良い!リリアナ嬢からウィルを奪おうなんて、ピン子は何て命知らずな娘なのだ!!」

「バッドエンドでは謎の爆発により国が焦土と化します。原因は記されておりませんでしたがおそらく……」

「リリアナ嬢がうっかりやらかしたのだろうな……」

「あの方、剣を振るう風圧で海を割る事が出来、無詠唱で繰り出す魔法で巨石を砕く事が出来る力量をお持ちですから」

「……ウチの息子の未来の嫁、少々強きが過ぎるのでは?」

「お兄様が受け入れてらっしゃるから宜しいのでは?どれもコレもお兄様を守りたいという一心の健気な乙女心ですわ、お父様。」

「……乙女……心……?」

「まぁ、例えこの地が更地になったとしてもお兄様だけは無傷だと思いますよ。リリアナ様がお兄様を害するなど考えられません」

「生きていれば良いという訳ではないだろう……そもそもウチのウィルが浮気など、考えられないのだが」

「ですね」


リリアナは現在御年10歳の辺境伯令嬢である。

20歳である婚約者のウィルバルドとは一回りほど年齢が離れているが、それには訳がある。

彼女もまた前世の記憶持ちなのだ。

システィーナとは違う点は、彼女が現地産の転生者だと言う事だ。

そう、彼女は前世も同じ家の辺境伯令嬢で、ウィルバルドの婚約者であった令嬢だった。

流行り病の後遺症で病弱になった彼女の実家は迷惑を掛けられないと婚約を解消しようとしたが、幼いながらも婚約者と想い合っていたウィルバルドは涙ながらに拒否。

僕の妻になる女性はリリィ以外考えられない。お願いです、リリィの傍に居させて下さい……と辺境伯家の家人を誑し……いや、懇願して彼女の最期を看取ったという経緯がある。


ちなみに『あの』辺境伯令嬢リリアナをも斃したという流行り病の恐ろしさに国の人々は貴族平民問わず震撼し、政敵関係なく皆で協力しあって必死こいて特効薬の開発を急いだのだという。

ある意味、流行り病終結の立役者であった。



リリィこと辺境伯令嬢のリリアナは許せなかった。

何が許せないって大好きなウィルバルドを悲しませてしまった己自身が。

一目見た瞬間から恋に落ちた。

生涯守り抜こうと誓った筈なのに。

頑張って鋼の肉体と無象の魔力を手に入れたのに、病には勝てなかった。

病に掛かる者が多すぎて、聖女や聖人がリリアナの元へと訪れるのに間に合わなかったのだ。

というか、自分は大丈夫だからと他の者を優先させる様に父に頼んだ。

驕っていたのだ。

決して自分は万能の存在などではなかったというのに。

民を優先させるようにしたのは後悔していない。

次があったとしてもリリアナはその決断を下していただろう。

ただ単に己の研鑽が足りなかった。

病など吹き飛ばせる様な肉体を手に入れる事が出来なかったリリアナが悪いのだ。


その結果、ウィルバルドを酷く悲しませてしまった。

リリアナはそれが悔しくて悲しい。

ウィルバルドには天寿を全うして欲しい。

彼とずっと一緒に居たい。

なのに私はおそらくもう長くは生きられない。

ならば私は………。


リリアナは気合と根性の女であった。

それに高位貴族特有の粘着質な激重の愛情と執着と執念が加わる。


結果。


「………は?」

「………嘘……リリアナなの……」

「……おぎゃ(親指グッ!)」


辺境伯家に今は亡き長女と同じ、眼光鋭い三白眼を持つ新生児が誕生したのであった。



「おかえり。僕のリリィ」


圧倒的強者感を漂わせる独特の雰囲気と三白眼が決め手だったのか、ウィルバルドはあっさりとそれを受け入れた。

瞳を潤ませながら微笑むウィルバルドの姿は、こちらが天に召されそうなほど美しかったと後に辺境伯家嫡男は語った。





「システィーナ。大丈夫だったのかい?」

「お兄様!!」


対リリアナをどうするか頭を悩ます2人の居る部屋の扉がノックされ、ひょっこりウィルバルドが顔を覗かせる。


「寝てないと駄目じゃないか。父上もシスティーナに無理をさせてはいけませんよ」

「……うむ」

「お兄様……」


ウィルバルドは今日も麗しく、そして優しい。

こんなに美しいのに、善良な性質が表に出ているのか雰囲気がホワホワしている其のギャップがまた堪らないと皆は言う。

愛され貴公子なのだ。



くぅぅ………と、システィーナは胸を押さえた。

何を隠そう、システィーナは記憶が戻る前からウィルバルド強火ガチ勢であった。

推さない訳がないでしょ、こんな存在!!と、前世の自分が心の中でヤッホーポーズで叫んでいるが全力で同意する。


「お兄様、リリアナお義姉様にお会いしたいわ」


まずはリリアナに報告・連絡・相談だ。

隠し事良くない。

10歳という年齢に騙されてはいけない。

生前の彼女はとてつもない才能とそれに驕る事なく努力を惜しまなかった才媛だ。

それは今の彼女に丸々受け継がれている。

つまりは10年プラス生前の年齢分の力量が備わっているチートな存在なのだ。

そしてウィルバルドに関しては、凄腕の情報屋並に嗅覚が働くのがリリアナというご令嬢だ。

若干、ピン子は生き延びられるのだろうか……と不安になるが、それは何処かにいるであろう彼女の人となりを両親とリリアナと見極めて判断すれば良い。


「………そうだね。私もリリィに会いたいよ。今は王都のタウンハウスに滞在しているから文を出してみようか?」


照れてはにかむお兄様、尊いが過ぎるのでは?

グゥゥ゙と喉の奥で声が出るのを堪えるシスティーナであった。





個人的には国王陛下の新年のお言葉の内容がとても気になる。


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