鎖国という名の優しさ
「王位・・・?」
モモリの素っ頓狂な声にソウは「あぁ、説明していなかったね」と言いながら開いていた魔法論文書を閉じた。
「彼女はオリヴィア・リリィ・オーリュード。この国の第一王女にして次期女王だよ。と言っても彼女の伯母上が王位を降りた後になるからまだずっと先だがね。」
「この国では成人したら幼名をミドルネームに入れるのが習わしでな。昔馴染みはみなリリィと呼ぶ。だがまぁ、私にはもったいないくらいの可愛らしい名前なので騎士団のものや友人にはオリーヴと呼んでもらっているんだ。」
次期女王という言葉に開いた口がふさがらないモモリとリクを放置して、ヒロはオリーヴの方をまっすぐとみて口を開いた。
「そんなやんごとなき身分のあんたがなんで竜騎士団三番隊の隊長なんてやってんだ?」
「ちょっ、ヒロ、この国のお姫様にあんたって!?」
「うるせえリク黙れ。それによく知らねーけどこの国の前王は男じゃなかったか?」
ヒロの言葉に、オリーヴは唇をかむようにしてで黙り込んだ。
「それは・・・その・・・」
「大方鎖国問題とも関係があんだろ。まあ言えねーなら聞かねぇよ。」
「ぃ、いえ!これも何かの縁、いつかは公表することでしたので!」
ヒロの言葉にかぶせるようにして大きな声を出したオリーヴは、意を決したように視線を彷徨わせながらゆっくりと言葉にしていった。
「この国が鎖国を始めたのは15年前なのは皆さんご存じですよね。この鎖国の目的は、よその国から来た冒険者や旅行客、行商人を国の内乱から守るためでした。
18年前・・・大賢者様がこの国から去って二年たつか経たないかくらいの時に祖父・・・前国王が何者かに暗殺されたんです。
その時王家の地図時出王位継承権のあるのは女性ばかり。父を含む本来王位を継ぐことができる男性はみな当時の謎の流行り病で病死しており、王家に残された男性といえば王家の末席に当たる家系である宰相の家に生まれたばかりの赤子くらいだったのです。それで暫定的に伯母上が王位につきました。
その直後でした。民衆を引き連れたある男爵家の男が城門前で反乱を起こしたのは。
三年かけてやっとの思いで諸外国への鎖国宣言と一部民衆の鎮静化。そして国内にいた外国から来ていた者たちの保護やらもろもろを終わらせて、そこから15年、こんなありさまというわけです。
現在この国は王政派と呼ばれる現女王の伯母上とその側近を中心とした伝統的な古い家柄の貴族の派閥と、近年爵位を与えられて貴族になった新生貴族が平民に心地いい言葉をかけそそのかし、集結させた反王政派で分かれています。
そして!反王政派は我が国の軍事国家としての歴史を全否定し、兵役と、商品やサービスにかける国家が毎年設定している金額のレート基準も完全撤廃するようにと馬鹿げた声明を出した。
そんなことすれば市場は荒れ放題になり、雇用で発生する給与も問題が発生してしまう。
何より兵役は魔王がいた時代に比べたら5パーセントにも満たない訓練内容だ!期間も三か月という短期間なんだぞ!
奴らは「今は魔王はいないのだから無意味だ」「王家はレートを自分でいじることで何か細工をして横領まがいのことをしているのではないか」など馬鹿げた事を言っているのだ。何かが起きてからでは遅いというのに腑抜けたやつらだ!
・・・こほん。ちなみに現在鎖国とは銘打っていますが、国内で手に入る作物や布、洗剤などは限度があるので秘密裏に王室独自のルートを使い輸入品を仕入れているんです。
それを王室が信用を置いている商店すべてに公平におろしています。平等にするよりはニーズに合わせて公平にした方がいいというのは女王である伯母上のお考えでな。実際上手くはいっているのだが、それでも先ほどの宿のような店は少なからず存在してしまってな。
まぁあの店はおそらく反王政派だろう。わざと値段を釣り上げて文句を言わせ、今の王政のせいだと吹き込めば簡単に仲間が手に入る。ここ15年で何度も見た手口だ。」
オリーヴははがゆそうに、再度唇を強く噛んでいる。
「リリィ、唇切れちゃうよ?せっかくの美人が台無し。」
馬車の御者台から優しげな声が聞こえてきた。
「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、ちょうど御者交代だったから。」
そう言いながらへらへらと笑って馬車内に入ってきたのはリクと同じくらいの背丈の好青年だった。
ミルクティーを思わせる優しい色合いの茶色い髪が外の風にサラリとなびいており、菫を思わせる優しい薄紫の瞳が印象深い。
「ジェルド、勝手にはいってくるな!!」
明らかに慌てたようすのオリーヴを見て恋愛小説好きのモモリはははーんと何か言いたげな視線を向け、何もわかっていないであろうリクは仲良しだなぁとぼんやりにこにこし、ヒロはおそらくこいつらは昔馴染みなんだろうなと先ほどオリーヴから聞いた話を思い出しながらため息をついた。
ソウはそんな騒がしい状態になっても変わらず冷めた紅茶を魔法で温めなおし始めている。
「すいません、そのイケメンは・・・」
「え、モモリさんあーゆうのがこのみなの!?」
「リクは一回黙れ」
三人の声にハッとした二人は言い合いをやめると向かい側の椅子に腰かけた。
「す、すまない。こいつはうちの隊の隊員でジェラルド・アーサー・オーリュード、21歳。私の弟分だ。」
「みんなからはジェルドとかジェリーって呼ばれることが多いかな。去年やっと王位継承権最下位に入れたんだあ。」
「王家の血筋ではあるがそれなりに遠縁だ。」
「一応宰相の息子なんだけど。」
「それは今関係ない。」
二人の言い合いが最熱しそうだったためモモリは慌てて魔法鞄から焼き菓子を取り出し二人に差し出した。
「あの!良ければいかがですか?話してばかりだと喉も乾きますし、ソウさんが紅茶を温めてくれたのでお茶受けに・・・なぁんて」
モモリがへらりと笑うと先ほどまで言いあっていた二人は目をぱちくりさせてモモリの方に向き直った。
そして
「これはなんだ!?カラフルで触感が軽い!」
「こっちはしっとりあまあま~!コレもしかして君の手作り?ほかにもあるの!?」
「こらジェルド!それは私が目を付けていたものだぞ!横から手を出すな!」
「そんなこと知らないもん!リリィだってさっきから食べすぎだとおもうよ?」
目の前の皿に出された色とりどりのマカロンやバターの香りが漂うフィナンシェに二人は夢中で手を伸ばした。
「よ、喜んでもらえたなら何よりです~・・・」
モモリはその勢いに若干押されつつも他の3人と外の御者をしている騎士にも袋に分けたお菓子を配って回った。
「・・・こほん。すまない。少々らしくないところを見せてしまった。」
「リリィってば昔から甘いものが好きだもんね~」
「黙れ軟弱者」
「はいはい」
オリーヴは恥ずかしそうに髪を触ると、改めて背筋を伸ばし、4人に向かってこう告げた。
「大賢者様・・・いや、御客人全員に恥を忍んで頼みたいことがある。
・・・・この国を・・・叔母上を・・・助けてくれ。」




