龍騎士オリーヴ
「さあ、つながったよ」
研究室の扉が光ると、その向こうからは人のがやがやとした声が聞こえてくる。
「どこにつなげたの・・・?」
リクが困惑の声をあげ、ヒロはあきれたようにため息をついた。
「先月研究開発の依頼開発に飽きた際に研究室を改造してね。いったことある土地ならある程度は転送可能だよ。」
「は!?依頼の納品が一日遅延したのって・・・」
「あぁ、それだねぇ。もともと納期は余裕もってこちらから指定していたし、遅れる前提とも伝えていたから問題はないよ。」
「問題しかない!!!」
二人のコントのようなやり取りを見ながらモモリは扉に手をかけた。
扉の先はキレイに舗装された石レンガの通路が見える。
その向こうの家々の壁は石レンガによく似た灰色をしていて無骨な印象を感じさせる。
「なんか寂しい感じの街だね。」
「あれ、言っていなかったかい?ここはエルラードの隣国、軍事国家オーリューの城下町だよ」
ソウの言葉に2人は絶句するしかなかった。
「まて・・・オーリューって今鎖国中じゃなかったか?入国するには1年かかる手続きが必要じゃなかったか?」
「そうだったかな?最後に来たのは20年前だからねぇ」
「世界情勢くらい把握しとけよ」
「ところで、これ見つかったら終わるんじゃない?俺たちどう見ても冒険者なんだけど・・・」
リクとヒロが肩を落としているとどこからか怒鳴り声がした。
「オイそこの魔法使いの女!ここで何をしている!!」
慌てて声の方似三人が視線を向けると、モモリが早速衛兵につかまっていた。
「え、何って観光です・・・」
「今この国は鎖国中だというのにどうやって入った?」
衛兵の言葉にモモリはおろおろとした様子で視線を三人に向けた。
「おい、どこを見てい・・・あなた様は!」
モモリの助けを求める視線に気が付いた衛兵が視線の先に目をやった瞬間衛兵の態度が急に変わった。
「え・・・?」
「あ・・・?」
「あぁ、そういえば20年前、当時の国王には良くしてもらったなぁ」
しばらく沈黙が続き、先に声を出したのは衛兵だった。
「もしかして大賢者様のお連れ様でしたか!?」
「そ、そそそっそれなら納得です!失礼しました!!!」
衛兵たちはそれだけ言うとすぐに慌てた様子で去って行ってしまった。
「大賢者?」
「元エルラード王室魔術師だろお前。」
「ソウさんって何個肩書あるんですか?」
道端で話しているのはさすがに目立つのか、あちこちの家から視線を感じ始めたのに気が付いたヒロは、そこで会話を遮った。
「一回宿でも探すぞ。鎖国になって何年もたってるから宿事態あるかわかんねーが、国内の田舎から来た旅行客くらいはいるだろ。」
ヒロの思っていた通り、宿らしい宿はほとんどなく、あったかと思えばぼったくりのような金額の宿しかなかった。
「田舎もんの足元見てるって感じがしてきにくわねえ。」
「まぁまぁ」
イライラを隠しきれない様子のヒロをなだめながら、リクは早速交渉にに走っていった。
「モモリさん、いいとこ見せるから待っててね!」
「その必要はないぞ」
扉の向こうから凛とした声が聞こえてくる。
思わず一同で声の方に目をやると、百合の彫り物が施されている白銀の鎧に身を包んだ金髪の女性が立っていた。
「あなたは・・・」
「挨拶が遅れてすまない。私はオリーヴ。国家龍騎士団三番隊隊長をしている。」
高く結い上げた絹のような金髪が風に揺れる様子はまるで古文書の姫騎士のようだ。
「綺麗・・・」
「ふ、お褒めにあずかり光栄だ。お嬢さんは大賢者様のご友人だね。先ほど衛兵から報告が入ってね。こんな下町の宿に泊まらせるわけにはいかないから迎えに来たんだ。」
オリーヴは柔らかい微笑みをモモリに向けた後、また厳しい視線に戻し、宿屋の店主をひとにらみした。
「法外な値段設定のこの店は後で監査を入れる。他の宿屋にも今のうちに警告しておくことだな。
・・・さて、君たちには城の客室を用意してある。」
オリーヴの視線の先にあるやけに豪奢な馬車がモモリの視界に映る。
「え」
「おや、わざわざすまないねぇ」
ソウは慣れた様子で馬車に乗り込んでいるが他三人は置いてけぼりな様子で眺めているしかなかった。
「どうしたんだい3人とも。早く来るといいよ。」
「なんであいつはあんなになれているんだ。」
「知らない・・・」
「でも行かないとダメな雰囲気ですよ」
三人がこそこそと話している間にもソウは馬車の中で優雅に紅茶を楽しみ始めている。
「仕方ない。行くかぁ」
リクのあきらめたような声に二人はうなずき馬車に向かった。
馬車の中はまるで一つの客室のような静けさに包まれている。
「コレ、魔道式移動客室だよね?前に乗ったやつと比べて揺れが全くない・・・」
「大賢者様の功績の一つだ。この国の魔道式稼働機器はほとんどが20年前に大賢者様の協力の元作られたんだ。」
オリーヴはソウの方をみながら誇らしげにそう語る。
しかしソウは気にすることもなく「風景があの頃とはずいぶん変わったね」などと紅茶を楽しんでいる。
「この方は20年前、幼少期の私の求婚をあっさりと袖にして姿をくらませたんだ。」
「へぇ、ソウさんモテモテなんですね。・・・求婚!?」
「何も聞いていないのか・・・全くこの人はあの頃から変わらずマイペースというか・・・」
「20年前か・・・オリーヴさんて何歳なんだろ・・・」
「リク、女性に年齢なんざ聞くもんじゃねぇ」
「ははっ、いいよ。次の誕生日に26歳になる。この通り騎士道一筋で来たから男の影すらないさ」
オリーヴは弱弱しく笑うと頭をかいた。
「・・・ん?20年前に求婚・・・?あぁ、君はもしかしてオリヴィア嬢かい?第一王女の」
紅茶を飲む手を止めたソウの言葉にその場が沈黙に包まれる。
「覚えていてくださったのですか?」
「かなり熱烈だったからね。しかも王位を諦めてボクと一緒に冒険するなんて言い出したのは驚かされたからねぇ」
「そ、それは言わないでください!今なら前衛を十分務められると思います!」
オリーヴはソウの目をまっすぐ見た。
ソウはそれをあしらうように微笑むと、また紅茶を一口、口に含んだ。
ソウは「前衛はもう足りているんだよなあ」という言葉を心の中にしまい込みながら昔をとすっかり変わってしまった景色にまた視線を戻した。




