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わがままなウォーロック

「・・・はぁぁ~~・・・」


天気のいい晴れ空にため息がこだまする。


「モモリさん、ため息は幸せが逃げていくよ?ほら笑顔笑顔!!」


リクは口の端を両手であげ歯を見せながらにかっと笑顔を見せた。

それを見てモモリはあきれたように鼻で笑った。


「ねぇ二人とも、俺モモリさんに嫌われてるかもしれない・・・」

「自業自得だ。」

「まぁこれからのリクくんの行い次第ではないかね。」

「そんなぁ~~!」


そのやり取りをみながらモモリはあきらめたように空を見上げた。


「いい天気だなァ・・・」


空を奇妙な声で鳴く怪鳥が飛び回っている。

火山の影響だろうか、少しばかり気温も高く全員の額にはうっすら汗が浮かび始めた。


「ソウさん、その隠れ家とやらはまだなんですか?」


モモリは体力がないのか少し息切れをしながら声をかけた。


「あと少しだよ。」

「あと少しってもう6回目・・・」


モモリは魔法の杖を登山用の杖のように使いながら三人の後ろをついていく。


「モモリさん、大丈夫?その装備重いし暑いよね?何か手助けできる?」

「いや、いいです。ていうか、私の装備のデメリットなんで知ってるんですか?今時の装備は見た目に関係なく軽量になる魔法が織り込まれてるんで重いとか暑いとかわかるわけないですよね。」


モモリの鋭い視線にぐっと唇をかみしめる。


「それはっ・・・その・・・」


何も反論してこないリクをモモリは不審な目で見るが、飽きたように視線をまた前方に戻した。


「今回は本当にもう少しだよ。もう少しで転送エリアにつくからね。そこまで行ければ楽できるよ。」


ソウの言葉を聞いて、全員の表情に安どの色が浮かぶ。

踏み出す足にも力が入っているようだ。



しばらく歩を進めると、森の中に開けた円形の土地が現れた。



「ついたよ。少し待っていてくれるかい?」


ソウは三人を広場の入り口で待たせると、地面に手を置き、黙り込む。

たちまちソウの髪が伸びていく。よく見ると瞳の色もエメラルドグリーンから真っ黒に変わっている。


ソウの手のひらが触れている地面から水色の光る線が飛び出してきた。

その線は広場の中心にまっすぐ伸びていくと、真っ白な扉が現れた。


「毎回見るたび、すげーって思うよ」


リクはそう言って光る扉を見つめている。

ヒロはまぶしそうに目を細めている。


「さぁ、いくよ。」


ソウは地面から手を放して立ち上がると、扉を開けて入るよう促してきた。


「・・・掃除はしてんだろうな?」


ヒロの言葉にソウは動きを一瞬止めたが、何事もなかったかのように先に扉の先に入ってしまった。


「全員が入ったらまたこの扉を隠すからね。」


扉の先から声が聞こえてくる。慣れた様子で扉に向かう二人にモモリも続くことにした。



光に包まれて数秒時間がたったかのような感覚がする。


モモリが目を開けるとそこには神々しいい協会のような空間・・・ではなく、きれいにきちんと片付いた研究室・・・があるわけでもなく、魔素供給エナジードリンクの缶が机の上に山積みになっていて、資料が全く見えないどころか、床はおそらく高いカーペットがあったのだろう精密な模様のある不思議な線が見えているがところどころ焦げている。


「ソウ・・・これいつからこんな感じ?」


リクの震える声に、ソウは明後日の方向を見ているだけでこたえようとしていない。


「おいソウ、その反応は少なく見積もっても1か月以上前にはこうなってたよなァ?この女のところに軽く4日はいたもんなァ?」


青筋を立て静かに怒っているヒロはどこから取り出したのか大きなごみ袋に机の上の缶をガラガラと入れ始める。

リクも仕方ないなぁとため息をつくと、足場を埋め尽くす謎の触手を鉢植えごと自らの剣でバラバラにしていった。


「わ、私も手伝います!何すればいいですか?」


モモリはそう言ったが、


「いや、あんたはソウと似たにおいがする。何もしないでくれ。」


ヒロに間髪入れず断られてしまった。


「この触手なんかヌルヌルする・・・気持ち悪いんだけど・・・」

「ソウ、通販で買いだめするのやめろ。あとこのドリンク中毒性あるんだから飲みすぎるなって言ったよな?」


ふたりは口々に文句を言いながらもテキパキと手を動かしていく。

30分後には床も机もごみが片付けられ、広い空間が完成していた。

そこまでしてごみの中に埋まっていたテーブルとイスにやっと全員が座ることができた。


「いやはや、助かったよ。そろそろ研究に支障をきたしそうだと思っていたんだ。」


ソウは悪びれる様子もなく、眼鏡をふきながら言った。

そしてモモリの方に顔を向けると、真剣な顔で一枚の資料を取り出した。


「さて片付いたところで早速本題なのだが、君はおそらく霧の向こうの幻の島国の民族にルーツがあるのではないかね?」

「へ?」


急な展開に何もわかっていない様子のモモリを放置して、ソウはボロボロの紙切れを追加で取り出しテーブルに並べた。


「霧の向こうの幻の民族は、地図にも載っていない島の住人だからね。

大陸の東の海の果ては分厚い霧が覆われているだろう?その霧を途方もない距離進み続けるとたどり着くといわれているんだ。かつては大陸とも交流があったみたいだが、魔王がいた数千年前に迫害を受けて魔力の霧で壁を作り、完全鎖国状態にしてしまったそうだ。

あの霧は人の精神を狂わせるとされていて、向かったものは生きて帰ってきた記録がないのだがね。」


紙切れの文字や絵を一つ一つ指差しながらソウは言葉をつづけた。


「その民族の特徴は、『黒髪、黒目・高い魔法適正』だ。」


ソウの言葉に張りつめたよな空気が充満する。


「モモリさんは、その、国を出てきた人の末裔的な?それとももっと昔の先祖返りとか?」


おずおずとリクは手を上げ質問するも、ソウは首を横に振るばかりだった。


「それはこの子のご両親に聞いてみるしかないだろうね。ちなみに僕も少しだけどその民族の血が入っているんだよ。」

「え」

「は?」

「あ?」


ソウのあまりにもあっけらかんとした声に三人は素っ頓狂な声を上げた。


「言ってなかったかね?」

「言ってないですね」

「言ってないな」

「長い付き合いだけど聞いたことないよ」


ソウは三人の答えにふむと一息置くと、何事もなかったかのように説明を再開した。


「ぼくの髪の色は先祖返りだね。目の色は母親譲りだが、特定の古代魔法を発動するときだけ目の色が黒くなるんだよ。あとで見せてあげるからね」


仲間ができてうれしいのか機嫌の良さそうなソウは鼻歌交じりに本棚をあさり始めた。


「それで、私は何でここに連れてこられたんですか?」


「あぁ、そうだったね。例の魔物の件や魔王軍云々のことについて話し合うなら、盗聴や探索スキルを使われる危険がないところの方がいいと思ってね。」


ソウの答えにヒロは目を丸くして大きな声を上げる。


「ハァ!?おれは面倒ごとはごめんだぞ!勇者サマにでもなろうってんのか?はっ、笑えるな」

「そんな高尚な理由などないよ。ただ興味あってね。高位の魔物のドロップアイテムがいかようなものか。もしかしたら研究にも使えるかもしれないからね。」

「ソウ・・・楽しそうだな・・・」

「私関係ないんですけど・・・」


ソウの高笑いが研究室にこだましている。

それを見て三人は深いため息をつくしかなかった。

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