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決意の瞳

「キョウ・・・さん・・・?」


モモリの困惑した声など耳に入っているのかいないのか、モモリの言葉を無視してけだるげに黒い煙を口元から吐き出すと、風魔法の衝撃波があたりのガラクタを吹き飛ばした。


《大陸全土に告ぐ!!!我は新たなる魔王、キョウネである!!!我が愚昧、ギョクネは死んだ!!!今日から我が真の魔王としてこの大地を支配してやる!!!光栄に思うがいい!!!!》



その声は大陸に生きるすべての命あるものの脳に直接こだました。


キョウ・・・キョウネは愉快そうに笑いながら身にまとう魔力の濃度を上げていく。濃度が上がるにつれてキョウネの手足が指先から闇のような底のない漆黒が侵食していく。


「受付嬢キョウ」だった時の面影が少しばかり残っているとはいえ、その姿は同性であるモモリでさえも魅入られるほど扇情的でなまめかしい。


真っ赤な口元の紅はつややかで、今にも吸い込まれそうだ。


「ふうーーーーーーーーーーー」


真っ赤な口元から吐き出される黒い煙は暗闇に溶け消えていく。


「あなたたちは危険だから、早めに殺してしまった方がいいかしらね」


キョウネの瞳がモモリをとらえた。禍々しい魔力が一気にその足元から噴き出す。


「モモリさん!!」


次の瞬間、モモリは壁にたたきつけられた。


モモリは痛みに顔をしかめたが、その目をそっと開けると、そこにはわき腹を黒いいばらの蔓で貫かれたリクが両手を広げて立っていた。


「おい、リク!!!」

「ヒロ、ソウ、モモリさんをお願い!!」


リクはそれだけ言うと、自信の体を貫いた蔓をしっかりとつかみ、炎魔法をそこに放った。


魔法の炎は蔓を伝って真っすぐキョウネに向かっていく。


「リクさん!!!ダメ!!!」


モモリの悲痛な声はリクに届くことはなく、ソウの転移魔法が発動した。




モモリ達三人の視界には見慣れた広場が映り込む。


「急だったからすぐ近くにしか座標指定できなかった。すまない」

「リクさんが燃えちゃう、助けなきゃ」


モモリが震える足で慌ててギルドに戻ろうとするのをヒロが肩を強くつかんで止める。


「待て、今の余裕がないお前が魔法を制御できるとはおもえねえ。一回止まれ」


「でも・・・・・・・・はい」


モモリは力なくその場で座り込むと黙り込んでしまった。


「・・・ほら」


モモリの肩に見慣れた外套がかけられた。


「これ・・・」

「リクくんは再会したあの日からこれを君にあげるつもりだったようだよ。君の異名・・・『海賊の魔女』はその外套だけじゃなくて、君の可能性があってこそ、君と外套どちらが欠けてもその名は成立しないんだ」

「あいつ、俺たちに魔法教えてくれって縋り付いてきたんだよ。あいつも腐ってもエルフの血を引き継いでるんだ、あんな初級魔法ごときで死なねぇよ。そこは信じてやれ」


モモリは肩にかけられた外套を優しくなでると張りつめていたものが切れたのか、子供の用に声を上げて泣き出してしまった。


「お、おい、怪我でもしたのか!?」


ヒロの慌てた様子にソウは落ち着いた様子で声をかける。


「緊張の糸が切れたんだろう。大丈夫、落ち着くまではそっとしてあげよう」


どれだけ泣き続けただろうか、モモリは目をはらして眠ってしまった。

ソウはモモリをヒロに抱えさせると近くにあったかろうじて形の崩れていない家に結界魔法を張り、その中に駆け込むよう指示した。


「淫魔は幻覚魔法が得意だ、もしかしたらこちらの身内や最悪リクくんの幻影を作り出しておびき寄せようとするかもしれない」

「そんなのどうやって見抜くんだよ」


モモリを家から拝借した布団に寝かせると、古びた椅子に腰を下ろして二人で作戦会議を始めた。


「それなら大丈夫。太古の人の言葉を話すとされていた魔物と同じ対処法でいいはずだよ」

「あ?なんだそれ」

「扉問答といったかな?カイモリ国の資料にもあったよ。彼ら・・・魔物や魔族は聖魔法で作られた結界に触れられない、つまりこの家に入るにはこちらから招き入れないといけないんだ」

「っつうことは・・・」


「たとえ知り合いの声だったとしても『けが人を背負っているから』とかいろんな理由で扉をこちらに開けさせようとするものは90%魔物や魔族だね」


そうは得意げに言いながら扉を指差した。


「残り10%を判断する方法は?」


ヒロの疑問は最もで、それで助けられた人を助けられないなんてことになったら悲惨である。最悪恨みを買う可能性だってあるのだ。


「カマをかければいい。何より、そんなことをしてくる輩だ。知り合いの声なら簡単だろう?全く知らない他人なら僕の魔法で透視すればいいだけだからね」

「・・・それならさっきも助けてくれよ・・・」


ヒロはあきれつつ頭を抱えながらため息をついた。


「言ってなかったかい?僕はこの魔法以外は聖属性魔法は使えないよ?」


ヒロの問いにいとも簡単に答えるソウ。その言葉に間抜けな声を出しヒロは驚いた。


「ハァ!?」


「僕は確かに数多の魔法を使えるししっている。おそらくこの血にはカイモリ国の人間の者が混ざっているのもあの国の文献を見た感じ間違いじゃないだろう。でもね、僕の血はあまりにも混ざり物が多いんだよ」


後は言わなくてもわかるかなと力なく微笑むソウにヒロは改めて頭を抱えるしかなかった。



「う・・・ん・・・ここは・・・?」


モモリが目覚めたのか、力のない声が聞こえてくる。


「モモリくん起きたかね。今は結界の中で作戦会議中だよ」

「さくせん・・・リクさんは!?」

「あいつはここにはいねぇ。一応魔力を流すと結界を張れる聖魔法の魔道具は持ってるはずだから死んじゃあいねぇだろうがもってあと・・・一時間が限度ってとこか」


モモリを落ち着かせるようにヒロが現状を説明する。

しかしモモリはそれすら聞く余裕がないといった様子ですぐに杖を握りしめて外に出て行こうとしている。


「だから落ち着けって。今飛び出してもなんも解決しねぇよ。まずは装備と作戦をだな・・・」

「装備・・・!!」


モモリは何を思ったか荷物の上に賭けられていたあの外套に袖を通し、大きな帽子も深くかぶりなおすと、金色の杖をしっかり握ってもう一度力強く立ち上がった。


「何してんだ!落ち着けって言っただろ!」

「もう落ち着いてますよ。大丈夫です。・・・実はこの外套、あらゆる魔法耐性が付与されてるんです。しかも今はもう使い方の伝承が消失してしまった古代の強力な魔法陣が刺繍されてます。現代のどんな高価な装備よりも戦闘特化の外套なんです」


モモリは先ほどとはまるで別人のように低いトーンでゆっくり外套のスペックを語りだし、まっすぐ強いまなざしで扉の向こうを見た。


「私が一人で行きます。お二人は念のため取り残されてるかもしれない一般市民の捜索と救助を。


・・・巻き込みたくないので」


その声には静かな怒りが宿っており、ヒロがモモリを止めようと手を伸ばしたときにはモモリはもうその場から姿を消していた。



「・・・ったく、二人そろって馬鹿野郎かよ。



・・・・・ほんっとお似合いじゃねぇか」


ヒロは普段通りけだるそうな雰囲気で立ち上がると、ソウに結界の維持を任せて扉の向こうに跳び出した。



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