急に動き出した歯車
「キョウさん!!!」
大きな音を立ててギルド受付の扉が開かれた。
「モモリさん待って・・・え?」
受付のホールはいつも賑やかで無人の時間が無いくらいにうるさいはず・・・なのだが照明は落とされ誰一人いないホールはいつもよりも冷たく広い空間に感じられる。
「これは・・・」
「あ!モモリさん遅い!!」
二階へ続く階段から怒気が含まれた声が降ってくる。
「みんなもう作戦会議済ませて派遣すんじゃってるよ!」
声の方に皆で視線を移せば、焦った様子のキョウが階段を駆け下りてくる。
「でも無事に戻ってきてくれてよかった!そこの二人も!冒険者登録されてる人は全員呼ばれてるの!ソウさんは・・・魔術師協会に行ってみて!!」
国内で最大手の魔術師協会は、冒険者ギルドの正面、広場の像を挟んで向かい側に立っている大きな建物だ。しかし改めて見回してみると街中も普段の活気はなく、どの店も戸が閉まっている。
「キョウさん、私たちはどうすればいいんですか!?」
「地方の村や町は街に居たAランク以上のパーティーが鎮圧したらしいんだけど、魔王軍幹部には逃げられたってさっき連絡が・・・」
「そりゃあ、その女と本気でやりあいたかったからな」
声が降ってきた。
どぉおん
ギルドの壁飾られた英雄の絵画が吹き飛び、その破片が雪のようにモモリ達に降り注ぐ。
「久しいなぁ、人間の小娘!」
「えと・・・・あーっと、誰だっけ」
モモリのボケッとした言葉に全員がは?っとモモリに視線を向ける。
「モモリさん、あれだよ!ゼブラサン!」
リクが人影を指刺して大きな声で叫ぶと人影がイラついたような様子っで声を荒げた。
「銀狼の狂戦士のゼヴスランだ!!!!!」
人影はよく見るととがった耳とふさふさの尻尾が動いている。
「ん~?・・・・・あ!あの犬の人!!」
モモリがやっと思い出したかのように大きな声を出すと、ゼヴスランは毛を逆立たせて町の像に雷を落とした。
「貴様ァ!!魔王軍幹部の我を愚弄するのは魔王様を愚弄するのと同じだぞ!」
ゼヴスランの殺気が増している。
「キョウさん、アレぶっとばしていいですか?」
モモリは信用した杖をぎゅっと握り構えながら声を凛と張った。
「・・・キョウさん?」
「お、お前、まさか・・・」
ゼヴスランの表情がこわばる。隙が生まれたゼヴスランの背後に大きな人影が写った。
先ほどの破壊音に引けを取らない大きな音が響き渡り、ゼヴスランが吹き飛ぶ。
「おーおー、やっと来たか!あんまりギルドマスターを待たせるのはダメだぞ?お嬢ちゃん」
白目をむき、気絶しているゼヴスランを片手で持ちながら、もう片方のてっでグレートアックスを担いだ褐色の女性がモモリ達に歩いてくる。
「ギルマス、元気そうですね」
モモリはそう言いながらギルマスと呼ばれた女性にゼヴスランについてあらかた説明した。
「なるほど、あの山に封印されていたと。」
「うん。ちなみに封印が解かれた魔王っていうのは」
モモリの質問にギルドマスターは部屋の奥に一行を案内した。
「これが魔王だ」
「・・・すごい・・・人形みたいだ・・・」
その姿を見てリクがほうっと息を吐いた。
聖魔法でわずかに発光している鎖で囲まれた魔法陣の真ん中に置かれたアタッシュケースの中に眠る少女は肩まででまっずぐ斬られた黒髪に一筋の薄灰色の髪が見える。どうやら眠っているようで本当に人形のようだ。
「聖魔法で目覚めを遅らせているが、それも時間の問題だろう」
ギルドマスターの声は緊張をはらんでおり、目の前の眠る少女が本物の脅威であることを表していた。
「私はこの犬を裏で処理する。他の幹部連中も今王室直属の近衛部隊が対応している。あいつらは自身が封印されていた大昔の人間基準で我らを見ているようでな。つまり舐めてかかってるうちに一網打尽にするつもりだ」
ギルドマスターはモモリ達に待機するように言うと、そのままゼヴスランを引きずりながら、部屋を出て行ってしまった。
「にしてもすごいきれいだよね。真っ白な肌・・・まるで魔族の吸血種みたい」
「吸血種・・・魔王・・・」
リクの言葉に何か思い当たることがあるのか、モモリは考え込んでいる。
「ソウ、そういえば魔術師協会行かなくていいのか?」
ヒロの言葉にソウは首を振ってこたえる。
「先ほど広場を歩いた時に、遠目で扉が壊されていたのが見えたからねぇ。最悪魔物の巣窟になっているだろうさ」
「ん、ここはどこでしょう?」
鈴を転がしたような声が聞こえてきた。
「え」
「は」
声は魔法陣の中心・・・アタッシュケースの中からする。
「んしょ、ここは人間界かしら。ずいぶん増えたのね」
アタッシュケースから起き上がった少女は黒いレースがあしらわれた赤いドレスを身にまとっており、バラがあちこちにちりばめられている美しい姿をしていた。
「アレから何年たったのかわからないけれど、人間と下級魔族がなれ合いをしてるみたいね・・・お掃除はあまり好きじゃないのだけれど・・・」
少女・・・魔王は片手をモモリ達に向けると真っ赤な瞳を眠そうに開きながら魔界の古代語と思われる言葉をつぶやいた。
魔王の手のひらに真っ黒な玉ら浮かび上がる。
その球がゆっくりと前進してくる。
ヒロはなんだか嫌な予感がし、自分のダガーをその球に投げつけた。
「!?」
ダガーはその球を切り裂くことなく取り込まれて消滅した。球はその後も止まることなくゆっくり、確実にまっすぐ、モモリの方に向かっていく。
「興味深い魔法だね」
ソウがモモリの前に立つ。
「この魔法を使うのは何百年ぶりだろうか
春風駆け抜ける 森の女王よ、我が前に浮かぶ絶望の種を浄化の息吹で包み込め。神々の怒りの聖槍!!」
ソウの前を光が包み込む。
真っ白な光のまぶしさに目を閉じたモモリ達が目を開けると、先ほどのまがまがしい球は消えており、ソウは今まで見たことないほど大量の汗をかいていた。
「すまない、すこしばかリ無理をした」
ソウは肩で息をしながら後は頼んだと言いながら壁に背を預けて目を閉じた。よく見ると眠っているだけのようで容体を確認したヒロはほっと胸をなでおろした。
「面白い、この時代の人間は水分魔法化学が進んでいるんですね。ふふ、この場にいるあなたたちにだけ名乗りましょう。
わたくしは魔族の中でも最上位の吸血種、ギョクネ。部下からは魔王と呼ばれています」
ギョクネは真っ赤な瞳を細めほほ笑んだ。
「さて、まだ魔力が回復しきれていないようなので・・・幹部たちの心臓でも食らって早急に回復してから相手してあげるわ。やはり本気の殺し合いはお互いにコンディションがいい方が楽しめるでしょう?頭がいい貴方たちならわかるはずです」
ギョクネの声は弾んでおり、本気の殺し合いがしたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。
「先ほど蝙蝠に召集の伝言を乗せました。私が回復するまでお話でも・・・!?かはっ」
ギョクネの口から真っ黒な血が噴き出した。
よく見るとギョクネの腹には風穴があいており、その延長線上にはキョウが険しい表情をして立っている。
「キョウさん・・・?」
「全く、馬鹿な妹・・・そんな事せずにさっさと殺してしまえばいいのに」
キョウの声はどこまでも冷たく、いつもの受付嬢特有の明るい笑顔はどこにもなかった。
「あー・・・あなたたちいたんだっけ。イラついて忘れてた。・・・ごめんね、愚昧は殺し合いがしたいだけの戦闘狂なの。許してやって」
キョウは誰も聞いていないのに自分語りを始めた。
「私は淫魔の血を受け継いで、この子は吸血種の血を受け継いだ。同じ親から生まれたのに、私もパパの血を受け継ぎたかった。なのにパパは種族だけで魔王の継承を決めた・・・ばからしい」
キョウの髪の毛が栗毛から真っ赤な髪色にじわじわと変わっていく。
目の色も黄色に輝き、いつの間にか身にまとう洋服も変わっていた。
「妹は今死んだ、つまり私が新しい魔王!!!何千年も待ったかいがあった!!!私の勝ちよ!!!!!ははははははははは!!!!!」
キョウの笑い声は国中に響き渡り、空気を震わせた。




