歴史が動くとき
砂漠の町は盛大なお祭りムードに包まれている。
様々な楽器が町の活気をさらに上げ、屋台の人たちも笑顔で言葉を交わしあっている。
「ミレイ!」
船から降りた一行に向けられた一つの声にミレイは顔を上げた。
その視線の先には美しい優し気な笑顔を浮かべた黒髪の美しい女性が立っていた。
「?」
ミレイの後ろから覗き込むようにしてモモリも声の方に視線をやった。
「あれ、あの時の!!えと、レイさんだっけ」
「あ!?」
モモリの言葉にミレイもハッとして再度女性を見る。
あの頃の凛々しいメイクとキリッとつったまなざしはどこへやら。すっかり穏やかな雰囲気でおしとやかな女性になっていた。
「え、なになに?あの頃の巫女さん!?すっかり丸くなって・・・いだっ」
リクが大きな声を出すと、その頭に誰かがげんこつを振り下ろした。
「大きな声を出すんじゃないよ!まだ不安定なんだ!!」
「ババ様!!」
リクの背後で怒りの拳を握りしめたババリアが立っていた。
「全く・・・その様子じゃ交易は成功したようだけれど、それだけじゃないようだね」
「うん!たくさん話したいことがあるんだ!!」
ミレイはそう言って先を急ごうとしたが、ババリアはミレイの差し出した手を取らなかった。
「本当は積もる話の一つでもしたいところだったんだがね、お前さんたちには至急、伝えなければならないことがあるんだ」
ババリアはモモリ達の方をゆっくり振り返った。
「ま・・・おう?」
「魔王じゃ」
祭りの賑わいに紛れるように一つのテントの中でババリアは声を潜めた。
「お前さんたちの故郷であるエルラードの国家魔術師が占いで魔王の復活を予言したらしい。今は少しでも兵力を集めたいとのことでね。大陸中に出払っている、エルラード冒険者ギルド所属の冒険者に召集がかかっているのさ」
ババリアの説明にモモリは杖をぎゅっと握りしめる。
リクも改めて拳を強く握りこみ、何かを考えるそぶりを見せた。
「そういやソウはどこ所属なんだ?おれとヒロはエルラードに籍を置いているが・・・」
「僕かい?一時期国家魔術師をしていたし、その前はエルフの研究所で軽い手伝いを・・・そう言えば正式にどこかの冒険者ギルドに登録したことはなかったなぁ」
ソウの言葉に皆ぽかんとした様子で沈黙を作り出す。
「えそれを早く言え!!」
ヒロの声がテントをゆらした
モモリ達のパーティーはとある空き家の扉の前で襟を整えた。
「来たことある国になら、僕の研究室を介してワープの真似事をできるからね。ちゃんとした空き家が合って助かったよ」
空き家の裏側の壁には色のない魔法のインクで書かれた魔法陣が光を放つ。
「では、また遊びにくるよ」
「ミレイ!今度またお茶しようね!」
「ルマルさん、また手合わせしようね!」
「うまいもん用意しとけよ」
「みんな!また会おうね!!」
ミレイは扉の先の光に吸い込まれていく影に向かって大きく手を振った。
「さて、他の町につなげるまで何分か漏れうよ。それまでお茶にしようか」
ソウは台所から高価そうな茶器をもってくると、手慣れた様子で紅茶を淹れた。
「のんびりしてる場合か!・・・ったくよお・・・作戦会議すっぞ」
ヒロが乱暴に椅子に腰かけると机に肘をついていつの間にか出されていたクッキーを一つ手に取った。
「魔王の予言・・・ちょっとキョウさんに連絡とれるかやってみていいですか?」
モモリは皆の返事を待つこともなく魔道具屋で買ったアイテムの山をあさり始めると、一つの魔石でできた板を取り出した。
「これこれ!超距離伝書鳩とよく似た術式が組み込まれてて、魔力を流すだけで使えるんだ!」
モモリはそれをテーブルの真ん中に置くと、端に手を置くと魔力を流し込んだ。
たちまち板の中心にいくつもの光の線が集まっていく。その様子はソウが扉を召還したあの日の光景を思わせる。
『モモリさん!?やっとつながった!今忙しいんだから手短にしてよね!!』
キョウの大声が部屋中に響き渡る。
「ごめんなさい。あと数分で帰るので今の状況を教えてほしくて」
『何でもいいけど貴女はこの国でも希少な戦力なんだからね!!軽くまとめると、魔王の封印が解かれて、眠りから覚めるまでもう幾分しかないんだって!魔王の四天王みたいな人たちがはずれの村ではもう大きな声で触れ回っているって』
「もしかしてあの狼人間かな」
「あ、なんかいましたね」
「モモリさん忘れてたでしょ」
『いちゃついてるとこ悪いけど、ほんとに早くしてよね!』
キョウとの通信はそこで途絶え、板は熱を帯びて真っ赤になっていた。
「これ使うのに制限あるっぽいですね。」
モモリは板をまじまじと見つめて何やら考え事をしている。
ヒロはキョウの話をまとめたものを書き留め、全く別のことをしていたソウに手渡した。
「魔王・・・教科書でしか見たことが無いからわかんないけど、幻覚の魔法を使うらしいですね」
「間違えて仲間に攻撃しちゃうのかな」
「さあ?」
しばらく皆で考えこむも、答えは出ないままだ。
そうこうしているうちに、扉の空間がつながったことを知らせる音が聞こえた。
「まあ、戦ってればそのうち何とかなるでしょう」
モモリのテキトーそうな発言に誰一人ツッコミを入れる元気がないのか、黙って椅子から立ち上がると、装備を整えた。
「さ、この扉の先はエルラードの広場だよ。」
ソウが開けた扉の先は、ソウの言う通り交易都市エルラードの中央広場で、その中央に鎮座する太古の英雄像が視界に入った。
「さ、ギルドカウンターに行こうか」
ソウの言葉にうなずき改めて各々の武器を強く握りしめた。
暗闇で椅子に腰かける音が響いた。
「帰ってきたか」
静かな空間に椅子のきしむ音とけだるげな声がこだまする。
「妹が目覚めてからまだ幾日もたっていない。先に私が・・・」
自身のゆるくカールされた赤い髪を指でもてあそぶその女性は口元を醜くゆがませて、黒い霧を吐いた。
「・・・・・何にも知らないおろかな人族が」




