これからの、それぞれの
開場はしぃんと不自然なほどの沈黙が支配している。
「・・・勝った・・・」
リクの口から言葉がこぼれた。
「勝ったよ!モモリさん!やったよ!!」
リクは思わず隣に立っていたモモリを抱きしめた。
「今すぐ離さないと服と下着だけをを燃やします」
「すいませんでした」
モモリの冷静な声色にリクは姿勢を正して両手を上げた。
「トヲヤ!」
聞き覚えのある声が来賓観戦席から聞こえてくる。
声の方に視線を向ければ、ルカが心配そうな表情で走ってくる。
「トヲヤ、お疲れ様!」
ルカは座り込んだトヲヤを強く抱きしめた。
「負けちゃったぁ・・・はは・・・」
弱々しく笑うトヲヤに「もういい、沢山頑張った。私に気を使って何も言わないでくれたことも知ってる。」とルカは抱きしめる力を少し強くした。
「えと、トヲヤさん、・・・ありがとうございました!」
リクは放心した様子のトヲヤに向かってまっすぐとそう言い頭を下げた。
「あ、えと・・・」
トヲヤは慌ててルカの肩を借りて起き上がると、リクに向かって頭を下げた。
「こちらこそ、本日はお相手ありがとうございました!」
わあぁっと歓声が上がり、その場は祝福の声に包まれた。
二人の手合わせは魔法水晶に録画されていたらしく、後日販売されるとのことだった。
「本当によかったの?」
「うん。これは王からの慰謝料みたいなもんだと思ってくれればいいよ。」
帰りの船にはもうこれ以上積みこめないほどの物資が運び込まれた。
「とりあえず貿易に関しては、そこの大賢者様が条件付きワープ装置を作ってくれたからいつでも物資のやり取りや異文化交流ができるよ!これで安泰だね」
実は国の研究者の娘だったルカがトヲヤに微笑みかける。その背後でハヤテは不機嫌そうにため息をつきながら肩をすくませている。
ルカは風魔法の才を生かして音楽を使った魔法の研究をしているそうで、オリジナルの魔法陣やその原理を写した冊子をモモリとソウにそれぞれプレゼントしてくれた。
「こんな貴重なものを・・・」
「モモリさん、この前鼻歌歌ってるの聞いちゃって。モモリさん歌美味いみたいだし、使いこなせるかなぁって」
「ありがとう!一生大事にするね!」
「せめて使って・・・?」
「僕にもいいのかい?」
「研究の足しにしてください」
「感謝するよ」
ルカとトヲヤはあの後すぐ結婚の日取りを決めたらしく、そのうち招待状を送るとリクとモモリに伝えた。
「ワープ装置のメンテナンスが必要な時はこの魔石の板に魔力を流してくれれば、僕が直接出向くからね、いつでも呼ぶといい。年中無休だからね」
「研究の依頼をサボりたいだけだろ」
ソウの生き生きした言葉にヒロはあきれたようにツッコミを入れた。
積み荷のチェックが終わったミレイとルマルが戻ってくると改めて挨拶をして回ることに。
王は妻に勝手に事を進めようとしたことをとがめられ、謹慎することになったため不在だ。
国の人たちは始めこそ急に連絡が取れなくなったことについて不信感を覚えていたため冷たい対応をしていたが、試合の一部始終を見てから、リクに同情の視線を向ける人が増えた。
中には「頑張れよ」と肩に手を置き選別を渡してくる者もいた。
「報告書多すぎ・・・これキョウさんに渡したらすごく嫌な顔されそう」
モモリは顔をしかめながら魔法鞄の中身を見てため息をついた。
「まあまあ、でも自分のルーツも知れたし、遺物とかいろいろ収穫もあったし、プラマイプラスってことで!ね?」
リクにそう言われ、顔をしかめながら首をかしげているモモリにトヲヤは改めて頭を下げた。
「モモリさん、ありがとう。あと、巻き込んでごめん」
「・・・大丈夫ですよ。むしろ、楽しかったです。ルカさんと末永くお幸せに!」
モモリの言葉にすっかり熟れた林檎のようにほほを染めて何も言わずにうつむいてしまったトヲヤを、ルカとモモリが二人でクスクスと笑いながら顔を見合わせた。
「おーい!そろそろ出発するぞー!」
船の最終メンテナンスをしていた漁師が船の方から大声を上げながら走ってくる。
「はぁい!」
ミレイが大きな声で返事をする。
船出の時だ。
海の向こうは真っ白な霧でおおわれている。その先に金色の糸が伸びているのがモモリには見えた。
「向こうからだと、霧の色は真っ黒なのに不思議だよね」
モモリの言葉にミレイは確かにと頷いた。
「・・・今まで気にしたことなかった」
「君たちから聞いた感じ大陸とここで若干言い伝えられてる歴史にずれがあるから、その影響かもね」
トヲヤもそう言って興味深そうに何かメモをしている。
「次に会うのはお二人の結婚式かもですね?では、それまでお元気で」
モモリは改めてトヲヤに挨拶をした。
「ふふ、ありがとう。でも、もしかしたら君たちの結婚式かもしれないよ?」
トヲヤの悪戯っぽい表情にモモリは恥ずかしそうな様子で少しばかりほほを染めたが、すぐに表情を戻して
「世迷言言わないでください。トヲヤさんてリクさんとそういうとこ似てますよね」
と不機嫌な声でそっぽを向いた。
トヲヤはその様子をへぇ?とにやにやしたまま見ている。
いつまでもにぎやかに話していると、船番をしていた漁師がもう一度声をかけてきたため、それに従って一行は船に乗り込んだ。
「出向!」
船がゆっくりと前進を始める。
「ではまた!」
船の甲板から陸上にいる人たちに改めて頭を下げる。
リクは、集まっていた民衆の中に、タツの姿が見えた気がしたが、頭を上げたときにはその姿はなく、リクは首をかしげていた。
『えいか?好きな女を最後まで守り抜け』
リクの耳元にタツの声が聞こえた気がした。
「・・・わかりました。この命を懸けても、必ず」
リクの声は潮風にさらわれて消えていった。
「何か言いました?風邪ひくんで中に入りますよ」
モモリの声で我に返ったリクは、「ごめんごめん、もう一回行って?」とモモリの耳元でささやき、返り討ちにあうのだった。
「痛っ!!モモリさん関節技は決めないで!!」
「お前ら何いちゃついてんだよ早く入れ寒いんだよ」
「もう、また?」
笑い声が船からあふれてくる。
霧の上の空は晴れ渡り、笑い声に誘われたのか大きな鯨も祝福をするかのようにきらめく星の潮を噴き上げた。




