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死合い

空に空砲が放たれる。


城の上空に作られた特別な魔法空間は、国のあちこちに設置された遠隔モニターにつながっており国民に御前試合の様子が生配信される仕組みになっている。


空花火の音が空に三発響き渡ると、わぁっと歓声が国中から沸き上がった。


「これより御前試合を行う。双方前へ!」


魔法空間に二人の影が向き合って立つ。


リクは街を歩いていたときの着物ではなく、城下町で新調した火炎大蟹(カボ・マンダラット)の甲羅からできた赤橙の鎧に身を包み、タツからもらった大剣をしっかりと握っている。


トヲヤはおそらく正装なのか、濃紺の着物に赤い帯を締めている。

腰に差している刀は黒い鞘に金糸の細い線模様があしらわれている。鍔には狼が二匹向かい合ったような模様の繊細な細工が施されている。柄は燃えるような赤色だ。


「俺はお役目を果たすだけっだからね。ごめんだけど勝たせてもらうよ!」

「俺だって・・・!好きなヒトのためにも負けるわけにいかないから!本気でいくよ!」


「それぞれ、助力役を前へ!」


審判と思われる男の声を合図に、二人の横に二つの影が並んだ。リクの横にはモモリが、トヲヤの横には紺色をした美しい毛並みの狼が並ぶ。


「おおかみ・・・?」


「狼とは心外ですね。」


狼の口から言葉が発せられるとモモリとリクは驚いて目を見開いた。

何故なら狼は白い煙に包まれると人の形になったからだ。

人の形になったとはいえ、狼の耳と尻尾は漬いたままなのだが。


その姿は美しく、濃紺の髪が映えるような月夜に山を覆う霧を思わせる白い肌と透き通る紫水晶のような瞳に皆目をうばわれた。


「私の名前はハヤテ、隣にいるこの男の・・・不本意ですが眷属です」

「不本意だったの!?」


二人の空気間はまるで幼いころから一緒にいたような不思議な距離間を醸し出しており、戦いにおいて最適な組み合わせに見えた。

一方モモリとリクは二人で組んだことが無かったため、少しばかりの不安を覚えていた。

何故ならモモリは試合の直前でリクに頼み込まれて仕方なしに了承したからである。当然連携の練習などしているはずがなかった。


「わ、私はリクさんのえーと、婚約者?です」

「モモリさん、そこははっきり言ってほしいかも」


二人のやり取りにピンときたのかハヤテは、呆れたようにトヲヤを見た。


「ハァ・・・だいたいわかりました。では私は今回は後衛に徹しますから。・・・手は抜かない、ということで良いですか?」

「うん。これは生まれたときから俺のお役目なんだから。たとえルカと結ばれることが許されざることでもいつかちゃんと迎えに行くって伝えたから」


トヲヤはまっすぐ前を見据えて言うと、鯉口に親指を添えて抜刀の構えを取った。


「!!」


その構えをリクは見たことがあった。

それはここ数日の手合わせでタツがしていたものだった。


体全体の重心を低くさせ、まるで狼の威嚇のように鋭い視線は殺気を帯びている。


その後ろでおそらく祝詞なのか、ハヤテは古い言葉の羅列を詠唱している。詠唱が進むたびにどんどんその体の周りに魔力が集まっていくのをモモリは感じた。

その様子は髪の毛や尻尾の毛は逆立ち、まるで重力の方向が変わったかのようだ。


モモリは急いで金細工の杖をその手に召還すると、上空に掲げて念じ始めた。


「詠唱破棄か、面白いね」


トヲヤはその様子を見てにぃっと口元をゆがませると前に向かって素早く踏み出した。


その瞬間ハヤテの詠唱が終わり、トヲヤの体が強く光ったかと思ったらリクの前からその姿が消えた。


「え」


ガキィン!!


金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。


「へぇ、ハヤテの鬼神神速(ヘイスト)についてこれる人いるんだ」


トヲヤの楽しそうな声が聞こえる。

欲見るとトヲヤの神が燃えるような赤色に光っている。これが炎の戦士と言われる由縁だろうか。


「だてに数百年冒険者してないからね」


トヲヤの姿に若干驚きつつリクも負けじと言い返す。


「リクさん、私の射程に入ると巻き込まれるんで注意してくださいね!・・・行きますよ!」


モモリの声が上空から聞こえる。


鍔迫り合いをしながら二人が見上げると、空中に浮いた状態のモモリが、真下に杖を向けていた。


『久しぶりに詠唱するから巻き込まれないように』


リクの耳にモモリの声がこだまする。風魔法の念話だ。いつの間に習得したのかその制度はかなり高く、リクはすぐに嫌な予感がして魔力を凝縮した球を地面に向かって放った。


「蛇神の恩恵を受し大地の恵みよ!その無数の手をもって我らにあだなす敵を捕らえよ!蛇神の寵愛(イビー・ロープ)!」


衝撃波が作り出す煙が舞ったところでタイミングを見計らっていたかのようにモモリの杖から紫色の細い線が放たれた。


その線は煙の中で拡散され、煙が消えたころには困惑した様子のトヲヤとハヤテが縛り上げられていた。


「草魔法と混乱魔法の応用だよ。しばらく大人しくしててね。特にハヤテさん」


モモリは不適な笑みでそう言うと、空を旋回しながらリクを探した。リクはかろうじて後ろに身を引いたらしく、少し焦った様子でモモリに視線を向けていた。


「ごめんね、この魔法範囲内の生き物すべてを拘束しちゃうから避けてもらえてよかったよ」


モモリののんきな声にリクは冷や汗をかきながら大剣を構えなおす。


「この程度で俺は拘束されないよ?」


リクの背後から声がした。


殺意の高い空を切る音が響く。

リクは慌てて避けたが、リクの髪の毛はその一撃によって少しばかり短くされてしまう。


「っぶねぇ!!」


「子供のころからずっと稽古してきたからね。それに、ハヤテが無詠唱で構えも無しに魔法が使えないなんてだれもいってないよ?」


トヲヤは悪戯が成功した子供のように笑っている。


「っ・・・」


リクはトヲヤを睨みつける。二人はそのまま間合いを見極めあう。


沈黙が場を支配してどれだけたっただろうか。


先に動いたのはトヲヤだった。


殺気が瞳の色を支配している。


ハヤテの魔法の持続力が長いのか脳内詠唱で強化を継続させているのか、目にもとまらぬ速さでリクとの間合いを詰めていく。


リクはエルフ特有の動体視力でかろうじてトヲヤの太刀筋を受け流しているが反撃の隙を見極めることができないでいる。


しばらく金属の物かい合う音だけが響く。モモリはハヤテの動きを止めるのに手いっぱいなのか、杖を構えて空中で静止している。


「くっ・・・」


リクの大剣はトヲヤの太刀筋にはかなり不利なようで、一方的に攻撃を受けてばかりのリクから苦しそうな声が漏れる。


「・・・全部流していいかな」


モモリの声が聞こえると同時に空間が水で満たされる。

急な展開にその場にいた全員が慌てて防御の姿勢を取る。


モモリは自分とリクの周辺に泡のようなものを作り出し呼吸できるようにしており対策もばっちりだ。

ハヤテも慌てて無詠唱で自分とトヲヤの周りに空気の泡を作るも少しだけ水を飲んでしまったらしくうごきが悪くなった。

リクはその隙を見逃さず、自らの手に握る大剣に魔力を流すと、大きく振りかぶり一気に前に間合いを詰めた。

モモリはそれを見逃すことなくリクの両足に魔法で水圧をかけた。

リクは始めこそ驚いたが器用なものですぐにその感覚をものにすると水中をまるで魚のように動き回った。


「もう終わりにするよ!」


リクは全身に力を入れ大剣を構えなおすと、魔力の光をまとったそれを大きく振りかぶった。


開場の水がいつの間にか引いている。


民衆の前のモニターに映ったのは、座り込んだトヲヤの顔の前に大剣を向けるリクの姿だった。



「そ、そこまで!」


審判の声が空を震わせる。




「勝者、異邦人リク!!!」



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