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それぞれのこころ

「そんで、二日間はゆっくりできたかえ?わしは嫁さんを二日間思いっきり甘やかしてトロットロにしてやったぜよ。わしの嫁さんはまっこと気が強くて可愛らしい、そんでのう・・・」


タツはとても元気そうな様子で二日間ののろけを話しながらリクの前に現れた。

リクはタツの話を聞いて、ここ二日の出来事を思い出したのか顔を赤らめた。

大してデートらしいことをしていたわけではないのだが、モモリは魔道具の店でプレゼントしたネックレスを昨日も今朝もずっとつけてくれていた。

ただそれだけなのにとてもうれしかったリクは緩みそうな自分の顔に何とか力を入れてこらえながらタツに向き直り返事をした。


「お、俺も頑張りました。」

「ほう?まあ詳しくは知らんが好きな女のためなら負けるわけにはいかんにゃあ?」

「好っ・・・!?もう・・・からかわないでくださいよ・・・」

「ふはっ、まぁえい」


タツはリクの反応を見て愉快そうな様子で笑うと、この前の続きじゃと言いながらきりりと表情を変え、刀を構えた。


「さぁて、話しは聞いとる。おんしが相手するんは()()トヲヤじゃろ?あやつはわしの元教え子の一人やき、あいつの癖はなんぼでも模倣できる。もうすぐ御膳試合もあるき、今日からは本格的な予行演習っちゅうことで、行くぜよ!」


タツは腰の重心を低く沈むように立つと、水平に構えた刀をリクに向ける。それはまるで野生の狼の威嚇を思わせる雰囲気をまとっていた。


リクは見たことのない構えに思わずたじろいだが、すぐに大剣を握りなおして、深呼吸をした。


「稽古、今日から改めてよろしくお願いします!」


リクの大きな声が空にこだました




庭の中心で土煙が舞っている。


「声大きすぎ・・・全部筒抜けじゃん・・・」


モモリは窓から二人の様子を見ながら、呆れたように深くため息をついて考え事をしていた。


「プレゼントねぇ・・・」


モモリの首からは燃えるような美しい模様の施された黒い石のネックレスが下がっている。金色の金具が二色の炎によく映えて美しい。

ネックレスの先に光る石を指先でくるくると遊ばせながら、退屈そうにお茶をすすった。


「・・・リクさんは別に彼氏じゃないっての」


リクが二日間稽古禁止と言われたからと、二日連続で城下町を連れまわされたモモリは、いつもなら出不精な自分を無理やり連れだしたことで心底嫌いになるはずのリクと一緒に過ごすことをいつの間にか心地いいと思ってしまってる自分に気が付いて心のもやもやを吐きだせないでいた。


「確かに大して知らない人と結婚もしたくないし、一日でも早く家に帰って魔法の研究の続きとかしたいけどさぁ・・・

   ・・・リクさんとはそういうの無いし・・・

      ・・・マジで何なの?」


モモリは頭をぶんぶんと振りすぎたせいか頭が痛くなり仰向けに転がった。


「あーもう!!!あんなにしつこいのに!!!うるさいのに!!!」


御前試合まであと何日もないというのに、モモリは頭を抱えうなり声をあげるばかりだった。


「ただいまァ、あ、モモリさんいたいた。ちょっと見せたいものがあるんだけど、顔かしてもらっていいかなぁ?」


モモリが再度深いため息をついたタイミングで部屋に帰ってきたミレイはモモリの様子に何かを察したのかにやにやと笑みを浮かべると、爽やかな笑顔に戻って強引にモモリの手をとり引いた。


「えぇ・・・」


モモリはミレイの反応に困惑しながら手を引かれるがまま、何もわかっていない様子でそのあとをついていった。




夕飯の時間になり、モモリとミレイは自分の食事をもって男性陣が過ごす部屋に向かう。

あれから王は気を使っているのか全員で集まっての食事はなくなっており、各部屋に人数分の食事が運ばれるようになった。

今日の献立は主食のライノ、白身魔魚の塩焼きと付け合わせのミョウヤン、根菜と小麦団子のミソ煮汁、野菜のすっぱ漬けだ。飲み物は各部屋に置いてある魔法のピッチャーから飲むことができる。

魔法のピッチャ―は最新式で三種類の飲み物が出るようになっており、無限水源の魔法もかかっているため補充は必要がない。


「お邪魔しまぁす、情報共有しに・・・」

「あ!こっちこっち!モモリさぁん♡」

「はぁ・・・」


リクはモモリと目が合うと、座ったままぱぁっと明るい笑顔になり大きく手を振った。

モモリの呆れたようなため息にもめげずにニコニコと笑いかけている。


「おい、暴れるな。メシがこぼれる」


ヒロの不機嫌そうな声にリクはごめんごめんとまるで反省していない様子で笑った。


「そう言えば試合まであと少しだけれど、あの謎の男との特訓はうまくいってるのかね?」

「手ごたえがないといえばうそになるけど、ぼちぼちかなぁ。トヲヤ本人と直接手合わせしてるわけじゃないし、本当の手の内はわからないから何とも言えないんだよねぇ」

「僕たちは応援するしかできないけれど、いつでも相談に乗るからね。頑張ってくれたまえ」


ソウは新しく買ったらしい魔導書を片手に読みながら食事をしている手を止めて、リクに声をかけた。


「あーあーまったく、ソウよぉ、本を読みながら食うなって何回も言っただろ、行儀が悪いだろ」

「本を買いすぎたからか時間が足りなくてね。仕方ないさ」


ソウは楽しそうに笑いながらヒロの言葉を聞き流し、やめるという選択はないらしく本を片手に持ったまま小鉢に箸をつけた。

ヒロのため息は止まることがないようだ。


「ヒロさんってなんかこう、二人の親みたいですよね」


モモリは呑気にその様子を眺めながらぼんやりとつぶやいた。


「こんなでかい子供はいらねぇ」

「えぇ!?ヒロ一番年上なんだし、いいじゃん!ね?お兄ちゃん?」

「きめぇ。やめろお前みてぇな弟なんてぜってぇいやだ」


リクのぶりっ子のようなしぐさと上目遣いをガン無視して、ヒロは不機嫌な様子を一切隠すことなく舌打ちをしながらも自由に過ごしている二人の面倒を見ることを諦め食事を味わって食べていた。





風の音が木々の間で音楽を奏でる。

群青の中に金粉をまぶしたような美しい星空が、ひんやりとした風を山深くに運び込んでくる。


月が雲から顔を出し、ひんやりとした空気が肌を刺激する山のてっぺんに、ひとつのの人影が立ち上がった。


「・・・トヲヤ?ずいぶんとらしくない」


「・・・へへ、ちょっとね。」


その人影は、岩場で月見をしていたトヲヤに近づいていく。

トヲヤは何やら考え事をしながらも、その人影に弱々しく笑いかけた。


「私を差し置いてルカと婚約したんですからトヲヤにはちゃんとしてほしいところですが、ね」

「はは・・・」


トヲヤは隣の男の言葉に歯切れが悪い様子で返事とも言えないような情けない笑い声を返した。


「あなたはいずれこの国を率いていくのでしょう?御父上に何を言われたのか知りませんけど、しゃきっとしてください。あなたのカリスマ性とスター性だけは認めているんですかあら。・・・で、私を呼び出したということは御前試合ですか?」

「うん・・・そんなとこ」


月に照らされたトヲヤの横顔は、何もかもを諦めた様子なのに、どこか美しい顔をしていた。


「これは俺の役割なんだ・・・ちゃんとしなきゃ」

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