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いざ、買い物デートへ

リクは急な稽古禁止に困惑していた。

いつもの癖で、陽が昇る前に目が覚めてしまう自分の体に悲しさを感じながら、リクは大きく背伸びをした。


『彼女さんと一緒にいてやりや』


タツの声が脳内にこだまする。


「彼女・・・かぁ・・・」


リクは頭をガシガシとかきながら、大きくあくびをした。

当然こんな朝早い時間にモモリが起きているわけがないので、リクは支度をしながら今日はどうやってモモリを誘い出すか考えることにした。



すっかり陽の上ったころに、鳥型の魔物が屋根の上で大きな鳴き声を上げた。

モモリが散歩がてら城の池に住んでいる魔魚を見ている姿が窓から見えたリクは、さっそく行動を開始した。


「モモリさぁん」

「げ」


モモリはめんどくさそうな表情でリクから距離を取ろうとした。


「地味に傷つくんだけど・・・まぁいいや。これから出かけようと思ってモモリさんを誘いに来たんだ」

「嫌です」

「即答」


モモリは真顔のまま両手でバツを作った様子にリクは少しほっこりしつつもあきらめずに交渉を続けた。


「モモリさん、この国の魔道具のお店って行った?実はそのお店の割引券を手に入れたんだけどさ、俺魔道具はあんまり詳しくないし、良ければと思って・・・」


リクの言葉にモモリの目が輝く。

モモリの様子にわかりやすいなと笑いをこらえながらリクはそのまま言葉を重ねた。


「んっふふ、モモリさん方向音痴でしょ?せっかくなら俺がお店まで送るよ。それに、いつどこでお城の人が見てるかわかんないんだしさ、せっかくなら婚約者アピールして言い訳できる要素増やしとこ?」


リクがダがメ?と言いながらモモリを覗き込むようにして見つめると、その視線に堪え切れなかったのか魔道具の店につられたのか、モモリは苦々しげにその首を縦に振った。




モモリの目の前には色とりどりの魔石が並んでいる。


「わぁ、わぁ!」


モモリはリクのことなど忘れたかのように完全に放置して、弾む足取りで店の奥へ奥へと突き進んでいく。


「この店結構大きいからね、はしゃぎすぎないようにね!」


リクの忠告もむなしく、モモリはどんどん奥に入っていく。鼻歌はわけのわからない歌詞で、完全オリジナルの即興ソングであることがよくわかる。


「鷲の真っ赤な目玉のホルマリン漬けは、サソリの目玉の代わりにならぬ♪熊の親子の尻にぃ~星形のぉ痣ぁ~♪蛇の光のビームがとぐろを巻いて折りたたむぅ~♪」


「全く意味が分からないけど楽しそうだからいいか」


リクはその様子を見て、ほほえましそうな様子で肩をすくめた。


モモリの鼻歌だけが店の奥から聞こえてくるのでそれをBGMに、リクも改めて店内を見回した。


「・・・あ」


リクは二つ奥の棚にあった石と目が合ったような気がした。

近づいて見ればそれはオレンジ色と水色が煙のような模様を描いている真っ黒な石だった。


「これ・・・」

「おやおや、お目が高いねぇ。その石が気になるかい?」


リクの背後から声がした。足音もなくそこに立っていたのはこの店のオーナーである老婆だった。リクは若干驚きながらも石を手に取った。


「この黒曜石には、水魔法と炎魔法の加護がかけられている。もとは龍の宝玉だったなんて言い伝えもあるんじゃ。今なら無料でアクセサリーに加工してやるよ?」


老婆は鼻歌の聞こえてくる店の奥にちらりと視線を移してからリクに問いかけた。


手のひらの上の小さな魔石はまるでリクに見つけてもらうためにあったのか、魔力を帯びた光を発したように見えた。




しばらくして、モモリが店の奥から戻ってくると、その手にはどう探したら見つかるのか、種子のわからない魔道具がこれでもかと抱えられていた。


「ここすごくいいところですね!!大陸にワープポータルあったらいいのに!」


モモリの目がこれまでにないほどに輝いている。


「これ全部買うの・・・?多くない・・・?」

「いつどんな遺物の取引があるかわからないので貯金はしてますよ。値札も見てかなり厳選したので大丈夫です」


商品を老婆に預けたモモリはなぜか自慢げに腰に手を当ててふんぞり返っている。


どうりでモモリの家はかたづいている場所と散らかっている場所がきれいに分かれていたのかと、リクはモモリの家を訪問した時のことを思い出しながら納得した。


モモリの会計が済み、いざ商品を受け取るというときに、老婆はひとつのペンダントをモモリに差し出した。


「え、なんですか?これ私買ってないですけど・・・?」


「これはそこにいる彼氏からのプレゼントさ。詳しくは本人に聞くといいさ。試合のサポート、頑張りな」


老婆が親指を立てて笑う。

モモリは何かを察したのか、リクの方を睨みつけた。

その顔が真っ赤だったのは、その場にいたリクと老婆だけしか知りえないのだった。

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