一つ一つの意味
「わしはここから一歩も動かん。基本的にわしはやっとうも拳銃も抜かんきかかってこい。わしの腰に下がっとるこの布袋の中から豆を一粒でも出したらおんしの勝ちじゃ」
タツは腰の刀にも拳銃にも一切手をかける様子はなく、余裕そうな表情で腕を組み仁王立ちの体勢でリクをじっと見据えた。
その腰には柔らかそうな麻袋が下がっており、重そうにじゃらりと音を立てていた。
城の庭の地面は湿っていて、長年使用人や関係者が何度も歩いたことで硬く踏み固められている。
そんな弾力を含んだ硬い土は、リクの足に強く蹴り飛ばされ、ある程度の大きさの塊を背後に飛ばした。
「っ!」
リクは新しい相棒となった大剣を大きくふりかぶり、まずは一太刀と大きく息を吸った。
ぶんっ
空気を切る音があたりに響く。
リクは自らの剣先に視線を移すが、タツの姿がみあたらない。
「甘い、ここじゃ」
リクの耳元で声が響く
「うわぁ!?」
「なんじゃぁそがな声出して。わしのこと変態扱いしとる場合かのう?」
タツはとても楽しそうな様子でリクから改めて距離を取る。
先ほどと変わらず腕は組んだままだで不適な笑みを浮かべている。
「おんしの武器の持ち味をよおく思い出しとおせ。わしからは絶対に手を出さんきにゃ」
その挑発するような声色に、改めて体験をつかむ両手に力を入れると、リクのその様子を満足そうに見て頷くタツ。
リクは悔しそうに歯を食いしばるとどうしたらタツの余裕を崩せるのかひたすら頭をフル回転させながら、ただがむしゃらに剣を振った。
その姿を客室の窓からモモリとミレイが見ていることには気が付かずに。
「お~、頑張ってるねぇ」
「モモリさんマジで他人事過ぎない?一応一番の当事者あなたね?わかる?」
「一応」
ミレイは何とも感情のこもっていない気の抜けた「頑張れぇ」というモモリの言葉にツッコミを入れながら、何やら紙に何やら書き物をしている。
しかしモモリはミレイのそんな様子すら気に留めることもなく、大きなあくびを一つすると敷きっぱなしの布団に潜り込み、前日に城下町の本屋で手に入れた新しい魔法書をキラキラした瞳で読み始めた。
「本当にモモリさんはマイペースだなぁ・・・ま、いいや。私は今日ルマルと城下町デートしてくるからモモリさんお留守番よろしく!」
ミレイはモモリの生返事を聞き流しながら壁にかかっていた時計を確認すると、紙の束をまとめてひっつかみそのまま慌てて部屋を出て行ってしまった。
「みんなあわただしいねぇ・・・ふああ」
モモリが大きなあくびを一つ呑気に吐き出した。
その声は誰に届くこともなく部屋の空気に溶けて消えた。
空に金属のぶつかり合う音が響き渡る。
「ほう、こんなに早くわしにやっとうを抜かせるたぁおんしもなかなかやるのう?」
その楽しそうな声には力が入り、西日は二本の剣を反射させてより一層輝いた。
「そりゃあ何百年も冒険者やってますから・・・ね!」
「は、さすがエルフの血ぃ混ざっとるだけあるのう。、わしの稽古は必要だったんかのう?」
「熟練度は年月では計れませんから!」
「はっ、おんしもなかなか言いよるのう!」
二人の手合わせの迫力があまりにも派手だったせいか、城に出入りする使用人や客人が何事かと人だかりを作っていた。
本来ならその中にいてもおかしくないトヲヤの姿はない。
モモリ達は皆、何日も城で姿を見せないトヲヤに不自然さを感じてはいたが今はそれどころじゃない。正式な試合で民衆の信用を得る必要があるため、トヲヤを探している余裕などないのだ。
「・・・そこまで。今日はしまいじゃ」
タツの声が張り付いた空気を震わせた。
今にも切りかかりそうな構えをしていたリクの動きが止まる。
「っは・・・」
いつの間にか呼吸を止めていたのか、リクは息を深く吐いた。
「門限が近い」
「え?」
「嫁さんに怒られる前に帰らんとな。おんしも可愛い彼女がおるがやろ?今日は解散じゃ。明日明後日は休みにする、絶対稽古はせんこと。彼女さんと一緒にいてやりや」
タツは一切息切れする様子がないままリクの肩に軽く手をおき、耳元で何やら言葉を発してから、軽い足取りで、楽しそうに城門を出て行った。
その背中をリクは「えぇ・・・」と若干引き気味な様子で見送った。
リクはふと背後を振り返る。
そこにはすっかり興味津々な様子で集まっていたやじうまが残されていた。
「わぁ!なになに!?」
リクは驚いて手に持っていた大剣を取り落しそうになった。
慌てて大剣を握りなおし、リクは片づけを始めたが、いつまでもいなくならないやじうまの視線に耐えられず急いでその場を後にするのだった。
モモリは魔法書に夢中になりすぎていつの間にか夢の中で新しい魔法の開発に成功しており、外の喧騒には全く気が付かずにいた。
「・・・んへへ、全部盛り盛りのまほうだぁ・・・」




