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風と太陽の決意

「無理じゃ」

「なんでですか!?」


タツは一言だけ言って席を立とうとして、モモリとミレイにしがみつかれていた。


「わしはさっき言った通りずうっと前に隊から身を引いとる。故郷の若いのに教えたもんも子供だましの自衛方法みたいなもんじゃ。だいたい稽古をつけてほしい男は大剣使いじゃろ?わしはこの通りやっとうと拳銃しか使わん。そもそもの武器が違うんじゃ。」


タツの冷静な声に二人は口を噤んだ。


「あんなぁ、どういう稽古つけてほしいか、せめて細かい話を持ってきてくれんとダメとしか言えんのじゃ。そろそろ本気で嫁さんにしばかれるき、本当に行くぜよ。」


すっかり言葉を失ってしまった二人を置いて、一人分の珈琲にしては多すぎるお金をテーブルに置くと扉に手をかけたタツは、一度立ち止まった。


「独り言じゃ・・・わしはいつもの杉の古木がある砂浜の風景を明日にでも見に行こうかのう」


一度も振り返らず手だけ振ると、タツはカフェの扉を静かに開けて姿を消した。


「・・・!」

「ねぇ、今の」


二人は顔を見合わせると慌ててカフェを飛び出した。



「えぇ!?」

「トヲヤさんはおそらくずっと腰に差してるあの剣を使ってくると思います。手合わせや稽古をするなら大陸ではなかなか出会えない武器であるえーと、カタナ?だっけ、相手になれといた方がいいと思うんだ」

「さっき城下町周辺の地図を借りたんだけど、タツさんの言ってた特徴が合致するのが飾り羽の浜っていう海岸くらいだから、たぶんここだと思う。明日から稽古するならこの海岸でやってね!」


モモリとミレイの言葉に圧を感じたリクは体をのけぞらせながら「うん」と一言返事をするしかなかった。



リクは月が消える前に体大剣を手に取ると、客室の途に手をかけた。


「さて、モモリさんのためにも勝たなきゃなぁ」



海岸に打ち付ける激しい波の音がリクの耳を刺激した。

リクはその風を全身に浴びてから一呼吸置くと、大剣を構え、いつも稽古で初めに行う素振りを開始した。

近くの岩場に掘られた大陸のモンスターとは違う蛇によく似た姿のドラゴンが日に照らされてできた影で染まる頃、のんびりした声がリクの動きを止めた。


「お、おんしが言っとったリクか。せいが出るのう」


「えと、あなたがタツさんですか。なんかスイマセン、あのこたちに強引に頼まれたんですよね?うちのパーティーの女性陣気が強くて・・・」


リクの言葉にタツはおかしそうに笑い声をあげる。

しばらく笑っているその姿に不審な目を向けるリクに、タツは何とか笑いを収めて言葉をつづけた。


「はぁ・・・すまんすまん、お互い大変じゃのう、けんど女は少しくらい我が強いくらいがちょうどえい。そうじゃろ?」

「それは・・・そうですかね?」

「あの二人からあらかた事情はきいたぜよ。好きな女を守るたぁ、えい心意気じゃ」


タツは真面目な視線をリクの手元の大剣をとらえる。


「・・・ずいぶん使いこんどるのう。よっぽど思い入れがあるがか?」


「冒険者ランクがAになった記念になじみの鍛冶屋のおっさんに特注して作ってもらったんです。当時の基準だとかなり高スペックで貴重な鉱石を使ってたんですが、もう10年くらいは使ってますね。」


「十年・・・丁寧に大事に手入れしとったんやにゃ」


タツはリクの手に大切装に握られ輝く大剣をじっくりと見てから何か考え込んだそぶりを見せると、リクに「今日はひたすら素振りをしとおせ。ただし、砂浜の真ん中、海風に向かってじゃ。ひたすらやり続けろ」とだけ言って海岸からいなくなってしまった。


リクはわけがわからないといった様子だったが、とりあえずいうことを聞いておくことにした。


モモリに疑われたり怒られることが怖かったリクは、それから何日も海岸に通い続けた。タツはいつも日が昇る頃に現れては黙ってリクの素振りのフォームを難しい顔で見続けている。

そんな日が10日ほど続いた、ある日の昼間だった。


「おんし、ちっくとこれ持ってみてくれんか?」


タツが腰の魔法鞄(マジックバッグ)から大きな布の塊を取り出すと、リクに勢いよく投げつける。


「うおっ・・・なんだこれ・・・えっ!」


リクが慌ててキャッチしたその塊はずっしりと重く、布の上からでもわかるほど濃厚な魔力の痕跡が見て取れた。

リクは恐る恐るその布をほどくと、その中にあったのは中央にオレンジ色の魔石が埋め込まれ金の装飾が施された大剣だった。

魔石は市場に出回っているサイズよりも一回り大きく、太陽の光に反応するようにキラキラと輝いている。目を凝らせばその魔石には魔法文字がうっすら刻まれているのも見て取れる。


「こ、こんな高価そうなもの、なんで」


「おんしの剣の振り方の癖になじむように設計してもらったき、一回振ってみぃ」


リクの質問に答える気のないタツの言葉に恐る恐るリクはその剣を両手でしっかりと握り振ってみると、ヒュンと風の軽い音が響き、海の表面がわずかに割れた。


「それは選別じゃ。この浜の砂は粒が細かいき、そのうえで一日体制を崩さず素振りができるようになれば踏み込みも変わる。硬い地面で直接稽古をつけてやるぜよ。」


第一関門突破だといわんばかりの重たい声でタツはそう言うと、ついてこいと言わんばかりに背を向け歩き出した。


「何しとる、はよう来い。譲れんもんがあるがやろ?」


リクは古い大剣に今までありがとうと声をかけ急いで自らの魔法鞄(マジックバッグ)にしまい込むと、タツの声に大きな声で返事を返しながら新しい相棒を担ぎ、そのあとを追うのだった。


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