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火山に眠る邪悪

「・・・ヒロ君、遅いね。」


相変わらず窓の外は不自然なくらいに暗いままだ。

時計をみればまだ昼を回ったころである。


「んぅ・・・あれ、また寝てしまったんですか」


モモリののんきな声が聞こえ、二人は振り返ると、先ほど運び込んだベッドの上で健康的なつやつやした肌ですっきりしたような顔で伸びをしていた。


「おや、目が覚めたようだね。」

「おはよう、体調は悪くない?」


モモリは眠そうに目をこすりながらこくんとうなずくと、窓の外を見た。


「なんかずっと天気が悪いですね。変なにおいもするし。」


モモリの言葉に空気が凍る。


「におい・・・?」

「なんか焦げたような不思議なにおいがします。でも火炎関係の匂いじゃない・・・?」


モモリはそう言いながらふらふらと窓辺に歩いていくと、窓を全開にした。


「うわっ!なにこのにおい!!」


リクは鼻を抑えて顔をしかめる。ソウは少し眉間にしわを寄せながら、窓を急いで閉めた。


「この匂いを感じ取れるのかい?」

「え、はい。何となく不快なにおいだな―程度なんですが。」


モモリはきょとんとした様子で首を傾けた。


「ソウの地脈調査に付き合った時に嗅いだ匂いと同じやつだよね?確かパズリド大陸に住む『人間』には感じたることができないはず・・・」

「え。」


沈黙が再び訪れる。


「君の親御さんのルーツは聞いているかい?」

「え、いや、聞いたことないです。生まれも育ちもこの国なので。」

「でもエルフ特有の寿命や見た目の特徴は見られないし・・・いやまてよ・・・その髪と目の色・・・」


ソウが何か言い開けたその時、リクが多いな声を出した。


「ていうかさ、確かこの匂いを発してるのって生物の体内魔力器官に直接干渉してくる毒霧だよね。

・・・ヒロが危ないんじゃ。」


リクの言葉にハッとする二人。

そして顔を青ざめさせると三人は我先にと外に飛び出した。


「でもこの霧を吸い込むと体内から細胞をむしばまれる。魔法具を渡すから身に着けてくれ。」


ソウは走りながら、いつの間に取り出したのか結界魔法の魔法陣が刻まれたブレスレッドをリクとモモリにそれぞれ渡した。

ふたりが装備するのを確認すると自身は装備している眼鏡に触れブツブツとつぶやき軽い結界を張った。


「ヒロくんの魔力は獣人特有のものが混ざっているからたどりやすいはずだ。・・・火山のふもとに向かっているようだ、急ごう。」

「火山!?匂いがどんどんきつくなってるってのに、なんでこっちに行ったんだあいつは!」


国境沿いにいある火山群は高濃度の魔力が充満しており、冒険者でも一定以上のランクがないと入れない危険地帯だ。

ここ150年ほどは噴火していないが、最近魔力濃度が急激に上がっていいるからと全面立ち入り禁止になっているはずだった。


「・・・あ!ヒロさんいました!」

「よりによって魔黒石の鉱脈のふもととは・・・」

「鍛冶屋に持っていったらめちゃくちゃ儲かるのにな・・・見つかるの今じゃないよ・・・」


ヒロは地面を貫くように突き出てきた闇の底のように真っ黒に光る岩に寄りかかるようにして倒れこんでいた。


「ヒロ!」


リクはヒロの元に飛んでいくと、脇に抱えてすぐ引き返した。


「なんかわかんないけどあの岩呼吸してる!やばいから帰ろう!」


青ざめた様子のリクの後ろでは、もはや素人目にもわかるほど濃厚で邪悪な魔力が霧のように岩から吹きだしていた。


「・・・うるさいぞ。下等な生物の声で目が覚めてしまったじゃないか。」


脳に直接語り掛けてくるように低い声がこだまする。

そのとたんさらにあたりの魔力濃度が一層濃くなった。


「うわ、これやばいかも?」

「リクくん、よくやってくれた。さっさと逃げ帰ろうじゃないか。」

「でも岩の上にいる人こっち見てますよ。」


モモリの言葉に二人は固まった。恐る恐る視線を戻すと、岩の上にはおそらく上質な素材でできているであろう金の刺繍が施された服を身にまとった獣人がいた。


「犬・・・?」

「ハッ、人間ふぜいには違いは判らないだろうな。まあいい、そこで寝ている我が眷属に免じて名を教えてやろう」


獣人は気絶しているヒロを指差すと愉快そうな様子で笑った。


「我は銀狼の狂戦士(ヤレアッハ・ヤースィ)のゼヴスランだ!我自ら名を教えてやることなど無いのだ!光栄に思うがいい!」


「・・・聞いてないのに名乗ってきた・・・」

「モモリさん!!しー!!!」


ゼヴスランは片耳を動かすと、モモリの方をぎろりとにらむ。


「そこの女、今我を侮辱したな?」

「だから言わんこっちゃない!」


リクがわたわたしていると、ソウが会話に割って入るようにヒロを指差した。


「ヒロくんは確かに獣人の混血だが、眷属とはどういうことかね?」

「獣人は我の眷属、そんなこともわからんのか、精霊女王の加護を受けているエルフも所詮はそんなものということか。」


ゼヴスランは鼻をふんと鳴らしにやにやと嫌な笑みを浮かべている。


「・・・ん?そこの眷属は下賤で下等な人族の混血か。人族と慣れあうなど、そこまで堕ちたか獣人ども。教育する必要があるな。」

「教育・・・?」

「当たり前だろう。下級とは言え魔族が下等生物と慣れあい子を成すなど、許されないに決まっているだろう?本来ならお前のような人族ふぜい、我と言葉を交わすどころか話しかけようものなら消し炭にしてやるところだ。我の寛大さに感謝するがよい。」


ゼヴスランの冷たい視線が突き刺さる。

その場にいる全員が、視線に込められた魔力に足がすくむ。


「さて、あやつらの拠点は南の方の大陸だったな。コボルトの迎えなど待っていられん。」

「ま、まって!」


モモリはとっさに声を上げた。


「なんだ、下等生物。」


イライラしたような様子でゼヴスランが振り返ると、その目に剣を振りかぶったリクの姿が映る。


「・・・ハァッ!」


ヒュンッ


しかしその剣は空を切るだけだ。


「気が付かないとでも思ったか。魔王軍幹部第2部隊長の我をあまりなめるなよ。」

「・・・っ!」


声が上空から聞こえ、全員で声の方に視線をやると、ゼヴスランの周りに黒い靄のよう名まがまがしい魔力が漂っている。


「人族一匹くらいと思っていたが、気が変わった。始末していった方が良さそうだ」


その掌にブラックホールを思わせるまがまがしい球体が浮かび上がる。


「モモリさん!ヒロを魔法で浮かせて逃げてほしい!できる?ソウは手伝って!!」

「全く、仲間使いが荒いねぇ。」


リクは剣を構えなおすと後ろにちらりと目をやる・・・とそこには結界に守れれたヒロが一人で横たわっていた。


「あれ!?!?!?」

「おやおや」


リクの素っ頓狂な声がその場にこだまする。


さすがに見失ったままなのはまずいと視線を動かして探していると、静かな風が吹いてきた。

風の吹く方をみれば、険しい顔で杖を構えるモモリの姿がある。

外套は風を受けて暴れ、金色の刺繍は輝いている。


「・・・・太陽をつかさどりしいにしえの魔術師よ、そのほほえみで大地を焼け・・・」


魔力がどんどんモモリの構える杖の先に集まっていく。


「も、モモモモモモモモリさん!?!?!?」


「浄化の炎よ、天罰となりてあのものを討ち果たせ!獄炎の神拳(エクスプロージョン)!!!」


モモリは呪文を唱え、魔力を上空に打ち出した。


「嫌な予感がする・・・ソウ!!」

「ヒロ君のところの結界は出入りできるようだね。興味深い。」

「それはありがたいけど、今は考察や観察をしてる暇ないよ!!」


ふたりがやり取りしている間に、空を分厚く覆っていた雲が真っ赤に染まっていく。


「ほう、これはエクスプロージョンか。人族の癖にやりおるな。いいだろう、受けてやる。」


山脈の一部をえぐり取ってしまうのではないかと思われるほど大きなその炎をまとった隕石は、近づいてくるほどにそのスピードが尋常じゃないという事実をこちらに伝えてくる。

その辺の冒険者なら、その熱気で気絶していることだろう。


大きな炎の塊が、ゼヴスランに容赦なくぶつかり、爆発する。

間一髪で結界に転がり込んだ二人は、その光景を見て絶句した。


熱気で山に自生していたと思われる木々や岩さえも炭と化しまっさらになっていく。

その中で自分の正面に薄く張った簡易結界一枚で無傷のまま立っているモモリの様子が異様な雰囲気を醸し出していた。


「ははっ、これほどの力を持つ人族がいるとはな。面白さで言えば1000年以上の記憶の中で一二を争うほどだ。なんせ我のたてがみを少し燃やしたのだからな、誇るといい。」


ゼヴスランは機嫌よさげに空中に浮かび上がったままだ。


「お前が魔法を極めれば、もっと楽しませてくれそうだ。獣人たちの仕置きはこれでチャラにしてやろう。感謝するがいい!」


更地になった火山だったその土地を見回すと、ゼヴスランは鼻歌交じりに闇の色をしたゲートをつくり、消えてしまった。


「・・・・どうしよう」

「モモリさん・・・」


モモリの絶望的な声に結界から出てきたリクは、心配そうにしながら声をかけようとした。


「こんだけ地形変えた上に、魔獣や魔物の討伐をしたわけでもないからドロップアイテムどころか魔核すらない!!!!!しかもあの犬がいた証拠も無いから説明のしようがない!!!」


晴れた空に絶叫が響き渡る。


「え、そこ?」

「モモリ君って感じがするね。とりあえずここを離れよう。」


ソウはヒロをかつぎなおすと、元来た方角に向かい、先に行ってしまった。


「モモリさん、もう一回君の家にお邪魔してもいい?」

「え、あ~・・・はい。」


もはや諦めにも近いその声色に気が付いているのかいないのか軽い足取りをそのままに、リクは速足で歩いていくモモリに続いた。



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