新たな嵐
「なるほどねぇ・・・」
ミレイは腕を組み難しい顔でモモリの話を聞いていた。
「でもまさかモモリさんが恋愛すらしたことない純情乙女だったとは・・・」
「純情とかガラじゃないからやめてください・・・」
モモリは両手で顔を覆って恥ずかしそうに下を向いている。
ミレイがモモリの頭を静かになでていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
「モモリくん、リクくんが改めて謝りたいらしいから、一応聞くだけしてくれないかい?受け入れなくていいから」
ソウの声が聞こえてきたので、ミレイがおそるおそる扉を開けた。
扉の先にはリクが頭を床にこすりつけるようにして静止していた。
「トヲヤにこの国の最大級の謝罪の形を教えてもらったんだ。許されるなんて思ってないけど、その」
「はぁ・・・」
リクの必死な声にかぶせるようにモモリのため息が聞こえてくる。
「もういいですよ。ばかやってないで頭を上げてください。それよりこれからどうしたらいいか作戦会議しましょ。」
モモリが呆れたような様子でリクの前にしゃがみ込んで顔を覗き込むと、リクは急に近くにモモリの顔が来たことに驚いて赤面したまま固まってしまった。
部屋が広いからという理由で男性陣が泊っている部屋に全員が集まった。
「これからどうする?なんかよくわかんないけど、ワンチャンこの国から帰れるか怪しくなったわけだけど。」
「最悪私が魔法の威力差で押し切るけど・・・」
「そんな危ないことはダメ!俺が許さないよ」
「何勝手に彼氏面してるんですか?」
「うぅ・・・」
「・・・お前らいちゃつくならよそに行け」
ヒロは不機嫌な様子でツッコミをいれる。
「いちゃついてないです」
「いちゃついてないよ!」
「かぶせんなうぜぇ・・・もういい。ちっと見てくる」
ヒロは何かを諦めたように深いため息をつくと、作戦会議の内容が漏れるようなことが無いようにと偵察に出て行った。
ヒロが出て行ってから改めて話し合いが始まった。
おもにこれからどうふるまうか帰れなくなった際の脱出方法はなどあまり予測したくはない最悪の展開を前提で会議は進められ、あらかた決定事項がまとまった時だった。
「皆さん、いますか?」
トヲヤの声が廊下から聞こえてきた。
「実は、王からの伝言を伝えに来たんですけど・・・」
王からの伝言と聞いてリクが真っ先に扉を開けて一人で対応に動いた。
「どうぞ」
「そんなに警戒しないでください。失礼します」
トヲヤは普段と変わらない柔らかい笑顔のまま入室した。
「お騒がせしてごめんなさい・・・あれ?ヒロさんは?」
「偵察だよ。ルマルと交代でね」
ミレイは隣にいるルマルに視線をやりながらトヲヤの質問に答えた。
「なるほど、それなら国の重鎮たちの偵察はほぼ入れないね。アサシンのスキルもちの網に引っかからないような優秀なやついないはずだから。」
トヲヤの敵意のない声色に一同が気を緩める。
「それで、王からの伝言なんだけど、リクさんと俺が決闘することになりました。勝った方とモモリさんは結婚する?てきな・・・」
トヲヤの言葉にあたりが一瞬静まり返る。
「けっ・・・とう」
「日時は一月後の太陽が真上に上った頃、空花火が打ち上げられた瞬間に剣を抜く。」
「すぐじゃないんですか」
モモリの問いにトヲヤは肩をすくませる。
「君たちが本来交易を終わらせて帰る日がその日なんだよ。言いたいことはわかる?」
「私を置いていくか、一緒に帰るか最後に決めると」
「それまでの特訓は好きにしたらいいよ。俺も師匠や相棒に会いに行かなきゃだから」
トヲヤは言うべきことを言い終えたといわんばかりに立ち上がると、にこりとモモリに笑いかけてから扉に手をかけた。
「あ、当日はサポートをひとりまでつけていいそうだよ」
トヲヤはそれだけ言うとそのまま部屋を出て行った。
「急に言われてもな・・・」
静かな空間にリクの声がこだました。
次の日の朝になりすっかり白けた空を窓越しに見上げる。
それはみんな一緒で、急展開に体がびっくりしたのか十分に眠れたものの方が少ないのではないだろうか。
「決闘か・・・」
リクはつぶやくと、自分の大剣をもってふらふらと外に出かけて行った。
モモリが朝の支度を済ませてもう一度話に男性部屋を訪れたときにはすでにその姿はなく、剣を振る音だけが窓の外から聞こえてくるばかりだった。
モモリは特に話したいことがあるわけでもなかったので、仕方なしとミレイを誘い、城下町へ買い物をしに向かった。
「モモリさんから誘われるのってなんだか新鮮かも」
「そう?私にとって女の子の友達って故郷の国のギルド受付嬢やってるキョウさんくらいなので・・・」
「やったぁ!一番目じゃないのは複雑だけどうれしい!」
二人はここ数日で城下の人たちにかなり打ち解けていたため、初めに訪れた服やをはじめとして様々な店を回った。
「さすがに疲れたし、どこかでお茶しようよ」
ミレイの提案にモモリはうなずくと、近くにカフェが無いか見回した。
「・・・ようやっと家に帰れたき、今日からはゆっくりするつもりじゃ。」
見慣れない言い回しの声が二人の耳に届く。
「わしだって剣士の端くれやきにゃ、とりあえず地元の若いもんはそれなりに戦えるようにしてきたぜよ」
余りに耳なじみのない言い回しだったため、二人は視線を声の方に向けた。
二人の視線のは先には、喫茶桜桃という看板の下にある椅子に腰かける一人の男がいた。
その男は墨色の着物を着流しのように身に着けており、この国特有の剣である刀を腰にさしていた。
「タツさんは元国家新鋭隊の隊長だったし、隊を退けた後もしばらく指導役してたんだろ?地元の子たちもいい経験になっただろうよ」
「そがなことないぜよ!確かに一時前線には立っとったけんど、一線を退いてからどれだけ立ったと思っとる?わしだってもういい歳じゃ。指導しちょったのだって・・・はぁ・・・そろそろ嫁にしばかれるきお使い済ませて帰るとするかの」
店長と思われる老紳士にタツと呼ばれたその男が立ち上がった瞬間、モモリとミレイはその前に立ちはだかった。
「すいません、ちょっと話いいですか?」
「相談に乗ってください」
二人の圧に、タツは気おされるようにして「・・・おう」と返事をした。




