証明の代償
「・・・なんだと?」
静かな空間に重苦しい空気が流れていく。
「えと、実は私とリクさんは婚約してて、この旅が終わったら私の住んでる国で挙式予定なんです。」
モモリがあまりにも淡々と真顔でそう言い切ったので、集められた者たちは何とも言えない雰囲気で不審そうな目を向ける。
「隣で座っているリクくんはわかるが、モモリはなぜそんなに冷静なんだい?」
王の問いに先ほどまで顔を赤くして下を向いていたリクはびくりと肩を震わせた。
前日の作戦会議で言われた通りに手をつないではいるが、どこかぎこちない様子がぬぐい切れないため、周りの疑いの視線はより強まった。
そんなことは知らないといった様子でモモリはまた淡々と続ける。
「彼があまりにもわかりやすすぎて逆に冷静になったんですよ。ただリクさんがせっかくなら私のルーツのあるこの国でも挙式したいって言いだしてて・・・」
「確かに肝試しでも自分より怖がってる人いると怖くなくなるっていうもんね」
トヲヤの言葉に王はどこか納得いかない様子であったが、「そうか」とだけ返事をして深く考え込み始めた。
王の言葉をその場の全員で静かに待つ。
「・・・いまいち信じられんな。今ここで証明してもらえるか?」
王は静かにそう言ってモモリをまっすぐと見た。
「・・・証明・・・ですか」
「婚約していると言うのなら、当然できるだろう?」
モモリは少し考えこむと、おもむろにリクの方に顔を向ける。そして次の瞬間、
ちゅ
モモリの唇がリクの頬にそっと触れた。
石のように固まってしまったリクを無視して、モモリは王の方に向き直る。
「これでいいですかっ・・・!?」
モモリの体が横に傾く。
「モモリさん、いきなり情熱的だね」
モモリの唇に柔らかいものが当たる。モモリが驚いて目を開けると目の前にはリクの顔があり、まっすぐ目があったことがわかる。
「!?!?!?」
唇にキスされたと理解したモモリは声にならない声を上げると、その体から魔力をあふれさせた。
「・・・っ・・・」
その魔力量に周囲が驚いている隙にモモリは小さな声で何かを唱えると、その場から姿を消してしまった。
「あちゃ―・・・逃げちゃった」
リクはあっけらかんとそう言い放つと、王に軽く頭を下げてから、部屋を後にした。
「では僕たちもそろそろ失礼するよ」
そんな二人の様子を見て、ソウが口を開くと、残された一同も王に頭を下げてリクに続いた。
その場に残された王は愉快そうに口元をゆがませてその後姿を見守っていた。
「モモリさぁん!・・・テレポートで逃げちゃったから方角すらわかんないよ・・・」
リクの情けない声が庭園に響く。
「リクくん、半分エルフなのだから魔力探知でも使いたまえ。」
背後から聞こえた声にリクが驚いて振り返るとそこには笑いをこらえた仲間たちが立っていた。
「な、なんでそんなみんな笑ってんだよ!!」
リクが声を上げるも誰も何も言うことなく肩を震わせている。
「・・・もういいよ・・・魔力探知って言っても魔法関係俺からっきしなんだけどなぁ」
「君は不器用だからね。仕方ないから僕がやろう」
ソウが杖を召還して数秒沈黙すると、リクに耳打ちした。
「さて、最悪裏切り扱いになるかもしれないからね、いつでも逃げられるように僕たちは準備しに行こうじゃないか」
ソウはリクの方に手を置いてから他の面々に声をかけて先に歩いて行った。
ひとりになったリクは、まっすぐとある場所に向かって歩き出した。
リクは瓦の上を危なっかしい足取りで登っていく。
「っく、瓦って歩きにくいよなぁ・・・あ、いた!モモリさぁん!」
リクの大きな声に肩をびくりと震わせたモモリは、ソウの言うとおり天守閣の屋根の上で膝を抱えて座っていた。
「モモリさん!さっきはごめん!」
「獄炎の鬼神よ、わが想いに呼応し彼の者のまとう衣を白く染め上げよ・・・」
「ちょっまっ待って!ここで魔法放たないで!?国家間の問題が大きくなるから!」
リクの顔を認識した瞬間呪文を唱え始めたモモリに、リクは慌てて声を上げた。
「しかも今さらっと服だけ燃やそうとしたよね!?命残ってても尊厳が亡くなるからね?」
リクが本気で慌ててる様子にモモリは思わず吹き出す。
その表情は今までの中で見たことのないほどにほほを染めた微笑みだったため、リクは少し安心したように声をかけた。
「モモリさん、怒ってない?」
「普通に怒ってますが」
しかし我に返ったように先ほどの柔らかい笑顔は一瞬で消え去り、真顔で当然のように即答するモモリ。
そして小声でぼそりと何かをつぶやいた。
「・・・初めてだったのに」
「え!?」
「うるさい黙ってください」
モモリは冷たい声色に相反する震えた声で「一人でおりてくださいね」とだけ言うと、またテレポートで姿を消してしまった。
リクは天守閣の屋根の上でモモリの表情を思い出して悶えるように空を見上げた。
「くっそ・・・かわいいんだよなぁ・・・」
リクの声は誰に聞かれるわけでもなく空の彼方に吸い込まれていった。




