その果実の名前は
夕飯は王を上座に近しい者と客人が集まりとるのがこの国の習わしのようだ。
王の近くの席にはおそらく直系の家計の者が並んでいる。
その中にはトヲヤもいて、昼間の明るい様子とは変わって緊張した面持ちでまっすぐ前を向いている。
「今日は久方ぶりの客人を招いての夕飯だ。無礼講ではあるが、お互いに交易の場であるということは忘れぬよう」
王はそれだけ言うと箸を取り、手前の小鉢に手を伸ばした。
王が料理にはしを付けたのを確認してから周りの者たちも各々手を動かし始めた。
「食べていいんだよね・・・」
モモリも恐る恐る箸で目の前の皿に乗っている焼き魚をひとかけ、口に運んだ後、目を見開いた。
「・・・!おいしい!!」
モモリの目が輝いたのを見て、王の後ろに立っていた白い服の女性はほほをほころばせる。おそらく作りてなのだろう。
「このおさかなすごい身がほっくほくです!味の濃さもちょうどいい!ミレイさんもたべてみなよ!」
「・・ん!油がじゅわって出てきておいしい!!」
女性二人の明るい声に一種運ピリッとした空気が部屋に流れた。
「こほん。御客人よ、王の前ではしたなく声を出すのはいかがなものかと思うが」
おそらく分家の者であろう老人が少し苛立ちと緊張を覚えた様子で口をはさむが、トヲヤがそれを制した。
「おじさん、王が何も言っていないのならいいと思いますよ。何よりあくまで無礼講だとさっき言ってたでしょ?こんな暗い食事会俺も嫌だし」
「なっ、おじっ・・・」
「国の交流の場だということを真の意味で理解しているのは若い者だということがよくわかるな」
厳しい声が場をまた沈黙させる。
声の方に全員が注目すれば、少しだけ口元をゆがませた王が再度口を開いた。
「ここは通夜か?国同士の交流なのだからもっと話をすればいいものを。いつもなら二か国だが、今回は他の国の者もいるのだ。このような好機はそうそうないなだから双方十分に利用しなさい」
王は言いたいことだけ言ってまた料理を食べ始めた。
「あの・・・女性のお二方はお酒をたしなわれますか?」
メイドの一人がそう言いながらモモリとミレイに話しかける。
「私は甘いお酒大好きです!」
「私はあんまり飲まないけど、味は好きですよ」
モモリとミレイの酒の好みをメモするとメイドがいなくなり、同じ年ごろと思われる男の子が複数人、入れ替わるように話しかけにきた。
「初めまして!本家筋三男一家代表で来たんですが、同じ年代の者がいてよかったです」
「こんばんは!トヲヤから話は聞いてたよ!」
モモリはどうしたらいいかわからないといった様子であいさつを返すばかりで話を広げられず困り果てていた。
「あの、モモリさんでしたっけ、その名前の由来って何ですか?」
「そう言えば私も気になる!大陸だと珍しいなって思ってたんだ」
その言葉にモモリは固まる。
「え、えと、その、そんなに面白い話じゃ・・・」
「お酒が届くまでの暇つぶしにはなるって」
ミレイはそう言ってモモリの背中に手を当てた。
「・・・お母さんが『父親の好きな果物の名前を入れた』って言ってたのを聞いたっきりですよ・・・本当にそれだけ!」
「果物・・・」
そのときちょうどよくメイドが運ばれてきた酒は淡い桃色をしていた。
「これはこの国の象徴の一つであるモモのカクテルです。若いお二人も飲みやすいようにアルコールは弱めにしておりますの出安心してお飲みください」
「モモ・・・」
「大陸ではプラルアの実が一番近いかな。モモの方が甘いけど・・・モモリさん・・・あ?」
ミレイは自分で言った言葉に驚いてモモリの方に視線を戻した。
「モモ・・・モモリ・・・あっ」
モモリも一拍遅れてそのことに気が付いたのか、動きを止める。
「モモリ殿は後で話がある。トヲヤを迎えによこすから、食事会が終わったら部屋で待機していてくれ」
やり取りを聞いていたのか王の言葉がモモリの耳に届く。
慌てて視線で回りの様子を確認するも、王の声は他の者に届いていないようで変わらず談笑している。
「これは風魔法の応用だ。知りたければ状況によっては教えてやってもいい。では、夜に」
王の声はそれきり聞こえず、モモリはそれが気になってその先の雑談が頭に入ってこなかった。
モモリが混乱しているのを知ってか知らずか食事会は和やかな雰囲気で幕を閉じた。
とはいっても食事会が終わった後も誰一人解散することなく皆楽しそうに談笑していた。
メイド長が解散を促し怒声を上げるまで、その交流会は続いた。
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「ふう・・・」
ひとり用の湯舟につかりながらモモリは考え事をしていた。
『夜にトヲヤを迎えによこす』
「迎えにくる時間っていつなんだろう」
モモリは大きく体を伸ばし湯船から出ると、体を風魔法で乾かしながら服に袖を通した。
「モモリさん」
戸の外から声がする。
「トヲヤさんですか」
「うん。王から聞いてると思うんだけど、これから王の謁見室に行くから着替えできる?」
「そのつもりで着替えているから大丈夫です」
トヲヤはトヲヤとしてではなく、王の遣いとしてその部屋に現れたのだと気が付いたモモリは、表情をよりいっそうこわばらせたのだった。




