霧向こうの国
船着き場に船が付くと、人がばらばらと集まってくる。
その人々はみな驚きと嫌悪の表情を船の方に向けている。
「お久しぶりです。王にまずはご挨拶を・・・」
「我らを裏切っておいて今更何を言っているんだ。」
民衆の中でひときわ年を取った男がミレイの言葉を遮って静かにそう言った。
「すいません。その件についても説明を・・・」
「説明!?文すらよこさずに何を言っているんだ!!」
老人がさらに声を張り上げたその時だった。
「まあまあ長老。まずは話きこーよ!」
ふさふさした黒髪をゆらして一人の男性が長老と呼ばれた老人の方に手を置いた。
「俺が案内するよ!俺はトヲヤ。好きに呼んで!」
トヲヤと名乗った青年は一行を連れてルンルンと浮足だった様子で歩き出した。
モモリはミレイたちの後についていきながら、周りが自分の髪の毛を見てなにやらひそひそと会話しているのが気になっていた。
「あの髪、巫女とおなじ・・・」
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「よく来たね。実に5年ぶりかな?」
「いえ、7年です。こちらこそお久しぶりです。長いこと音信不通で申し訳ありません。こちらが今後の契約についての書面になります」
ミレイの正面に座る初老の男性は少し神妙な面持ちでひじ掛けに体重をかけるようにしながら、目を通していた手元の紙から視線をそらすようにまっすぐと正面を見た。
「・・・まあ、事情は分かった。ただ、民衆はそうはいかないんだよなあ。トヲヤ、何とかできるか?」
「え、俺!?俺そういうの苦手なんだよな・・・うーん・・・」
トヲヤは焦りながら頭を抱えている。
「そう言えば今回の同行者は前と服装が違うようだけど、どういった関係だい?」
王は困り果てているトヲヤをそのままに、興味深そうな様子でモモリの髪に注目するように見ながらミレイとルマルの後ろに座っている四人に声をかけた。
「あ、申し遅れました。俺はリクです。こっちの目つきの悪いのはヒロ、黒髪のエルフがソウ、そしてこっちの女の子はモモリさんです!」
リクが一気に全員のことを紹介すると王とトヲヤが目を丸くして一行・・・正確にはモモリを凝視した。
「モモリ・・・?」
「モモリって・・・まさか・・・」
その異様な様子にリクはとっさにモモリの方を見た。
モモリも何のことかわかアないといった様子で首を横に振った。
「・・・まぁまずこの話は後にしよう。元老院にこの紙を渡してくれ」
王は天井裏から降りてきた黒づくめの従者に声をかけ、小さなメモを渡すと、先ほどの穏やかな表情に戻り話をつづけた。
「あとは我々がなんとかするよ。長旅ご苦労様だったね。部屋を用意させているから、女性陣はツバキの塔、男性陣はボタンの塔を使用してくれ」
王はそれだけ言うと、侍女を呼びすぐに謁見室から出て行ってしまった。
侍女に連れられたどり着いたそれぞれの塔は絶妙に離れており、とっさに駆け付けたり合流ができないのではとリクやルマルは思っていたが、誰が聞いているかわからないだろうということで口をつぐんでいた。
「こちらがボタンの塔です。壁にある魔法板に魔力を流すと侍女の控室につながりますのでいつでもご入用の時はこちらからお願いします」
侍女の淡々とした声に返事をして荷物を下ろすと、リクは大きく伸びをした。
「なんか肩こったなぁ!・・・モモリさん達の方はどうなったんだろう」
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「ここがツバキの塔です。壁にある魔法板で呼び出しいただければすぐに侍女が参りますのでお申し付けください。これは客人用の塔同士での通信は出来かねますの出ご了承ください」
客室の説明を一通り終えて侍女が去ると、モモリとミレイは荷物をそれぞれ用意された加護に入れてからそれぞれ椅子に腰かけた。
「それにしてもまるで私たちが来ることがわかっていたみたいだったよね」
モモリの言葉にミレイは驚いた様子で聞き返した。
「なんで?」
「だってまるで宿を事前に予約した時みたいに部屋の人数割り指示までスムーズだったし」
「たしかに・・・」
ミレイはしばらく考え込むと、少し散歩をしてくると言って部屋からでていってしまった。
モモリはひとり部屋で荷解きを一足先に始めることにした。
ミレイが部屋を出てから数分後
「あの、モモリさんいますか?」
聞き覚えのある声がして、ミレイが扉の方を見ると、トヲヤが優しい笑顔を向けて立っていた。
「えーと、トヲヤさんでしたっけ?」
「・・・っ!俺の名前覚えてくれたんだ!」
トヲヤに犬の耳と尻尾の幻覚が見えたモモリは慌てて頭を横に振ってかあ再度トヲヤに話しかけた。
「あの、何の御用でしょうか?」
「君、ここの出身だよね?なんとなく同属の匂いがするんだ」
モモリの手から落ちた魔法鞄は床の上を音もたてず三度ほどはねた。




