星と月の子守唄(ワルツ)
大きなステージの真ん中に菫色のスポットライトが落ちる。
黒い影が一人の少女の形を作っていく。
「みんなー!」
ミレイの輝く笑顔とはじけるような元気な声を合図に花火があがる。
歓声を浴びてミレイはぐっと足に力を入れる。
リハーサルと同じイントロが流れ始め、ステージの全体が明るく光を放つ。
練習の成果がしっかり出ているのかステップも安定しており、水のように澄んだその声も観客の一人一人、客席を超えて村全体まで届いているかのように感じられる。
まるで大都会で行われる大手歌劇団のショーのように派手な演出は、見ている者たちを笑顔にしていった。
一曲目が終わり、軽く頭を下げたミレイにわあっといっとう大きな歓声があたりをつつみこんだ。
「まだ一曲目だよ!本番はこれから!最後まで私を見守ってね!」
ミレイはその元気な声色とは裏腹に、どこか寂しさをはらんだ瞳を星の瞬く群青色に向けた。
ライブもいよいよ佳境に差し掛かり、先ほどまでの明るい曲調からがらりと変わった。
澄んだ横笛の音とともに魔法の光が頭上の黒いランタンに集まっていく。
伝統を感じさせるメロディに打楽器の音が合わさり、ミレイを包み込んだ。
「っ・・・~♪」
ミレイの声がそこに重なると、雲に隠れていた月がまるで呼ばれたかのように顔を出す。
先ほどまでとはちがい、公用語ではなく砂漠に伝わる古代語の歌詞が緩やかな音楽と混ざり合って心地よく耳を刺激する。
船の前で荷物や船の最終チェックをしていた二人は聞こえてくる美しい旋律に思わず手を止める。
「この歌の歌詞ってどんな意味なんだろう」
「おいリク、すぐ脱線すんな。どうせあとで教えてもらえんだから」
「それもそうかぁ」
リクは少しだけ視線を彷徨わせてから再度ヒロの方に顔を向けた。
「ところで、モモリさんもソウも魔法のギミック発動のために舞台装置のお手伝いしてるからまだ来ないよね」
「そうだな。それがどうした」
リクは船の前であたりを見回してから一息置くと神妙な面持ちで話し始めた。
「そのね、誰にも言ってないんだけど、モモリさんの外套、俺のやつなんだよね。」
「前聞いた」
「え!?」
「なんで本人が忘れてんだよ・・・安心しろ、お前がロリコンだってことは黙っていてやるから感謝しろよ」
ヒロがそう言いながら鼻で笑う。
「へ!?ロッロリっ!?」
「あのなァ、モモリ何歳下だと思ってんだよ。そもそも寿命がちげーのによくまぁ・・・」
シンと沈黙があたりを包み込む。
「・・・そんなに驚くことかよ」
「え!?え!?」
「バレバレだ馬鹿野郎。他の連中も気づいてるやつは気づいてんじゃねーか?」
「まじかぁ・・・」
「ちなみにモモリは全く気が付いてないぞ。良かったな」
「嬉しいような嬉しくないような・・・」
リクはもじもじとした様子で視線をゆらす。
「気持ちわりいな。どこの乙女だよお前」
「だってだって!あの頃はまだほんの小さな子供だったけど、あの時貸した外套をずっと大切に使ってくれてて、二十年くらいたってるはずなのに覚えててくれて、うれしくないわけないじゃん!」
「貸した・・・?」
「あっ」
ヒロはあきれてものが言えないといった様子でため息をつくと荷物の確認を再開した。
鈴の音が三度ほどなり、最後のステップが地面に着地した。
「っ・・・」
ミレイが優雅なお辞儀をするとステージに闇が訪れる。
魔法の光をまとった黒光りするランタンが宙をふわふわと漂い、丸を描いてからミレイの前にとどまった。
ミレイはさっと立ち上がりランタンを横に浮かせたまま一歩一歩、歩を進める。
いつの間にか移動をしていたモモリとソウが、光の道を船に描いた。
その真ん中を、まるで月の女神のように漆黒の髪をゆらして歩く。
歩くたびに腰に揺れる鈴がしゃん、しゃん、と心地のいい音色を奏でる。
それを観客全員が見入るように口を閉ざして見守っていく。
「ミレイ、手を」
ルマルが差し出した手に、ミレイは自らの手を重ね、優しく微笑んだ。
船にはミレイ、ルマル、モモリ、リク、ソウ、ヒロの順で乗り込む。
全員が乗り込んだことを確認すると、船頭の柱にミレイは霧祓いの灯をかけ、その前に静かに座り、祈りを捧げた。
その祈りに反応したようにランタンの光がいっとう強く光ると、誰も漕いでいないはずの船がゆっくりと動き出した。まるで自動で道を感知しているかのように迷いのないその動きに、モモリ達は驚き目を見開いた。
そしてミレイはアカペラで先ほどとは違う古代語の歌を口ずさんだ。
その声に呼応するかのように船が速度を上げる。
たくさんの人が祈りを捧げながら見守る中で静かに船は月の光に照らされながら暗闇の中に消えていった。
その夜は霧の向こうに船が消えるまで、村人たちの祈りは続いた。




