レイとミレイ
霧祓いの巫女・・・特殊な魔力をもち、歌と踊りで月の神に民意を代理として伝える女性のこと。
夜空を写し取ったような見事な黒髪を長く風にたなびかせ、鈴の音とともに祈りを捧げる。
同じ髪色の子供が生まれるまでその仕事は永遠に続けなければならない。
58代目の巫女であるババリア・ハメルーンは59代目候補が生まれたと報告を受けた。
ついにこの長い仕事が終わるのかとたばこの煙を吐き立ち上がった。
ババリアが家を訪ねると、黒髪の双子がニコニコと可愛らしい笑顔で出迎えた。
「誕生日を重ねるごとに髪の色が濃くなっていたのは気がついていたんです。」
赤毛の母親がそう言ってハーブティーを入れた。
「ほら、レイ、ミレイ、挨拶して?」
「レイです。みこさまこんにちは!」
「ミレイです!!!!こんにちは!!!!」
双子は見た目はそっくりだが性格は正反対なようで、レイはしっかり者、ミレイは天真爛漫な様子が見て取れた。
「双子か、初めてのパターンだなぁ」
ババリアは二人に自己紹介をしてもらい、一度帰って考えるというと家を後にした。
村長なったばかりの青年が頭を抱えている。
「双子・・・双子・・・昔の文献にもこんな例は見たことないんだよな」
古い紙の束の前に二人でうなり声をあげる。初代から黒髪の少女は一定の周期に一人だけ、髪の色が唐突に変わることで現れるとしか書いていない。
あまりのイレギュラーな現象にババリアも村長も一睡もできず気が付いたら朝日が窓辺を照らしていた。
長老や先代村長に話を聞いてまわり、関係のない文献もあさり、最終的に歌と踊りの適正があり、魔法の才能がよりある方に巫女を引き継ぐことを決めた。
それを母親似伝えに行こうとしたある日の昼だった。
ババリアは双子の家に入ろうとしたときに一人の男とぶつかった。
男はババリアを一瞥してふんと鼻を鳴らすと、布の塊を抱えなおして足早に走り去っていった。
「レイ!!!」
ババリアが呆然としていると家の中からいつもは美しく手入れがされているはずの赤毛を振り乱した母親が叫びながら飛び出してきた。
後ろには顔が涙でぐちゃぐちゃになったミレイが立っている。
錯乱している母親をいったんなだめ、家の中に一度戻るように促すと、手土産として持って行っていた薬草茶を進めた。
「キッチンを借りるよ。さっき風魔法で村長に概要は伝えた。じきに捜索隊が出るさ。とりあえずこのお茶でも飲んで落ち着きな」
ババリアに出されたお茶をひとくち口に含んで、母親が口を開いた。
「先ほど、巫女様の使いだという銀髪の男が来て、レイを巫女にすることにしたと言い出したんです。早いうちから教育をするために今すぐ連れていくというので一日待ってほしいって言ったら・・・」
母親はそこまで言うとわっと泣き出してしまった。
ババリアと男がぶつかった時に抱えられていた布の塊はおそらくレイだったのだろう。
「抵抗できないように魔法か何かで眠らされていたのだろうか?」
「わかりません・・・」
「ミレイね、見てたよ!レイと握手したとき手のひらにぴかって模様が光ったんだよ!そしたらレイがボーっとして、ミレイのいたずらも無視したんだよ!」
無邪気な声が響き渡り、二人はバットミレイノ方に視線を移した。
「それは本当かい!?」
「うん!」
ババリアはミレイの目に映ったのは魔法の発動だとすぐに理解した。
「この子は巫女の才能がある。レイちゃんはどうかわからないけど。魔法の発動が視認できるということは発動前から対処できることが多い。レイちゃんを探すのと同時に、この子に巫女の稽古をつけてもいいかね?」
母親は言葉に詰まって何かを考えると、静かに頷いた。
「わかりました。この子をお願いします」
「ふふ、巫女の修行に住み込みなんてないよ。この家から通うことになるんだ。あとのことは任せな。」
ババリアはそう言って笑った。
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「とまあ、ずっと捜索は出してるんだけど、10年以上猫のひげすら見つからなくてね。
それでもミレイの母親との約束だ。まだ捜索は続けていたんだよ。まさか、月の教団で巫女としてすっかり洗脳が出来上がってるとはね・・・」
ミレイはすっかり忘れていたようで、ハッとしてから手首にまいていたアクセサリ―に視線を向けた。
そのアクセサリーは劣化こそしてはいるが角が丸く加工された白い陶器のカケラがビーズのように通された革のブレスレットだった。
「かなりショッキングな出来事だったからね。ミレイも5歳かそこらだっただろう?覚えていないのも無理はないさ。」
「8歳の頃、同じ顔の子にお守りってもらったんだ。まさかあの子が・・・」
「おそらくね。洗脳というのは恐ろしいほどの時間がかかる。洗脳される前に一度脱走でもしたんだろう。それをもらったのはどこか、覚えているかい?」
「そこまでは・・・あ、でも森で瞑想してた時だな・・・」
老婆・・・ババリアはミレイのその言葉に何か思い当たることがあったのか、棚から砂漠の地図を出した。
「砂漠には森なんてない。だが、新月の夜だけ、巫女だけが視認できる森が現れる。おそらくそこだろう。」
古い地図には赤いインクで丸が書かれていた。
月の森と書かれたそこは地図のど真ん中を示していた。
「あくまで森が現れるだけで何もないけどね。レイはこっちで保護しているし、お前さんの母親にも連絡済みさ。さあ、明日は本番なんだ。ミレイはさっさと寝な。あとは私たちがなんとかするから」
ババリアはミレイを無理やり客室に押し込み、就寝を促すと、レイをとらえている部屋に入っていった。
モモリは何となく気になったのでババリアについていくことにした。
ババリアはそれに気が付いていたようで、部屋の中にモモリも招き入れると、足枷をベッドにつながれたままでふてくされているレイに言葉をかけた。
「どこまで覚えている?」
「私は月の教団の最高権力者であり、新月の巫女だ。家族は黒い髪の巫女はひとりで十分と言って私を捨てたのだから本当の家族は教団の者に決まっているだろう!?」
「うーん、幼いころ捨てられたと言い続けられたのだろうな。」
ババリアは顎に手を当て悩み始める。
そんな中モモリは、レイの手首に陶器のビーズが通された革のブレスレットが目に入った。
「それ、そのブレスレット、ミレイさんがつけてた!さっき!」
「え、あぁ新月の森でもらったと言っていたな。お守りだと」
二人がそういっていると、レイはきっとにらみながらもその目に涙を浮かべ始めた。
いきなりレイが泣き始めたためモモリは自分の魔法鞄から焼き菓子を出し差し出すとそれを無言で奪い取り、泣きながら焼き菓子を食べはじめた。
それはミレイからもらった「お母さんの得意なお菓子」だった
「なつかしい・・・大好きな味だ・・・」
夜空に響くレイの泣き声はどこか過去を取り戻すかのような幼さが感じられた。




