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一夜限りの事件

レイはモモリの顎に手を添え、まっすぐと見つめた。

濃紺の瞳の奥に輝く金色の瞳孔はまるで夜空に浮かぶ満月のようだ。

その吸い込まれそうな魔力の籠った視線はモモリの脳に霞みをかけていく。


「・・・はっ」


危うく思考を放棄しそうになるも、すでに夜になっているのか肌寒い空気がその脳の霧を晴らした。


「ごめんなさい!私、そういうの興味ないんです!何より私は目的のために旅をしているので」


モモリがそう言って笑顔を向けると、レイはまさか言い返されると思っていなかったのか驚いたように目をぱちくりとした。


「なんと、我の魔法が効かなのか。相当魔力が高いと見た」


レイの様子に取り巻きの男たちは驚きを隠せない様子でうろたえている。


「あの、帰りたいんですけど、もういいですか?」

「ならん。お前を生きて返せばどんな不都合が起こるかわからん。敵にならないとここで契約をするのなら外出は認めてやらんこともない」

「いや、そうじゃなくてですね、ここ寒いし仲間を心配させてしまってると思うんで。」

「その仲間をこの教団に入れるのならいいが?」


一行に話が進まないことにイラついてきたのか、モモリの口調が荒くなってくる。


(~~~~~!話を理解してもらえない!)

「だーかーら!私は月の教団にも入らないし、関係ないんですから!部分的な記憶操作魔法でもさくっと使って個々の記憶消せばいいじゃないですか!!」


モモリの発言にどよめきが広がる。


「部分的な・・・記憶操作魔法・・・?」

「何言ってんだ?」

「さくっと使えるわけねーだろ」

「部分的に使うとか聞いたことないんだが?」

「こいつ頭沸いてるのか?」


モモリはなぜ周りが驚いているのかわからないといった様子で首をかしげている。


「ははは!お前なかなか面白いことを言う!そんな高等魔法技術を使えるものはこの砂漠に一人もいないさ!」


レイは笑いながら事情を話した。


「記憶操作の魔法自体、魔法を専門とする学び舎で指導を受けなければ使えないほど難易度が高いのさ。

まず濃縮された強い魔力を自在に使用できる人じゃないとそもそもの資質として難しい。

記憶を操作するうえで特に「一部だけの記憶」をいじるなら細かい操作をするための高い精神力も必要になる。それを簡単と言ってしまう君の能力はかなり高いのだよ。」


モモリはレイの説明にもあまり納得がいかないようで、眉間にしわを寄せている。


「そこまでさくっと言ってしまう君は高名な魔女か何かのではないのかな?」


レイは興味深そうにモモリの真っ黒な瞳を覗きこんだ。


「あー・・・一応旅に出る前は『海賊の魔女』とか呼ばれていましたね・・・魔法使いなだけで魔女じゃないんですけどぉ・・・」


モモリの消え入りそうな声にざわめきが大きくなる

中にはその名前を知っていると思われるような会話もちらほら聞こえてくる。


「ほう、ますます返せないようだな」


ざわめきを聞いてか、レイの瞳の光が強くなった気がした。


「いや、その、噂に尾ひれがついてるだけで!」

「そう謙遜しないで?さっきの記憶操作の魔法のくだりでだいたいわかる。改めて我が教団の攻撃のかなめに・・・」



大きな破壊音が響いた。



「なんだ、騒がしいな。」


破壊音がどんどん近づいてくる。まるでモモリ達の元へ一直線に向かっているようだ。


「さっさと対処しろ。」


レイは先ほどの柔らかい声色が嘘のように冷たくなり、まるで人を人として見ていないようなその表情にモモリは不安を覚えた。


しかし、破壊音はとどまることがなく、今にもモモリ達のいる部屋に届きそうだ。


「なぜ対処できないんだ!相手はひとりだと聞いたが!?貴様らは無能なのか?」


レイは黒い髪を振り乱し叫んでいる。まるで別人のようだ。

モモリはその様子のギャップに困惑したが、破壊音に交じる声に気が付き立ち上がった。


モモリの周辺に魔力が集まっていく。


レイはそれに気がつき止めようと動いたがすでに遅かった。


「貴様!何をする気だ!?今すぐ魔法の発動を取りやめろ!さらし首にされたいのか!」


「・・・月夜に踊る魅惑の精霊よ、その金粉で我に刃向けるすべての者に至福の夢を与えよ、夢魔乙女のしびれ粉(ルミナス・バタフライ)!」


モモリは杖がない中両手を広げて呪文の後に子守唄のような知らない言語の歌を続けて歌い始めると、モモリの体から金色の光の粒子が風に乗って部屋だけではなく部屋の外の通路まで飛んでいく。


「なんだ、これ・・・は!?こんな広範囲魔法・・・」


レイは苦しそうに言葉を残して意識を手放した。


モモリのいた部屋に土煙が舞う。


「おい、よそもの!何簡単につかまってんだ・・・ってえ?」


部屋に飛び込んできた銀髪の青年・・・ルマルが見たのは、モモリの足元に無数に転がっている月の教団の者たちの姿だった。

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