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白月の儀

「まずは、この村の祭事について説明するね。」


ミレイは真面目な面持ちで話し始めた。


「この砂漠に面しているひろーい海の向こうには陸の上からでも視認できるほど濃い魔力の霧がある。それは結構有名だよね。

その霧を無効化するのに必要な魔道具が霧祓いの灯(きりばらいのほのお)なんだけど、これはこの村の神事に必要なアイテムなんだ。」


ミレイはそう言いながら真っ黒なランタンを魔法で施錠されていた金属製の箱から取り出した。

その中にはひし形にカットされた紫水晶の宝石が入っている。


「これがその魔道具ね。」


「え」

「そんなにあっさり出していいのかよ」


リクとヒロの焦ったような声にミレイはけろっとしたように答えた。


「この部屋には特殊な結界が貼ってあるから大丈夫だよ~」


「これを月の下でミレイが祭事で手にもって踊るんじゃよ。魔力を流すと中にある宝石が燃えて、それが霧を無効化させる煙を出す。完全に煙が船に映ったら、ミレイと、その年に選ばれた者たちが霧向こうの国『カイモリノ(くに)』に出発する。」


村長がミレイの言葉に続いて祭事の説明をする。


「ほう。その魔力は誰でもいいのかい?」


ソウは録音用の魔道具をいつの間にかテーブルの上に出し、質問を投げかけた。


「だれでもいいならこんなに大々的な祭事なんぞせんわ。一年で一番月の丸い夜に星空を身にまとった乙女の魔力を使わなければならない。」

「星空を身にまとった乙女・・・」


村長は軽く咳払いをするとつづけた。


「まあミレイやモモリさん、そしてー」

「月の教団の教祖と名乗っているレイという女」


ミレイの言葉に村長の方を見ていた三人がミレイに向き直る。


「月の教団は、あの魔力の霧を月の光を通さない忌むべきものとしている、私たちと同じ月の女神を信仰しているはずの宗教なの。でもあの宗教は教祖のレイという女以外は銀髪に銀の瞳砂漠で一番暗い肌の色、八割が男という単一民族で構成されているわ。」


「もしかしてルマルさんって・・・」

「リクさんの想像してる通りだと思う。彼はこの家の入口にかごに入れられて捨てられていたから出自はわからないけれど、肌の色以外はほとんど特徴が合致しているから。」


ミレイはリクの問いに答えてから一度唾を飲み込んで言葉をつづけた。


「でもあの目の色と肌の色でしょ?たぶん何か事情があるんだろうなっては思うんだけど彼から話したいと思えるまで、私は待つって決めたんだ。・・・お姉ちゃんだから

・・・まぁ、あの子が自分の出自に気が付いてるかもわからないけどね!」


ミレイの笑顔はどこか弱々しく、先の不安を隠そうとしているようにも見えた。




かれこれ話し始めて30分は経っただろうか。先ほど部屋を出て行ったルマルは一向に戻ってこない。


「そういえばさ、ルマルさんて、自分の出自についてどのくらい知ってるのかな?」


リクが口を開いた。


「さあ?少なくとも私はそんな感じの様子は見た記憶ないな。」


ミレイもわからないといった様子で不安そうな表情を崩せないままでいる。


「じつはのお、あの子が入れられていたバスケットに両親の名前が書かれた手紙と、『ルマル』と刺繍されたハンカチが入っていたんじゃ。ハンカチだけはあの子に渡したが、もしかしたらその手紙を見てしまっている可能性はある。確かわしの部屋の引き出しにしまってあるはずなんだが・・・」

「今すぐ見に行って!」


ミレイは食い気味な様子で大声を上げた。


「わ、わかったから落ち着きなさい。」


村長はミレイに急かされて急ぎ足で部屋を出て行った。

さてどうした者かと重苦しい空気があたりを包み込む。その時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ふん、よそ者はまだここに居座っていたのかい?さっさと出て行っとくれ!」


老婆は村長と入違いで入ってくるなりリクたち三人を睨みつけた。


「おや、あの茶髪の小娘は帰ったのかい」

「あ、ババ様、その・・・」


ミレイは老婆に先ほどまでの出来事を説明していった。


「月の連中がミレイと間違ってあの小娘を連れて、ねぇ?代わりにさらわれてくれてよかったじゃないか!」

「オイばぁさん!何言ってんだ!」


ヒロは愉快そうに笑っている老婆の襟元をつかんで怒鳴り声をあげた。


「ふん。祭事にこの子がいない方が大変なんだ。終わってから助ければいいだろう?」


老婆はふんと鼻を鳴らして怖がる素振りも見せずに睨み返す。


「お嬢さん、僕たちは霧の向こうに用事があってね。彼女にもかかわりのある事だからそうもいかないのだよ。」


ソウの言葉に意味が分からないといった様子の老婆は、ヒロの手を振り払うと、テーブルの上にある霧祓いの灯(きりばらいのほのお)に手を伸ばした。


「それならなおさら協力できないよ。これはこの村のもんだ。よそもの連中で交流船の定員が埋まるなんざごめんだね」


老婆はイライラを隠しきれない様子でそのまま部屋を出て行ってしまった。


「あっ」


ミレイが止めるまもなく老婆は足早にいなくなってしまい、そこには何も言えないまま固まっている四人だけが残されてしまった。


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