月の教団
(おかしい。モモリさんがお茶のお代わりをもらうためにと席を立ってから帰ってこない。)
リクはそわそわとした様子で手元の焼き菓子を見つめていた。
隣に座っているヒロも同じ違和感に気が付いているようで二人は何度も目が合った。
(さっき部屋の時計を確認したけど、もう一時間は立ってる・・・いくら方向音痴と言えど迷子になるほど大きな家じゃない。)
「そういえば、モモリ君がいないようだがお手洗いかね」
魔法談義をしていたソウが急に村長に問いかけると、その場に板全員がその異変に気が付いた。
「あれ?ほんとだ。」
「さっき茶のお代わりをもらうために厨房?台所?探しに行くって言ったっきり一時間は帰ってきてないよ」
「え、この部屋から出たの!?」
ミレイの大きな声に一同はびくりと肩を震わせた。
「最近、祭事を執り行うことに反対する若い勢力が出てきて、もめてる最中なの。それで大事になった時捕まえた人に話を聞いた時何でも私を守る?のが目的みたいな頭おかしいこと言ってたからもしかして・・・・」
「黒髪・・・」
「モモリ君とミレイ君は背格好も髪の色、長さもあまり変わらないからね。目の色と性格、肌の色は違うが、後ろから見たら見間違える人はいるだろうね。」
ソウの言葉にルマルがすぐに部屋を出て行く。
「え、ルマル!?」
ルマルは足が速く、誰も止めるまもなく部屋からいなくなってしまった。
「ど、どうしようどうしよう!モモリさんが!」
リクはすっかりパニックを起こしていて、部屋の中を忙しく歩き回っている。
「うるさい。落ち着け。気持ちはわかるが慌てても何も始まらねーよ」
「うむ、ヒロ君の言う通りだ。まずは今回のその反対勢力とやらについて教えてくれるかな?お二方」
ソウは目の前にいる村長とミレイに鋭い視線を向けた。
______
異常なほどの寒気にモモリは目を覚ました。
「おい、こいつの肌の色・・・」
「ペイントもないぞ?どうなってるんだ!」
「このままだと教祖様に殺されてしまう!」
「しかしこのまま生かして返せばここのことをやつらにばらされてしまうやも・・・」
何やら光の向こうで声がする。
その声はなんだか焦っている様子で複数人で会議をしているようだった。
「ふあぁ」
モモリが起き抜けに大きなあくびが我慢できず声をあげてしまうと先ほどまでの話声がぴたりとやんだ。
「起きたのか!?アレかなり強い魔法薬なのに・・・」
「こうなったら黙らせるしか・・・」
モモリの方に複数の足音が聞こえてくる。そしてあっという間にモモリの目の前には屈強な男たちが何人も集まってきて囲まれてしまった。
「えと、ここどこですか?」
モモリののんきな質問にやりにくそうな顔をしながらも、男たちは答えた。
「ここは月の教団だ。教祖である地の神の巫女であるレイ様に仕える夜の民だ」
「忌まわしき霧との交流など、そんなものは許されるはずがない!」
「レイ様と同じ漆黒の夜を閉じ込めた髪をもつ娘よ、お前はいったい何者だ?」
モモリは男たちを観察した。するとある共通点があることが分かった。
銀髪に銀色の瞳、肌の色は褐色だが、ミレイたちの村の人たちよりは色が濃い。
「ルマルさんと同じ色・・・」
モモリは思わずつぶやいた。
「ルマル?あぁ。村長の用心棒の若造か。あれはおそらく教団で産み落とされた忌み子だろう。」
忌み子という言葉にモモリは静かに握る拳の力を強めた。
「何年か前に忌み子を産んだ夫婦が折檻にあったな。子供が見つからなかったと拷問担当のやつらがキレていたがあいつだろ。忌まわしき太陽をつかさどる宝石をその目に宿したんだからな。しかも肌の色も我らより薄い。月の神とその巫女様に対する冒とくでしかないのだから」
「・・・しろ」
「あ?なんか言ったか」
「今すぐその口を閉じろ」
静かな怒りの声と供に冷気が薄暗い部屋に充満していく。
「なんだこれは・・・魔法か!?」
「杖が無いのにどうやって!」
男たちの声は恐怖にまみれ、逃げ出そうとするものまで見て取れた。
「そこまでです」
凛と澄んだ女性の声が聞こえた。
その瞬間とてつもない重力がモモリを襲う。
「あっ」
脳内詠唱が途切れたのか、冷気は消え去り、モモリの前には真っ白な薄い布を何重にもまとった黒髪の女性が真っ赤な口元をゆがませて立っていた。
「太陽の巫女を保護したと聞いたから来たのに、見たこともないよその国の小娘しかいないわね?本物はどこ?」
女性は冷たい声で男たちに問いかけるも、男たちは恐怖からなのか震えて一言も発せず固まってしまっている。
「発言を許してるのだからさっさと答えなさい。八つ裂きにされたいのかしら?」
「は、はい!村長の会議室から出てきたこの者の後ろ姿を若い衆が誤認して連れ帰ってきました!しかしこのまま返すわけにもいかず至急話し合いを行っていたところで・・・ぎゃぁぁぁ!」
口を開いた男は報告をしながらどんどん老け込んでいき、最後は体が燃え、腐り果て目玉を飛び出した様子で動かなくなった。
まるで墓地やダンジョンに出現するアンデットモンスターのゾンビのような姿に他の男たちも震えて縮こまってしまっている。
女性はモモリも前でしゃがみ込むと、その目をじっと見つめてほほ笑んだ。
「なんという素晴らしい瞳だ。その髪と相まって何とも美しい。どうだ?我と一緒にこの砂漠を統治せぬか?」
モモリは驚きとショックで口をパクパクさせるしかできなかった。




